【 完全網羅 】ナ・ホンジン監督映画作品まとめ

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文・ライター:UK

長編デビュー作「 チェイサー 」が韓国国内でいきなり観客動員500万人の偉業を達成し、

続く2作目の「 哀しき獣 」ではカンヌ国際映画祭の「 ある視点 」部門に正式出品。

3作目の「 哭声/コクソン 」は、韓国最大の映画の祭典・青龍映画賞で監督賞など主要部門を総ナメし、

海外の数多くの映画祭でも上映され高く評価されるなど

近年飛躍的に大きな発展を遂げている韓国映画界でも、今後の活躍が期待される気鋭の映画監督ナ・ホンジン。

2022年に日本国内の劇場でも公開された、プロデュース作品「 女神の継承 」はアカデミー賞国際長編映画賞部門のタイ代表にも選出。

そんなナ・ホンジンが仕掛ける恐怖とエンタメを見事に掛け合わせた独特の作品群を、一つずつ振り返っていきたい。

目次

ナ・ホンジン作品一覧

©黄海

ナ・ホンジンの監督映画作品は下記の通り。

  • チェイサー(2008)
  • 哀しき獣(2010)
  • 哭声/コクソン(2016)
  • 女神の継承(2022)※原案・製作

ちなみに、過去には短編映画も撮っている。

  • 5 Minutes(2003)
  • 完璧な鯛料理(2005)
  • 汗(2007)

チェイサー(2008)

原題(英題)

The Chaser

公開日

2009年5月1日

上映時間

125分

予告編

キャスト

  • ナ・ホンジン(監督)
  • キム・ユンソク
  • ハ・ジョンウ
  • ソ・ヨンヒ

感想レビュー

実際に韓国で起きた連続殺人事件をベースにした作品で、

シリアスな描写と内容でありながら韓国ではスマッシュヒットを記録した本作。

序盤こそ、水商売を営み横暴さが目立つ、主人公である元刑事の人間性には嫌悪感を感じるも、

行方不明となった自分の店の従業員の娘のことを思いやってしっかりメンタル面をケアし、

何とかして従業員を救おうと奔走するその真っ直ぐで不器用な姿には思わず目頭が熱くなる場面もあり、

心を打たれること間違いなし。

一方で、殺人を犯しながら、さり気なく他人になりすまし悠々自適に暮らしている連続殺人犯はまさに悪の権化。

厚顔無恥に殺人を重ねて、思っていた以上に場当たり的に人を殺めることもあり。

そんな冷酷殺人犯の非道な限りの極悪殺人のオンパレードには思わず目を背けたくなるシーンばかりで、

耐性のない人にはキツい描写もあるため、覚悟してこの作品を見てほしいと思う。

これがフィクションだからと割り切れる話でもないところや、銃よりも金槌などの工具類を使っていることがより恐怖感を煽り、

残酷さを体現していると感じた。

また、作品中、子どもが泣き叫ぶ場面で泣き声がミュートされ雨の音が強調されていたりと、

静と動をうまく場面ごとに使い分けた演出も光る。

ナ・ホンジン監督の長編デビュー作がここまで内容的にも鮮烈な中身であることに驚きだが、

紛れもなく現代社会の闇をリアルに炙り出した名作であることに間違いない。

「 チェイサー 」感想レビュー

哀しき獣(2010)

©黄海

原題(英題)

黄海

公開日

2012年1月7日

上映時間

140分

予告編

キャスト

  • ナ・ホンジン(監督)
  • ハ・ジョンウ
  • キム・ユンソク
  • チョ・ソンハ

感想レビュー

韓国ノワールの真骨頂。

全体的に派手なガンアクションは抑えめな一方で、流血沙汰必至のバトルシーンの連続。

麻雀にのめり込みどうしようもなくなった主人公が、単身異国の地に乗り込み請け負ったある特定の人物の殺人を遂行しようとするが

想定外の事態が起き、指名手配犯としてあらゆる方面から追われる身となるクライム・アクション。

四面楚歌となりもはや万事休すと思われた寡黙な主人公は、事態が変わり追われる身となってからは、

一転してサバイバル本能が開花。

いかなる状況下でも銃を持った何十人もの警官や、屈強で鈍器を持った地下社会の漢たちに

四方八方から襲われても困難を必死に逃げ切る。

タイトルでもある” 獣 “の如く、猛烈な勢いと圧で相手を打ちのめしていく姿に

キアヌ・リーヴスが演じた百戦錬磨のジョン・ウィックを重ねると共に、

異国の地で負けず劣らず逞しさを増していく姿に、不思議と主人公の成長も感じた。

途中、公道で一般車も広範囲で巻き込んだ地下社会の集団と繰り広げるワイルド・スピードばりのカーチェイスは

周囲にとっては大変いい迷惑だが、息を呑むシーンの連続から目を離せない。

本作では、チェイサーで主人公の刑事役を演じたキム・ユンスクが、凶悪で暴力的な地下社会のボスとなって猛威を振るう姿が印象的。

チェイサーとの役の対比にも注目してほしい。

「 哀しき獣 」感想レビュー

哭声/コクソン(2016)

