NHKオンデマンド「 サヘルと8人の子どもたち 」

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本作品は、あるドキュメンタリー映画のメイキングとして、NHKで2023年に放映された。

そのドキュメンタリー映画は 『 花束

表現者サヘル・ローズ初の監督作品だ。

私はこのメイキング視聴後に本編を見た。

すると登場人物たちの、あの時の生々しい感情を、サヘル監督がどのように受け止め、そしてまとめ上げたのかが良く分かった。

読者の皆さんにもぜひ、このメイキングを見てから本編を見ていただきたい。

目次

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生きる映画を作りませんか

©︎サヘルと8人の子どもたち

サヘル監督が、そう綴った手紙を送ったのは2020年10月、クランクイン前のこと。

この言葉に賛同して集まった児童養護施設出身の若者は8人。

初日はキャスト全員へのインタビュー、なんと12時間に及んだ。

その目的は一つ。

監督「 私自身、孤児院育ちで、心の傷は全てかさぶたで覆われているけれど癒えていない。その傷を表現することは、私にしかできないもの。だから彼らにも記憶のかけらを再現して、そして『 表現 』してほしい 」

監督はそのような思いから、まず最初に彼らに伝える。

「(あなたたちは)話している時に、苦しくなったり、思い出して泣いてしまうこともあるかもしれないけどいい?」と。

監督は胸に手を当て、彼ら一人一人と目線を同じくして伝えた。

そう、サヘル・ローズは監督としてではなく、「 登場人物たちと同じ目線で作りたかった 」と、後のインタビューで語っている。

実際に彼女は床に座り、椅子に座った彼ら一人ずつを見上げて傾聴し、共感し続けた。

時に自分の体験を踏まえつつ、彼らの中にあるかさぶたをそっと剝がしていった。

一人の青年は、最初はとても礼儀正しく、理路整然と自分の生い立ちの事実を語るのだが、途中で目が宙を泳ぐ瞬間が増える。

「 自分のことを話すと、違う自分が遠くから自分を見ているような気がする 」のだそうだ。

彼は当時、児童養護施設団体で働いていたが、過去に義父からの虐待で苦しんでいた。

そのかさぶたの下にある傷が今、監督の前で彼を混乱させているに違いなかった。

筆者も彼らと同じ目線に立つため、かさぶたを一つ剥がそう。

筆者も彼同様、30年以上前の出来事を思い出し、文字通り身動きが取れなくなる時がある。

まるでその瞬間に自分がタイムスリップしてしまった感覚を覚えるからだ。

私はこういう自分を周囲が奇異の目で見るのを知っているので、特にこの青年に感情移入してしまった。(このことを初めて打ち明けたのは夫で、その時の彼は「 記憶力いいなー 」と笑い飛ばした)

この時の青年はきっと体の一部ですごく汗をかいているに違いないと思った。

「 映画 」ではないメイキングの時点で、私はこの作品が「 消すことの出来ない過去と今が交錯するドキュメンタリー 」になると予想した。

親(大人)に振り回されてきた、そして今も心の中で振り回され続けている彼ら

映画には見事に多彩なキャストが集まった。

6歳年の離れた姉妹は、それぞれ異国に暮らしていたが、姉が妹をこの映画に誘い、妹は帰国した。

そして本編の中では、離れ離れに暮らした二人が初めて共演し、共に施設で習った琴を演奏したのである。

モノクロで撮影されたこの二人の演奏は幻想的であった。

インタビューの度に泣いていた妹は、本編の終盤には姉を支えるようになり、イギリスに留学した。

さて、話を戻そう。

作品の最初は彼らが夜に施設から抜け出すシーンから始まった。実際に、児童養護施設から脱走を企てる子どもはとても多いのだという。

「 みんな、逃げ出したかったんだよね 」としみじみ話す監督は、この作品の中であるシーンを用意した。

それは「 逃げ出したかった彼らがもう一度、子どもらしくいられる場所 」だ。

子どもらしく生きられなかった出演者の中には、誕生日の歌が苦手な子、親が会いに来なくなって10年になる子もいた。

16歳のころ、過度のストレスにより、学校で意識を失った青年は自ら児童養護施設に入った。そこで、親のために生きる自分ではなく、自分のために生きてもいいのだと知ったそうだ。

なんで俺のことを産んだんだろう

彼らの中には親に会いたくない子もいれば、会いたいが、体が拒否反応を起こしてしまい、「 なんで俺のことを産んだんだろう 」と思う子もいた。

中にはもうすぐ父親になる青年もいた。

だが離婚して娘に会えない苦しみを抱いていた。

自分も娘に同じ思いをさせてしまった、その思いをギターで作曲に注ぐのだが、娘に向けていたはずの曲がだんだんと母親に向けたものになっていく。

彼はこの少し前、お世話になっていた教会の牧師から、ある日、彼の実母が教会に電話を掛けてきたことを知らされていたのだ。

「 週末だけでも(息子と)一緒に暮らせたらいい」と言ったそうである。

その感情を、共演の佐藤浩市さんが「 複雑で悔しいけど、嬉しい、それが演技に出ればいいな 」とアドバイスした。

サヘル監督が出演者に用意した「 プレゼント 」

彼らの芝居がどんどん上達していく中、ラストシーン、天体望遠鏡で月を見たその後、全員が叫ぶ。

声を振り絞って叫んだ言葉はぜひ、本編で知ってほしい。

この心からの叫びは、監督が言っていた「 自分たちにしかできない表現 」だ。

本編ではそれをうんと味わえる。

そして、映画のパンフレットにもなっている、彼らが砂浜でジャンプするカット。

このシーンは前述した「 子供らしくいられる場所 」を監督が出演者のために用意したものではないかと私は思っている。

サヘルは「 砂浜 」、ローズは「 バラ 」

まさに砂浜のバラからのプレゼントだ。

皆で手をつないで砂浜の上で飛び上がる。

パンフレットには後ろ姿しか載せられていないが、メイキングの中の彼らは皆、笑いあっていた。

ラストも笑顔で締めくくられた。

21年ぶりに実父と暮らすようになった青年が、自ら作った味噌汁を父と味わいながら、一緒にテレビを見ながら他愛ない話をしている。

そう、彼らが欲しかったものは、このようなありふれた日常。幸せな食卓。

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執筆者

文・ライター:栗秋美穂

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