気候変動が引き起こす竜巻、洪水、干ばつの自然環境破壊が後を絶ちません。
自然に寄り添い、土壌を回復し、生態系にバランスを取り戻そうと、農家や酪農家が奮闘する” リジェネラティブ(再生)“
その挑戦と課題を見つめたドキュメンタリーです。
君の根は。大地再生にいどむ人びと
原題
To Which We Belong
上映時間
89分
予告編
キャスト
- パメラ・タナー・ボル(監督)
- リンゼー・リチャードソン(監督)
- ジュディス・シュワルツ
- シンシア
- アレハンドロ・カリージョ
- ニコール・マスターズ
- デイブ・ジェームズ
- グレイス・ムヴア
- キース・バーンズ
- ブレン・スミス
- デヴィッド・ペリー
- ダニエラ・イバラ=ハウエル
- マイケル・ドゥアン
- ムサ・キセール
- ミーガン・ラナン
公式サイト
解決策は私たちの足元にある
舞台はアメリカ・モンタナ州。
1900年前からこの地で牧草を育て、販売してきた一家の農法改革のはじまりから、物語は始まりました。
最初に登場する家族・ピート一家は、ある日牧場を経営する父親から「 もう疲れたよ 」と一本の電話を受けます。
ピートはすぐに牧場をどうすればいいか考えました。
牧草もうまくいかない、経済的にも環境的にも持続不可能と判断したピートは、
「 ホリスティック放牧 」に挑戦します。
貪欲に勉強した結果、今までの「 牧草栽培と販売 」以外に、牧草で牛を育て、売る仕事に移行しようと決意しました。
小さな三角ゾーンに牛を追い込むことで、多くの牛が一斉に草を食むようになります。
牛は好きな牧草だけでなく他の草も食べることで、草地再生の手助けをするのです。
牧草はより良質な栄養を得て、以前より大きく育ちます。
このような草地再生は、土壌再生に繋がります。
牛の糞がたくさん出るので、素晴らしいフンコロガシも生まれ、彼らのおかげで糞の66%は土壌に入るのです。
有機物や微生物も増えました。
土が健康な状態に再生されれば、大気から大量の二酸化炭素を取り除くことができます。
つまり、まずは土を元気にすることが大切です。それが気候変動の解決にもなるのです。
農業を変えれば、世界中が得をします。
次に目指すのは、地に根を張ること
元気になった土に今度は何をするかというと、作物の根をしっかり根付かせることです。
根っこに絡みついた鞘がドレッドヘアのように見えれば、二酸化炭素を土に引き込んでくれ、炭素を逃しません。
専門家は、掘り起こした根っことその団粒を見せながら言います。
「 土壌で大切なのはコミュニケーション。コミュニケーションは炭素を介して起こっているのよ。
炭素は植物の根から微生物の餌として送られるの。その炭素を、バクテリアや菌根菌が摂取するわけ。
逆に植物は微生物のおかげで水や栄養を得られるってわけ 」
専門家の言葉にピート親子も興味津々です。
昔、開拓者は草原をスキでひっくり返し、根っこごと壊してしまったそうです。
そのため、土壌システムを劣化させました。
これを聞いたピートの長男(恐らく小学校高学年くらい)は首を項垂れて、どこか悲しそうでした。
しかし、土壌が再生し、根も再生すれば牛肉の質も上がると知って嬉しそうでした。
逆に、今までのように穀物飼料(大麦や大豆)を与え、化学肥料をたくさん与えると
牛肉の質は落ちると専門家は言いました。
救世主・カバークロップの登場
次は、土を耕すことをやめることです。不耕起栽培ともいいます。
カバークロップという被覆作物で土の表面を覆うのです。
科学的な肥料と農薬を劇的に減らす効果があります。
今までのように化学肥料や農薬をばらまいていた工業型農業は、収量を増やしたかもしれませんが、
実はこうして作られた農作物は栄養価が低いことが証明されています。
次はいよいよ、牛を放牧します。
家畜はカバークロップを食べ、排泄物として炭素を土に戻すのです。
この炭素を大気中に二酸化炭素として排出しないためにもカバークロップは効果的です。
カバークロップのおかげで、炭素を土に蓄積することができるというわけです。
こうして、一箇所に集められた牛に牧草を食べさせ、草地を再生させました。