©The Wailing

原題(英題)

The Wailing

公開日

2017年3月11日

上映時間

156分

予告編

キャスト

  • ナ・ホンジン(監督)
  • クァク・ドウォン
  • ファン・ジョンミン
  • 國村隼
  • チョン・ウヒ

感想レビュー

果たして一体何が真実で何が嘘なのか、誰が味方で誰が敵なのか。

一連の解釈含め、見る者に解釈を委ねる場面も多く散りばめられている難解な構成。

それでいて決してただのサスペンススリラーではなく、相次ぐ説明不可能な超常現象に、代々語り継がれる神話に伝承、

旧約聖書を彷彿とさせるような選択が求められる場面や、よそ者を廃除したがる排他的で差別的な地域のコミュニティ、

人間同士の疑心暗鬼…。

これらの異なる要素を一つひとつ丁寧に緻密に織り交ぜながら、最後まで息をつく暇もなく、

次はどうなるんだろうというドキドキを抱え、時には祈るように事の次第を見つめてしまう。

そんな恐ろしい光景が度々登場し、鑑賞中に容赦なく何度も恐怖に打ちのめされた。

また、作中で重要な鍵となる、突然村に現れた謎の日本人の男を演じるのは、

「 殺し屋1 」や「 寄生獣 」など数多くの怪作での演技が記憶に残る名優・國村隼。

本作では悪魔的な立ち位置、扱いをされているが、國村の怪演が光り作品を昇華させている。

ラブストーリーの「 ちょっと思い出しただけ 」にスナックの店主で登場する、

あの柔らかくて人情味ある國村を想像している人は覚悟して本作を見てほしいと思う。

「 チェイサー 」や「 哀しき獣 」とは打って変わって迷信や悪霊を見事に取り込んだ、森羅万象系伝承スリラーの傑作である。

「 哭声/コクソン 」感想レビュー

女神の継承(2022)※原案・製作

©The Medium

原題(英題)

The Medium

公開日

2022年7月29日

上映時間

131分

予告編

キャスト

  • バンジョン・ピサンタナクーン(監督)
  • ナ・ホンジン(原案・製作)
  • ナリルヤ・グルモンコルペチ
  • サワニー・ウトーンマ
  • シラニ・ヤンキッティカン

感想レビュー

祈りの先には結局救いがなかった、バッドエンドなストーリー。

鑑賞前はどうせ比較的ソフトな内容だろうと考えていたが、いい意味で期待を裏切ってくれる、

そんな見る者の度胆を抜く思いの外ヘビーな展開の構成になっている。

人智を超えたs脅威には、どんなに手を重ねてもただ為す術もなく終わってしまう悪夢すぎるラストには

強い虚無感と怖れしか感じなかった。

そして、だめだと言われながら静止を振り切って禁忌を破ってしまう人間側の耐性のなさが露呈し、

それを如実に炙り出しているシーンには、深いため息が出たのと同時に悲しさも覚えた。

本作はドキュメンタリータッチで作品の進行が展開されていく内容で、アジア圏のこの手のホラー作品ではめずらしく、新鮮。

同じくドキュメンタリーテイストの「 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 」(1999)と異なり、

大自然の奥地における禍々しい、現地の住民たちからの祈祷のアイコンにもなっている巨大な大神仏像や

儀式用の妖しい民族衣装など自然体を追究しながら、日常生活における民族特有の文化や呪術の伝承、

信仰などの特徴を存分に生かした、撮影に反映させた鋭い巧みな描写にも注目してほしい。

本作はプロデューサーとしての役割に徹した作品ではあるが、

ナ・ホンジンここにありという演出の数々が散りばめられたニュータイプのホラーである。

短編作品について

ナ・ホンジンは元々、チェイサーの前に短編を3本撮っている。

はじめての作品が「 5 Minutes 」(2003)

短編デビュー作で、犯罪者たちがある廃墟で5分後の未来が見える体験と遭遇するというファンタジースリラーもの。

次に「 完璧な鯛料理 」(2005)

自分の体を犠牲にしてまで料理を追究するシェフを描いたブラックコメディホラー。

その次は「 汗 」(2007)

セリフのない、汗を強調した実験的映画。

どれもその後センセーショナルを巻き起こす長編映画に繋がる作品群である。

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