今回は「 アニメーション監督 」沼田氏に登場していただきました。

プロフィール
一般社団法人日本昔ばなし協会 代表理事・アニメーション監督
「ふるさと再生日本の昔ばなし」音響監督、脚本、演出担当
「ふるさとめぐり日本の昔ばなし」からは監督も兼務
「けものフレンズ2」アニメプロデューサー
「歌うサッカーパンダ ミファンダ」アニメプロデューサー
アルビレックス新潟オリジナルアニメ『アー・ルー・ビィの幸せのピクニック』アニメ監督
本プロジェクトは沼田監督が代表理事を務める「一般社団法人日本昔ばなし協会」が主催となり、「日本財団 海と日本プロジェクト」共催のもとで行われたものです。
【 趣旨 】〜 海と深く関わりを持つ日本という国の「 海とのつながり 」と「 地域の誇り 」を 子どもたちに伝え、語り継ぐプロジェクトです。日本中に残された海にまつわる「 民話 」「 伝承 」を選定し、次の世代を担う子どもたちから、 さらに次の世代へと伝えていく機運醸成を図ります。
昔話の道徳観の多くがSDGsに含まれている
ーー沼田監督「 民話には、親を大切にする心や、自然の恵みを取り過ぎてはいけない、身の回りの掃除(自然の中にあるゴミを持ち帰る)といった基本的な人間としての価値観があると思うんです。そういった意味で考えるとSDGsは、現代人が今になって分類したことであり、実は昔から当たり前にあった日本人の精神文化につながります」と、仰る沼田監督。
監督のおかげで、思わぬつながりを見つけ、今回のプロジェクトの魅力を伺うことが更に楽しみになりました。
海は怖い物かもしれない。しかし……
このプロジェクトが立ち上がるきっかけとなったのは、子どもたちに海に関する意識調査をした時だそうです。
その中には、震災やさまざまな要素もあり「(海に対して)怖い、行きたくない 」といったネガティブな意見が多くありました。
ーー沼田監督「 そこで、まずは子どもたちに海に興味を持ってもらうこと。子どもはアニメが好きだし、各町には必ずと言っていいほど民話があるよね 」こういう着眼点から、民話のアニメを通して海洋教育を推進するという当プロジェクトが始まりました。
誰もが知っている昔話より、知られざる町の、知られざる民話を知ることができたら、しかもそれを全国の人が配信で見られるようになったら、世界は広がりますね。
旅行に行くことになった時、その町を知ることにも役立ちます。
ーー沼田監督「 いろいろな市町村から郷土史家の方を含め、地元の観光協会、博物館、商工会、教育委員会、そういった方々が組織を組んで協力してくれたこともありがたいことでした 」
これは地方創生にもつながりました。
ーー沼田監督「 アニメを使った町おこしですね。例えばアニメのキャラクターを使ったお土産を作ったり、学校と組んで授業やフィールドワークを行いました 」
このプロジェクトにはただのアニメーション制作ではない、地方創生の要素も多かったわけです。
お土産や授業など、このアニメを上手に活用したことで、子どもたちの海へのイメージも払拭されたのではないでしょうか。
制作された民話の中では、海の神様を怒らせてしまったことで「 危険な場所には入らない 」など、失敗から学んだ教訓も説かれています。
一方で、海の恵みに感謝する話もあります。怖いだけではない多くの学びがあることを、民話が伝えています。
昔と今をつなぐ、伝承的な役割を持つのが民話
さて、ここまで読んで下さった方はお気づきでしょうか。昔話と民話の違いを。
沼田監督は仰います。
ーー沼田監督「 昔話というのは『昔々あるところに~』から始まります。場所を限定せずに作られたお話です。今回の海の民話に関しては、どこどこ村のどこどこに伝わる話という風に、地域を限定して作っているので、その村、その町でしか伝わってないお話、というのが大きな違いです 」
そうなると、本邦初公開となる民話もあるかもしれませんね。
今回の民話の特徴の一つはエンディングでのナレーション解説です。
この民話から学び取れることや、この民話の痕跡が今も残っていることなどが語られています。
ある民話の中では、神様を大切にするお祭りが今も存在していることなども知ることができ、民話同様、地域のさまざまな行事が今も伝承されていることを知ることができます。
一枚一枚に魂を込めて〜アニメ制作の裏側



