ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット
あらすじ
スーパーマンの壮絶な犠牲を決して無駄にしてはならない。ブルース・ウェインはダイアナ・プリンスと手を組み、迫りくる破滅的な脅威から世界を守るために超人たちのチームを作ろうとする。だが、その困難さはブルースの想像を超えていた。彼が仲間に引き入れようとする一人ひとりが、乗り越えがたい壮絶な過去をもつために、その苦しみからなかなか前に進めないでいたからだ。しかし、だからこそ彼らは団結することができ、ついに前例のないヒーローたちのチームを結成する。バットマン、ワンダーウーマン、アクアマン、サイボーグ、そしてフラッシュは、ステッペンウルフ、デサード、ダークサイドとその恐るべき陰謀から地球を守れるのか、それとも時すでに遅しなのか……。
公式サイトより引用
原題
Zack Snyder’s Justice League
公開日
2021年5月26日(デジタル配信開始日)
上映時間
242分
キャスト
- ザック・スナイダー(監督)
- クリス・テリオ(脚本)
- ベン・アフレック
- ガル・ガドット
- エズラ・ミラー
- ジェイソン・モモア
- レイ・フィッシャー
- ヘンリー・カヴィル
予告編
公式サイト
ファンの声で実現した奇跡
「 ジャスティス・リーグ 」は、バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン、アクアマン、フラッシュ、サイボーグというDCコミックのスーパーヒーローたちが結集して、宇宙からの侵略者に立ち向かうアクション大作。
ライバルのMCUでは一足先に「 アベンジャーズ 」シリーズが作られていたが、そのDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)版のようなものだ。
ザック・スナイダーは、「 マン・オブ・スティール」(2013)「バットマン vs スーパーマン」(2016)でDCEUの舵取り役の位置にいたが、ダークで重厚な作風で知られる作家性の強い監督だ。
本作の製作中、ワーナー・ブラザースの上層部から、よりコマーシャルでヒット性の高い作品を求めるよう強いプレッシャーを受けていた。
そこに娘の自殺という個人的な不幸が重なったため、スナイダーは「 ジャスティス・リーグ 」のポストプロダクション中に監督の座を降板してしまう。
代打として起用されたジョス・ウェドンは、スナイダー版の雰囲気を大幅に変え、2017年に120分の「 ジャスティス・リーグ 」を完成させるが、批評的にも興行的にも失敗に終わった。
個人的には、そちらも嫌いではなく、普通以上に面白い作品だと思っている。
だがMCUの「 アベンジャーズ 」シリーズに比べると、ドラマ的にもスケール的にもだいぶ見劣りすることは否めない。
そこでファンの間ではザック・スナイダー本来の構想に基づいた作品を完成することが切望され、ネットでの署名運動も起きる(筆者も署名した)
当初は「 そんなものは実在しない。今からそれを完成させるなど夢物語 」という話だったが、情報は二転三転した末、スナイダー自身が「 実在する 」と公言。
視覚効果などポストプロダクションに3000万ドル程度の追加費用がかかるが、ともあれ実現は可能という話になり、製作が始動。
2021年にHBO Maxで配信リリースされることとなった。
日本でも配信が開始され、6月にはBlu-rayなどのフィジカルメディアも発売された。
筆者が見たのはBlu-ray版である。
ジョス・ウェドン版とは別物のドラマ
紆余曲折を経て、ついに登場したザック・スナイダー・カット。
同じ「 ジャスティス・リーグ 」でありながら、ジョス・ウェドン版とはまったくの別物に仕上がっていることに驚いた。
もちろん物語の大枠は同じだが、バトルシーン以外は大半が初めて見る映像ばかり。
ジョス・ウェドンが撮ったショットは全く使われておらず、なおかつ追加撮影はエピローグのなどほんのわずかということなので、一体どれだけ未発表のフッテージがあったのかと驚きの連続だ。
先述のとおりもジョス・ウェドン版も決して嫌いではないのだが、比較してしまえば、ザック・スナイダー・カットはあらゆる面で別次元にある。