それが土壌再生にも繋がりました。
そして、その土に作物の根を張らせたことで、二酸化炭素を土に吸収させるところまできました。
今度は牛を放牧することで排泄物として炭素を土に戻し、カバークロップで抑え込み、大気中に炭素は出なくなりました。
しかし、実はこれで大地再生、リジェネラティブは終わらないのです。
現代の土は疲れ切っていて、以前のように水を蓄える力もありません。
カバークロップはここでも役立ちます。
カバークロップは休耕期間に植え、炭素を土に戻すためのものなのです。
有機物質の70%は炭素です。
土中生物にとって炭素は食料源です。だからその炭素を取り戻さないといけません。
そして有機物質をたくさん含む土は、干ばつや害虫に高い耐性があるのです。
また、畑に作物以外の植物があれば、使用する化学物質は少なくて済みます。
それがカバークロップなら、一層生産的です。農家にとっても、自然環境にとってもいい。
カバークロップは農地の土壌を改良し、多様な植物が育つことを可能にします。
もしトウモロコシと大豆だけを生産していれば、土を健康に保つのは難しいです。
植物ごとに土壌からとる栄養素は決まっているからです。
難しいのは人間の心を変えること
ホリスティック管理法で大切なことは2つあります。
まずはマインドセット、心を開いて新しい考え方を迎え入れることです。
主人公の一人が言いました。
「 ITから牧場経営に変わったとき、私は個人主義や競争心に染まっていた。
でも隣町まで60km離れていれば、隣人たちに頼るしかない。そうして自分の心を開くことを学んだ 」
土地を再生することは誰にでもできますが、それには水が必要です。
草を育てるための水です。
水循環を取り戻せば、気候を地域規模でも改善できる。
このやり方は農家たちを動かしました。
なぜなら農薬代がかからないからです。
さらに不耕起栽培は、土壌流出の問題もありません。
土を耕して切り開くたび、より多くの蒸発と侵食が起こりますが、不耕起では収穫後の残り滓が土を守ります。
つまり、土壌の構造を壊さずにすみます。
すると土の浸透性も増し、雨は表面を流れなくなります。
繰り返しになりますが、牛に草を食べさせ、その糞から草地再生することで、土も栄養価の高いものになります。
土が元気になったら保水です。
そして土に戻った炭素を大気中に出さないための工夫、それがカバークロップです。
その後は不耕起栽培です。
土を耕さずに育て、化学肥料も使わないという一見古いやり方は、この上なく持続可能といえるでしょう。
そして新しいカバークロップという被覆作物を加えることで、地球環境は改善に向かいます。
さて、主人公の一人であるピートは一年の半分を森林消防隊として過ごします。
その間は妻のミーガンと息子で農園を管理するのですが、そういうときに限って問題が起こります。
そのようなとき、いつも助けてくれるのはピートのご両親です。
電話一本で駆けつけてくれ、羊を追いやり、家畜の扱いが上手だと、ミーガンは言います。
一方、ピートは「 僕は父さんたちにとって厳しいことをしてしまった 」と申し訳なさそうです。
しかしピートの母は優しく息子を宥めます。
「 この農場をよりよくしようと、牧場を始めたのでしょう? 」
父親は「 時々、納屋で泣いてたよ 」と冗談を言いますが、息子たちに家業を託したことに後悔はしていない様子。
よくある「 先代と2代目のやり方の相違 」によって起こる仲違いは、この家族には見られませんでした。
まさにマインドセットです。
いつの時代、どこの世界でも新しいやり方は嫌悪されがちですが、
見守って挑戦させてくれる環境があれば、世界はよりよい方向へ向かうのだと感じさせてくれる映画でした。
私たちは若い世代が新しいことにチャレンジするとき、恐れずに応援しなければなりません。
既存の方法に新しいやり方を取り入れることは、決して今までを崩すことではないのです。
” 再生 “なのです。
こうしたチャレンジを通して、我々人間もまた、再生していくのでしょう。
文・ライター:栗秋美穂
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