ザ・フラッシュ
あらすじ
母親の殺害を防ぐために過去へとタイムトラベルしたフラッシュ。しかしその過程で、彼は知らず知らずのうちにマルチバースを生み出してしまったいた。
原題
THE FLASH
公開日
2023年6月16日
上映時間
144分
キャスト
- アンディ・ムスキエティ(監督)
- クリスティーナ・ホドソン(脚本)
- エズラ・ミラー
- サッシャ・カジェ
- マイケル・キートン
- マイケル・シャノン
予告編
公式サイト
DCEUシリーズの終焉(打ち切り)
会社の合併やCEOの交代といった事情に、作品の興行的な不振も加わり、2023年の「 アクアマン / 失われた王国 」をもって終了となったDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)
現在はジェームズ・ガンの指揮のもと、新生DCユニバース(DCU)が動き出しているが、お気に入りのキャラを中途半端な形で封印されてしまったDCEUファンは、この新体制にむしろ厳しい眼を注いでいる。
目論見どおりの起死回生となるかどうか、先行きは不透明だ。
そんなDCEU最後の超大作と呼べるのが「 ザ・フラッシュ 」だ。
製作費は2億ドル以上。
公開前にはスティーヴン・キングやトム・クルーズなどの著名人が大絶賛し、「 スーパーヒーロー映画の最高傑作 」という評判が伝わってきたため、映画ファンの注目が集まり、興行的な成功も期待された。
ところが公開が近づくと、ファンからの期待値も興行的なポテンシャルも急降下。
公開後最初の週末に全米で1億2000万ドルを稼ぐと期待されていたのが5500万ドルにとどまった成績を、米バラエティ誌の記者は「 大惨事 」と表現している。
最終的な興行収入は全米で1億ドル強、全世界で2億7000万ドル程度。宣伝費なども考慮すれば明らかな赤字ということだ。
内容的な評価も決して高いものではなく、IMDBのスコアは6.7。
ROTTEN TOMATOESでは批評家スコアは63%、観客スコアの方は83%とさほど悪くないものの、こうなると「 スーパーヒーロー映画の最高傑作 」という前評判は一体何だったんだという話になってくる。
DCEUの要素が新生DCUにどの程度受け継がれるか / 受け継がれないかについてさまざまな情報が飛び交ったが、現在の情報ではどうやらほとんど受け継がれず、一からの仕切り直しとなるらしい。
少なくとも「 ジャスティス・リーグ 」のメンバーに同じ俳優で再会できる可能性は極めて低そうだ。
「 ザ・フラッシュ 」の大惨事が、その決定に大きな影響を及ぼしたことは間違いないだろう。
面白いのだが、なぜか文句を言いたくなる不思議
そんな「 ザ・フラッシュ 」だが、実際にはどんな作品なのか?
面白いか面白くないかと言えば、実は結構面白い。
だが異常なほど高い前評判からすると、「 こんな程度?」という肩透かしを覚えるのも否めない。
全体の苦いテーマはよく分かるし、共感もする。
だがそれが詰め込み過ぎなストーリーに埋もれ気味で、フラッシュことバリー・アレン(エズラ・ミラー)の最後の決断も、感動を呼ぶまでには至らないのが残念だ。
「 平均よりはずっと面白く、小ネタだらけで笑える 」というのが順当な評価だろう。
ところが妙なことに、具体的なことを語ろうとするとなぜか文句ばかりになってしまう、そんな不思議な映画でもある。
本作は、ざっくり言えばタイムパラドックスものでありマルチバースものだ。
光速より速く走ることで時間を逆行できることに気づいたバリーが、過去に戻って母親の死を防ぐが、それによって大きなタイムパラドックスが発生。
DCEUでは「 マン・オブ・スティール 」のヴィランとして登場したゾッド将軍(マイケル・シャノン)が、スーパーマンのいない地球に侵攻してきて、人類は滅亡に瀕することになる。
そこでバリーと手を組むのが、別の世界線にいるもう1人のバリー。
スーパーマンならぬスーパーガールことカーラ・ゾー=エル(サッシャ・カジェ)。