本作がこれだけ面白くなったのは、各キャラクターの背景や行動の動機が丁寧に描き込まれ、ドラマとしての奥行きが出たことによる。
この点においてウェドン版とは桁違いだ。
中でも注目すべきは、本作がほぼ初登場となるサイボーグ。
最もドラマ的な見せ場が多く、ヒーローとしての成長物語が描かれている彼こそ、本作の主役と言って過言ではない。
6人の中で、今に至るも彼だけ単独映画が作られていないのが残念なほどだ。
後にジョス・ウェドンは、出演者たちへのパワハラ的な言動を非難されることになるが、特に舌鋒鋭かったのがサイボーグを演じたレイ・フィッシャーだ。
返す刀でワーナーやDCの重役たちも非難し、DCと袂を分かった。
2つのバージョンにおけるサイボーグの扱いの違いを見れば、非難したくなるのも当然だろう…と思ってしまう。
アクアマンも、ウェドン版が公開された当時はあまり馴染みがなかったキャラクターだ。
ところが翌2018年に公開された単独作「 アクアマン 」は、文句なしのエンタテインメントとしてDCEU史上屈指の傑作だった。
アクアマンへの親しみが桁違いに大きくなっていたことも、スナイダー・カットへの評価に大きな影響を与えている。
マーベルは、主要キャラを単独映画などで登場させ、キャラクターに馴染みを持たせた後、総決算として「 アベンジャーズ 」シリーズを作っていった。
それに対してDCは、6人のうち3人、アクアマン、フラッシュ、サイボーグらの登場する映画を作らぬまま「 ジャスティス・リーグ 」を先に出したため、好きなキャラが結集するお祭り感に乏しかった。
その中でも特に馴染みの薄いサイボーグのドラマを大幅にカットしてしまいバランスを欠いたことも、ウェドン版不評の一因だろう。
重厚でありながら熱血の王道展開
そして本作の最も優れている点は、6人のヒーローがチームーワークによって戦っているのがハッキリ分かることだ。
単純な戦闘力では、もちろんスーパーマンが最強。
しかしスナイダー・カットで描かれた最終決戦を見れば分かるとおり、かなりチートな能力を持つサイボーグとフラッシュの若者コンビがいなかったら、スーパーマンも含めて地球は滅亡していた。
特殊能力を持たず、単純な戦闘能力では最弱なバットマンも同様だ。
優れた知性と調整能力でチームをまとめ上げる彼がいなかったら、そもそもジャスティス・リーグなど存在しない。
それぞれのキャラに余人を持って代えがたい役割があり、誰が欠けても勝てなかった。
あの6人が、それぞれに葛藤しながら最後には1つにまとまり勝利を掴むことになる。
まるで少年漫画の王道のごときストーリーが熱い。
ウェドン版ではただの脳筋にしか見えなかったステッペンウルフも、行動の動機が明確になったことで、格段に魅力的なヴィランとなった。
実は戦闘能力においてはスーパーマン以外に勝てる相手はいないほどの強敵。
その彼が畏怖することで、ラスボスであるダークサイドの強大さも伺い知れる見事な構成だ。
それでもなお見果てぬ夢…
そんな見事な傑作、ファンが夢にまで見たザック・スナイダー・カットだが、欠点もある。
まず上映時間が流石に長すぎて、前半はいささか冗長に感じるところもあった。
このドラマ的な深さを失うことなく、せめてもう30分ほど短くできなかったものだろうか。
だが最大の問題は、あのエピローグだ。
ネタバレを避けるため内容については語らない。
もう続編は決して作られないという現実があるにも関わらず、「 一刻も早く続編が見たい!」と誰もが思ってしまう長いエピローグを、この期に及んで平気でつけてしまうのは、あまりに残酷過ぎはしまいか。
しかもあのキャラクターは、スナイダー・カットのために新たに撮影したというのだから、意地悪にもほどがある。
ここまで誉めてきた本編の印象さえ吹き飛ばすほど衝撃的なエピローグと、しかし続編は作られないという現実は、本作の最大の欠点であり、同時に最大の魅力でもある。
「 ジャスティス・リーグ 」のその後の物語は、ファンの永遠に見果てぬ夢。
さながらミロのヴィーナスの失われた両腕のようだ。
もしこの作品が最初の予定通り完成し、二部作のような形で公開され、順調に続編が作られていたなら、その後のDC映画、ひいてはアメリカ映画全体が大きく変わっていたことだろう。
文・ライター:ぼのぼの