プロフィール
1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、主演映画『冷たい床』は正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭をはじめとするさまざまな映画祭で最優秀主演女優賞を受賞。映画や舞台、俳優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めた経験もあり、公私に渡る支援活動が評価され、2020年にはアメリカで人権活動家賞を受賞する。
これから大人になるアナタに伝えたい10のこと (サヘル・ローズ著・童心社)

ーー執筆期間はどのくらいだったのでしょうか。
サヘル・ローズさん(以下、サヘルさん)
「 構想を入れて5年くらいでしょうか。実は何度も挫折しかかったんです。執筆自体は1年~2年ほどですね。その途中で違う本を出していたので、全期間で言うと6年になっているかもしれません 」
ーー途中の2020年に別の著書 『言葉の花束』(講談社)が出版されたということは、今回の 『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと』(童心社)には前回の本には書き切れなかったことも含まれているのですか?
サヘルさん
「 書くべきかどうか、葛藤した部分があります。『 言葉の花束 』の内容より、深く入り込みました。いつ自分の命も終わるかわからない中で、私にとって蓋をしたいほど苦しいことであったとしても、同じ痛みを抱えている人にとっては、もしかしたら救いかもしれないからです 」

人は「 心 」の痛みが深いほど、誰かを癒すことになると、サヘルさんは言います。
ーーまず、これから10代の大人になるアナタ、というタイトルですが、私は大人が読んでも充分に内容の濃い本だったように思います。
サヘルさん
「日本は18歳を過ぎたら急に大人、20歳になったら成人という。まだ大人になる準備ができてない子や、やりたいことが決まってない子もたくさんいます。中身がまだまだ子どもであったり、経験が消化しきれていない子もいるんです。大人という名の洋服に衣替えたかもしれませんが、やりたいことが見つからず、中身は何一つ解決しないまま 30 代、 40代、 50代、 60代と生きている人も。 ですから、10代向けに書きましたが、どの世代の方が読んでくださってもいいものだと思います 」
ーー今回はこの本の後半にあたる「 サヘル・ローズと旅 」について詳しく教えてください。
サヘルさん
「 今回の本は自分の中のインナーチャイルドに向けて、声を出しながら書きました。語りかけるように。それが自分のスタイルです。そう考えると私が旅に出るのは『自分』を探していることになります。自分の体はここにあるのに、血の繋がりが誰ともないというのがずっと残っている。何か欠けている部分が埋まらないんです。私の養母もいつまで一緒に生きてくれているか分かりません 」



サヘルさんは、血のつながりこそありませんが、養母と自分は互いに依存しあっていると言いました。その養母が居なくなった時、自分は壊れてしまうのではないかという恐怖から、旅を通して自分の生きる意味を見出そうとしたようです。
サヘルさん
「 私はライフワークとして支援活動を続けています。それは誰かを助けるというよりも自分を助けていると思うんです。誰かに必要とされることによって自分も頑張ろうと思う。人のために生きることが生き甲斐なんだと。そういう意味で、旅は自分の命をつなぎとめるものなんですよね 」



サヘルさんは旅先で難民の彼らと出会い、彼らからの手紙を元に一冊の本を作りました(『Dear』イマジネイション・プラス)彼らと出会い、そこに自分が生きる意味を見つけたからこそ、世に出た絵本であると思います。
サヘルさん
「(難民の彼らから)託される言葉や思い。これを伝えなければということがあるうちは、私は死ねないんです。多分、何もしなくなったら死という感情しか出てこないんです 」



私は簡単に「 死 」という言葉を使うことを好みません。しかしサヘルさんのおっしゃるこの「 死 」は、おそらく彼女の中の「 覚悟 」に通じる言葉ではないかと思いました。
サヘルさん
「 偽らない気持ちです。自分の生きる中で、誰かが弱っていたり、悲しんでたら、ちゃんとその人を見つけたい。その人に寄り添いたい。とにかく人のために生きたい。 幼少期の寂しかったこと、インナーチャイルドが寂しくなります。成長しきれていない幼い自分がいるんです。自分が必要とされていないと感じる人や、親の言葉の暴力やいじめ、それらを含め、今の現状に声を上げても、逆行していく世界、そこに差別が蔓延していることに憂いを感じています。SNSをすごく気にした時期があるんです。
見知らぬ人に傷つけられる。最初は分かってもらおうとしたこともあるのですが、無理なんですよね。相手は顔も晒さない。理解し合うという発想を持っていない相手に、無駄なエネルギーを使っていました。今なら分かります。 苦しんでる当事者は余裕がなくなります。私には代わりに発信を助けてくれた相棒がいましたが、その人がいなければ、もっと落ち込んでいたと思います 」



今回の著書には、旅を通して「 人に必要とされたいことの意味 」も書かれています。それはサヘルさんの生い立ちに関係していると言いましたが、全て読み切ると「 誰かに必要とされたい 」という気持ちは万人に通じるものであると分かる一冊です。
サヘルさん
「 表現の仕事をしてもう20年近くになりますが、もっと日本の映画界、エンターテインメントの人たちに様々な課題を知ってほしいし、映画にはその力があると思っています。いろいろな人に表現のチャンスが行き渡るといいと思います。表現することで誰かを癒し、それが自分の存在証明になるのであれば。そのような気持ちで取り組んでいます 」
2025年2月はサヘルさん監督のドキュメンタリー映画『花束』の監督インタビュー、ご出演の佐藤浩市さんインタビュー、 映画上映後のトークショー、 メイキングドキュメンタリー、著書、これらを通して「 人間・サヘルローズ 」に迫ってきました。



文・ライター:栗秋美穂