1997年製作、エーリク・ショルビャルグ監督の同名のノルウェー映画「 インソムニア 」のノーラン版リメイク。
ただの焼き直しではなく、キャラクターや物語も複雑になっているので、見る価値大いにあり。
インソムニア

あらすじ
アラスカ・ナイトミュート。夏は24時間太陽が沈まないその町で、17歳の少女の変死体が発見される。翌日、ロス警察のウィルが相棒のハップとともに応援にやって来る。今までの豊富な経験を駆使し、犯人をおびき出す方法を思いつくウィル。やがて思惑通り、海辺の小屋に犯人が姿を現わす。しかし、深い霧に犯人を見失ったウィルは誤って相棒を射殺してしまう。自分が射殺した事実を地元警察に告白しそびれたウィルは白夜も相まって不眠症に陥る。不眠が続いて3日目の早朝、ウィルのもとに少女殺しの犯人から電話がかかってくる。
公開日
2002年9月7日
原題
Insomnia
上映時間
118分
キャスト
- クリストファー・ノーラン(監督)
- アル・パチーノ
- ロビン・ウィリアムズ
- ヒラリー・スワンク
- モーラ・ティアニー
予告編
クリストファー・ノーラン作品(一覧)
- Following(2001)
- メメント(2001)
- インソムニア(2002)
- バットマン ビギンズ(2005)
- プレステージ(2006)
- ダークナイト(2008)
- インセプション(2010)
- ダークナイト ライジング(2012)
- インターステラー(2014)
- ダンケルク(2017)
- TENET(2020)
- オッペンハイマー(2024)
感想レビュー

好きだった点
原作よりも、アル・パチーノ演じる主人公の刑事の置かれた状況がより複雑になっている点。
ロビン・ウィリアムズを犯人に置いたというキャストの妙。
嫌いだった点
特にはないが、敢えて挙げるとするならば、エンディングは原作とは違って結末がモヤモヤする人が一定数いると思う。(原作がモヤモヤしないかと言えばそうではない)
これも原作映画を比べてになってしまうが、原作映画における白夜の光の眩しさは今作よりも強烈であり、
あの明るさは本当に素晴らしかったので、その点が個人的にはマイナスをつけてしまうところ。
ノルウェー(原作)とアラスカ(今作)の環境差もあるのかもしれない。
見どころ
前述した、主人公の状況が複雑になったことにより、犯人を捕まえたいが捕まえると自分の罪が暴かれる恐れがあると共に、
過去に捕まえた凶悪犯までもが釈放されてしまうという危機感が、より強くなっている点は見事な改変であると思う。
またその複雑さが、白夜に慣れない中、罪の意識も相まって眠ることが出来ず朦朧(もうろう)とする意識の中で、
仲間を撃ってしまったのは本当に誤射だったのか?
故意だったのか?
判断がつかなくなっていく様は秀逸である。
ヒラリー・スワンク演じる、主人公に憧れる女性刑事の真っ直ぐな姿勢も彼を追い込む要素の1つとしており、これもまた良い。
キャストについて言及すると、普段明るく優しい「 陽 」そのもの、といったイメージの役を演じることが多いロビン・ウィリアムズを犯人役に置いたことはとても興味深い。
人好きのいい笑顔の下に隠した静かな凶暴性が発露するシーンには、明るいロビン・ウィリアムズしか知らない方ならゾクゾクと背筋が冷たくなることだろう。
ファンとしては、何度も聞いたあの優しい声音から犯罪のすべてが語られていくことに何とも言えない興奮を覚える。
考察・疑問点

モーラ・ティアニー演じる宿屋の女レイチェルが、「 アラスカには2種類の人間がいる。ここで生まれた人と、何かから逃げてきた人。私は後者よ 」と言う。
なぜ逃げてきたのか?
やはり疑問に思うし何も描かれないので気になる点ではあるが、その一言だけで彼女のバックボーンやその街の空気や閉塞感を想像できるので、気に入っている台詞の1つである。
正義側に身を置きたいのに、結果的に悪に加担することになってしまうこと、
地位や立場から自らの罪を隠さなければならないこと。
環境も相まって眠れない中で、どんどん判断力が鈍っていき朦朧(もうろう)としていくアル・パチーノの表情から、見ている側もズルズルとこの悪循環にハマっていく。
犯人を捕まえる、捕まえないという分かり易い構造のサスペンスではなく、主人公の心の葛藤にフォーカスをしている作品だが、そもそも主人公の心が覚束ないという、
ジリジリと先の見えない感覚も中々いいのでオススメだ。
原作とのエンディングの違いは、見ているものの正義感・倫理観を揺さぶるかもしれない。
どちらがよりよい終わり方だと思うか?
1人1人に聞いて回ってディスカッションしたくなる作品である。
また、この作品の製作にソダ―バーグ監督とクルーニーのタッグが関わっていることを知り、「 ああ… 」となぜか納得がいったのは私だけではないと思う(笑)
まとめ

ノーラン監督ファンとしては「 脚本がノーラン監督ではないから 」と一歩引いてしまうかもしれないが、よくできたサスペンスなのでご覧あれ。
もし余裕があるなら、原作のエーリク・ショルビャルグ監督のリメイク版「 IT 」のビル・スカルスガルド、
「 バトルシップ 」のアレクサンダー・スカルスガルドの父、ステラン・スカルスガルド主演もご覧いただき、是非違いを楽しんでいただきたい。