人間・佐藤浩市のまなざしあっての作品だった理由を探る(サヘル・ローズ初監督作品『花束』)

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パンフレットに描かれた8人の若者、海辺で手をつないで高くジャンプしている。まるで小学生ようにあどけなくて楽しそうな姿。

彼らは誰だろう。彼らとは、親を知らない、あるいは知っていても離れて暮らさざるを得なかった若者たちである。

彼らの共通点は「 児童養護施設 」で育ったことだ。

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佐藤浩市(インタビュー)

今回、サヘル・ローズ初監督映画『花束』に出演した俳優の佐藤浩市さんに独占インタビューを行った。

2025年1月28日、この日の会場は、『花束』上映最高記録の満席であった。

佐藤さんは、トークショー登壇後、疲れた表情も見せず、インタビューに応じてくださった。

紳士な振る舞いの中、話せば話すほど、「 現代の若者 」に対する熱い思いが伝わってくる。

それはスクリーン越しに見る俳優・佐藤浩市のそれとは違う、人間・佐藤浩市の叫びにも思えた。

©︎佐藤浩市

佐藤浩市(さとうこういち)1960年生まれ、東京都出身。1980年、NHKドラマ「 続・続 事件 月の景色 」主演し俳優デビュー。近年では、第44回日本アカデミー賞優秀主演男優賞(20)、第15回TAMA映画賞最優秀男優賞(23)、第45回ヨコハマ映画祭助演男優賞(23)、第66回ブルーリボン賞助演男優賞(23)、第74回芸術選奨映画部門大臣賞(23)等の数々の賞を受賞。

プライベートでは2019年より週末里親のフレンドホームを経験、養護施設のこどもや社会的擁護の若者と交流がある。  

佐藤浩市さんご夫婦の活動 こども家庭庁

実は今回のドキュメンタリー映画で唯一、佐藤さんとふたりだけの芝居を行った青年がいた。

佐藤さんと彼は、撮影が始まる少し前から交流を取り始めていた。

撮影時には、佐藤さんが彼に演技のアドバイスをすることもあったという。

俳優・佐藤浩市が後ろ姿の演技で伝えたもの

実は彼と佐藤さんのシーンはふたりとも後ろ姿だった。佐藤さんは「 バックショットでもつほどの役者じゃないんで 」と笑ったが、

「 何かを伝えようというよりも、ただその後ろ姿から想像してくれればいいと思います。ぎこちない二人が、どういう風に心を通わせながら、ボール投げをしているのか。そんな姿をお客さんが見てくれたら嬉しいなという気持ちです 」

そして手を口元に持っていき、うなずくように、

「 うん、商業映画とか普通の映画でやってる人間とはちょっと違う、思い切った演出だなとは思いましたね 」

ここにもまた、若いサヘル監督のやり方を見守る優しい、それはもう徹底的に優しい姿があった。

サヘル監督はおそらく、俳優、父親そして人間として、若者に一貫して厳しくもやさしくある佐藤さんを表すには、後ろ姿だと思ったのではないだろうか。

なぜなら筆者の目を見つめて語る佐藤さんの言葉は、あまりにもまっすぐに心に響いてきてしかたなかったからだ。

後ろ姿にしなければ、視聴者に「 芝居上ぎこちない彼と佐藤さん 」の関係が伝わらないと思ったのではないだろうか。

だがそれは半分失敗で半分成功だったと思う。

俳優・佐藤浩市は、何を要求されてもそれ以上のものを伝えてしまうのだ。

それはきっと、父から譲り受けたものであろう。

父・三國連太郎のこと

いまの若い人たちは知らないかもしれないが、佐藤さんの父は日本を代表する俳優、三國連太郎である。

佐藤さんの母親と三國さんは、佐藤さんが幼少期に離婚している。

それでも三國さんは佐藤さんに対して、たびたび「 捨てたわけではないんだ、愛している 」という内容の手紙を送ったというエピソードがある。

遠慮気味にそのことを尋ねてみた。

「 そんなこと言われても、自分の思う通りの生き方をした人なんでね、三國は 」と笑いながらも非常に冷静だった。

筆者の勘は当たった。このエピソードを探し当てた時、幼い頃に親と暮らしていない佐藤さんだからこそ…。

「 分かります。彼らの気持ちが。理解できます。あの子たちと一緒なんですよ。親に対して非常に冷めています。そういうことに対しては本当に僕は冷めている 」

自分に言い聞かすように語る佐藤さんからは、あの熱い演技は想像もつかない。

それを言うと照れたように「 芝居はね、うん(熱いこともやる)普段のあの子たちも、冷めている部分と、明るくしなきゃいけない場面をちゃんとわかっている。いろんなことを彼らはもう自分たちの中で分かっているんですよね。明るくしよう、普通にしようとかね 」

おそらく、小さい頃から周囲の大人の目を意識してきたからこその冷めた部分。

そういう意味では佐藤さんの冷めた部分とは、やや異なるかもしれない。

このドキュメンタリー映画において、佐藤さんの登場は少ない。

だが、本編を見てもらえれば、そこに佐藤さんが「 存在しなければならなかった 」理由がわかるはずだ。

本作品の今後の上映スケジュール

  • 2月11日 東大寺 金鐘ホール(奈良)
  • 2月15日 イオンシネマ徳島(徳島)
  • 2月21日 QUESTION(京都)
  • 2月26日 沖縄環太平洋国際映画祭2025 Cinema at Sea(沖縄)
  • 3月7日~13日 ヒューマントラスト渋谷(東京)
  • 3月24日~31日 尾花座(奈良)
  • 3月30日  kino cinéma天神(福岡)
  • 4月5日 光明寺寺子屋「 映画塾 」
執筆者

文・ライター:栗秋美穂

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