さて、ここからはアニメーション制作のお話です。
アニメーションですから、ドラマのように役者が出てくるわけではありません。つまり演技指導などはないと思っていた筆者です。
ーー沼田監督「 演出家、いますよ。他にも様々な役割がそれぞれあります 」
と沼田監督が制作の裏側をお話してくださいました。
ーー沼田監督「 アニメーションをわかりやすく説明すると、皆さんもノートの隅に書いた事があるかもしれないパラパラ漫画を想像してください。そのデラックス版みたいなものです 」
まず、原作探しです。昔話や民話の原作となる本や、郷土史家が集めた冊子などをもとに、物語を選考します。
ーー沼田監督「 次に脚本家、シナリオライターともよばれます。アニメーション用に物語をまとめる人の出番です。原作にはない詳細な部分を補足したり、新たな要素を脚色したりして、物語を完成させるんです 」
脚本家との打ち合わせで、沼田監督が世界観や方向性を示し、それに基づいて脚本が作られていくそうです。
皆さん、絵コンテというものをご存じですか?











この絵コンテは、4コマ漫画のように絵とセリフ、カメラワークや効果音などの指示が書かれたもので、アニメの設計図と言えます。脚本を元に演出家が作成するものだそうです。
実在の人物は登場せずとも、アニメの登場人物にどのような動きをさせるかなど、演出をするのだと言います。
「 登場人物に命を吹き込む 」ことが演出家の仕事かもしれませんね。
いよいよ、作画という作業に入ります。聞きなれない言葉です。
ーー沼田監督「 作画というのは、キャラクター(人物)を実際に描くことです。 作画の中にも原画、動画の2種類があります。そして原画、動画というのが、先ほど最初に申し上げたパラパラ漫画のようなものです。人が歩き始める一枚の絵を描く、歩き終わりの絵をまた原画で書く。その間を埋めるように歩いている姿を1枚1枚描くのが動画。つまり動きの始まりと終わりの絵を描くのが原画で、動画はその間を埋める絵です。
そこから仕上げに入ります。仕上げとは、作画されたキャラクターに色を塗る作業です。背景は作画とは別に制作され、背景の上に着色されたキャラクターを重ねる作業を行います。いよいよ撮影です。昔はカメラで撮影していましたが、現在はパソコンのソフトウェアを使うことで制作できます。背景とキャラクターを合成し、1枚の絵として完成です。この絵を一枚一枚つなぎ合わせるわけですから、1話5分前後で、500枚から700枚の絵を使用します。制作期間は、シナリオの作成から含めて8ヶ月から9ヶ月ですね。
これらの工程を経て、アニメーション作品が完成します。
こうしてみると、エンディングに映し出された制作陣の多さにも納得です。
民話アニメーションは地域を元気にするツール

海ノ民話アニメーションは、地域文化を継承し、海洋道徳を広く発信するための効果的なツールだと語る沼田監督。
各地に伝わる民話をアニメ化することで、その地域ならではの文化や歴史、海の学びを子どもたちに伝え、地域への愛着を育むことを目指しました。
アニメを国内外に発信することで、地域の魅力を広くアピールし、観光客誘致や地域産品の販売促進にもつなげたいと考えているそうです。
監督とのお話から私が思ったのは、監督が地域の方たちの協力にとても感謝し、その地域を盛り上げたいと思っていることでした。
沼田監督は、アニメを単なる映像作品としてではなく、地域を元気にするためのツールとして捉え、その可能性を追求していることは、前述の町おこし的要素、授業への活用で分かります。
その地域だけが持つ民話は、アニメ制作をきっかけに、地域住民が主体的に関わることで、ただのお話ではなく語り継がれていく文化財になると、今回のインタビューを通じて学びました。
さて、監督の思い、そして民話の魅力が伝わりましたでしょうか。
百聞は一見にしかず。
作品は配信もしていますが、3月29日に銀座で公開されます。春休みのイベントとしてぜひ、足をお運びください。

- 海ノ民話アニメーション フリー上映
- 日時:3月29日(土)18:30~20:30
- 会場:東京都中央区 銀座 蔦屋書店
- ※参加無料・入退場自由

文・ライター:栗秋美穂