そしてベン・アフレックではなくマイケル・キートンが演じる(つまりティム・バートン版の)バットマンことブルース・ウェインだ。
しかしゾッドが率いるクリプトン軍は極めて強力で、ヒーローたちは苦戦を強いられることになる…
すでに述べたように、本作の大きな問題点は、あまりにいろいろな要素を詰め込み過ぎたことだ。
スーパーヒーローものであり、タイムパラドックスものであり、マルチバースものであり、青春ものであり、コメディであり、純然たる悲劇であり、山のような小ネタに満ちたDC作品のファンムービーでもある。
残念なことに、それらが必ずしもうまく結びついておらず、1本の映画として消化不良に陥っている。
マルチバース / タイムパラドックスものとしての構造は「 バタフライ・エフェクト 」に非常によく似ているのだが、そちらと比較すれば一目瞭然で、本筋以外の要素があまりに多すぎる。
そのため「 バタフライ・エフェクト 」ほどストレートな感動を呼ぶに至らない。
キャラクターの魅力が活かされていない(特にゾッド将軍とスーパーガール)
さらに残念だったのは、ゾッド将軍とスーパーガールが予想以上に記号的な存在でしかなく、人間的なドラマをほとんど背負っていなかったことだ。
本作の予習として「 マン・オブ・スティール 」を見直した後だけに、ゾッド将軍の書き割りのごとき悪役ぶりには特にガッカリした。
10年ぶりに同じ役を演じたマイケル・シャノンがインタビューで「 今回の演技はやり甲斐がなかった 」と不満を漏らすのも当然だろう。
スーパーガールを演じるサッシャ・カジェは、ラテン系のルックスが今までにない新鮮さで、出て来た時は期待したのだが、最終的には「 何のために出て来たんだ 」レベル(ネタバレになるので詳しい理由は述べない)
それに対して30年ぶりに復活したマイケル・キートンのバットマンは、予想以上の大活躍。
ガッツリとドラマの中心に位置していたが、あのような昼の屋外での活躍はバットマンに似合わないことも痛感した。
細かい部分でも山ほど突っ込みどころがあるのだが、特に気になり、それだけで作品の格が落ちたと思えるのが、ゾッドと米軍が接触してからの時間進行だ。
そこからフラッシュたちが参戦するまでに、一体どれだけの時間が経っているんだ?
流石ににあれはおかしいだろう。
総じて言うなら「 マルチバースSFとしては、いろいろな意味で納得できる。だがその設定や物語がアメコミヒーローものという枠とうまく融合しておらず、結果スーパーガールやゾッド将軍、バットマンというキャラクターの魅力を殺してしまった 」ということになる。
小ネタの嵐は是か非か
全編が小ネタとカメオ出演の嵐なのには大いに笑える。
笑えるのだが、それらは作品内の物語ではなく、さまざまなDC作品が存在する現実世界の視点に立った面白さなので、物語への没入や共感を妨げる。
どうしてもメタ的な楽しみ方となってしまうのだ。
特に終盤、ある俳優の演じるスーパーマンが出たときには「 そんなネタまで拾ってくるのか!」と笑ってしまったが、
あの辺はもう悲劇的なトーンになっている場面なので、そこに笑えるネタをぶち込んでくるセンスもいかがなものかと思う。
総じてコメディとシリアスのバランスが悪い。
ただその手の小ネタで文句無しのホームランと言えるのは、ラストのあれ。
さすがに「 ええっ!?」と声を出してしまった。
そしてしばらくして「 いや、確かにこの流れならこの人が出てきて当然でしょう!」ということに気がついて、1本取られた気分だった。
しかし全体的に言えば、小ネタの嵐が作品本来の感動をむしろ奪う結果になっているのは事実だ。
やはりDCEUの最高傑作は、ザック・スナイダーの「 マン・オブ・スティール 」「 ジャスティス・リーグ ザック・スナイダー・カット 」そして「 アクアマン 」の3本だ。
「 ザ・フラッシュ 」は、何だかんだ言っても面白いので、その次くらいのランクには位置するが、あまりに前評判が高かっただけに、それに見合う満足は得られなかった。
文・ライター:ぼのぼの