「 黄龍の村 」考察レビュー、阪元裕吾が仕掛けた田舎ホラーの罠【 ネタバレなし 】

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黄龍の村

©︎黄龍の村

あらすじ

電波が通じない山中で車がパンクしてしまった若者たち。救助を求めて辿り着いた場所は山奥の「龍切村」だった。狂気の集団と出会った若者たちに悲劇が待っていた。

公開日

2021年9月24日

上映時間

66分

予告編

キャスト

  • 阪元裕吾(監督・脚本)
  • 大阪健太
  • 伊能昌幸
  • 石塚汐花

公式サイト

黄龍の村

田舎ホラーとは何か

©︎黄龍の村

「 田舎ホラー 」という言葉がある。

「 村ホラー 」とも呼ばれているが、これはもっぱら清水崇監督の「 犬鳴村 」に始まる村シリーズとの関連が強く、ちょっとドメスティックなニュアンスが強すぎる。

後述するように、筆者は元々それ以前の外国映画に対しても使っていたため、「 田舎ホラー 」と呼ばせてもらう。

「 田舎 」という言葉にそこはかとなく漂う侮蔑のニュアンスが、自分と異なるものを恐れるホラーに転化しているという批評的視点からも、こちらの方が適切だろうと思う。

田舎ホラーとは、簡単に言えば、閉鎖的な空気に満ちた田舎で展開されるホラーのこと。

一見のどかに見える田舎の人々が実は…といったパターンが多い。近年の代表作としては、日本では先述のとおり清水崇の「 犬鳴村 」(2020)「 樹海村 」(2021)、

「 牛首村 」(2022)という村シリーズ、永江二朗監督の「 リゾートバイト 」(2023)、漫画原作でDisney+のドラマシリーズとして映像化された「 ガンニバル 」(2022)などがある。

外国映画では、宗教団体という特殊なコロニーではあるが「 ミッドサマー 」(2019)のカルト的人気によって、一挙にホラーのジャンルとして注目された感が強い。

偉大なる先達「 脱出 」と「 悪魔のいけにえ 」

しかし田舎ホラーはもっと前から存在するものだ。

筆者がそのようなジャンルの先駆けとして最も評価しているのが、ジョン・ブアマン監督の「 脱出 」(1972)とトビー・フーパー監督の「 悪魔のいけにえ 」(1974)

共にアメリカン・ニュー・シネマの影響が色濃い2作品だ。

もちろんそれ以前に閉鎖的な田舎を舞台にしたホラーがなかったわけではない。

それこそ「 悪魔のいけにえ 」と同じくエド・ゲインがアイデアとなっているヒッチコックの「 サイコ 」(1960)も、田舎ホラーの原点と言えなくはない。

だが「 サイコ 」の場合、ほとんどがセット撮影の屋内シーンであり、「 悪魔のいけにえ 」のように「 悲鳴を上げても誰も助けに来てくれない田舎のリアルな恐さ 」はあまり感じられない。

あの作品の魅力は、そういうものとは別のところにある。

その手の「 田舎が舞台ではあるが、あまり田舎らしさ感じさせないホラー 」は他にもたくさんある。

やはり「 田舎ホラー 」という言葉は、ロケ撮影が多く田舎の空気がリアルに感じられる作品に対して使いたい。

そのような作品が出現するのは、主にアメリカン・ニュー・シネマ以降のことだ。

源流は何と「 イージー・ライダー 」

そんな田舎ホラーの源流として上げておきたいのは、いわゆるホラー映画ではない。

アメリカン・ニュー・シネマの代表作として名高い「 イージー・ライダー 」(1969)だ。

自由を求めてバイクにまたがり、気ままな旅に出たピーター・フォンダとデニス・ホッパーは、アメリカ南部でさまざまな偏見と迫害に遭い、ついには殺されてしまう。

ラヴ&ピースを旗印に、時代の先端を進んでいたヒッピー・ムーブメントに対し、その対極にある保守性と暴力性を体現するものとしてアメリカの田舎が立ちはだかり、主人公たちを圧殺するわけだ。

もちろん今の目で振り返れば、原始共産主義とも言えるヒッピー・ムーブメントが挫折したのは当然のことに思える。

だが肝心なのは、どちらが正しい / 正しくないの問題ではない。

先端的な文化に身を置く者の目からすると、保守的な田舎は一種の敵であり、そこの住人は野蛮なエイリアンのようなもの…という偏見と敵意が感じられることだ。

これが最初に書いたように、侮蔑のニュアンスが漂う「 田舎ホラー 」という言葉を適切だと思う理由だ。

それがより具体的な形で結実し、助けを読んでも誰にも聞こえない田舎の恐さがロケ撮影によって描かれたのが「 脱出 」と「 悪魔のいけにえ 」の2作品だ。

半世紀後に突然注目された田舎ホラー

この流れは、先頃リバイバルされた「 悪魔の追跡 」(1975)でさらに顕著になる。

たまたま悪魔崇拝者たちの儀式を見てしまった2組の夫婦が教団の追跡から逃れようとするが、田舎町では一切相手にされず、それどころか…という話。

本作の主演が「 イージー・ライダー 」のピーター・フォンダであることは決して偶然ではあるまい。

「 悪魔の追跡 」は「 イージー・ライダー 」に存在する田舎への嫌悪・偏見を、もっと分かりやすいホラーとして描いた作品だと言える。

その後も田舎ホラーは思い出したように作られて、ホラーの小さな1ジャンルとして命脈を保ってきた。

王道の展開からはずれるが「 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 」(1999)や「 ウィッチ 」(2015)、日本なら「 犬神家の一族 」(1976)「 八つ墓村 」(1977)などの横溝ミステリーも、その系譜に加えたい。

初期の「 13日の金曜日 」シリーズは「 悪魔のいけにえ 」の変形と言えるものだ。

また筆者未見ながら、「 脱出 」「 悪魔のいけにえ 」と同時期の1973年に製作されたイギリス映画「 ウィッカーマン 」は、「 ミッドサマー 」の原点として名高い。

そして2020年前後から前述のような作品が続出したため、田舎ホラーというジャンルが突然注目を浴びることになったわけだ。

確かに田舎ホラーの王道だが…

この文章のテーマは「 ベイビーわるきゅーれ 」シリーズで知られる阪元裕吾の2021年作品「 黄龍の村 」だ。

これが見事に田舎ホラーのマナーに則った作品である。

脳天気な若者たちが田舎に遊びに行き、そこで恐ろしい目に遭うプロットは「 脱出 」「 悪魔のいけにえ 」「 悪魔の追跡 」という古典作品から続く王道だ。

ところが…だ。

この作品には先述のような作品にはない、とんでもない仕掛けが秘められている。

そのため、これ以上何も書くことができない。書けば、鑑賞の大きな楽しみを奪ってしまうことになるからだ。

私自身は極端なネタバレ嫌悪の風潮を苦々しい思いで見ていて、「 そこまでネタバレが嫌ならネットなど読まなければいいのに 」と皮肉の1つも言いたくなる方だ。

そんな私ですら、この作品に関してはネタバレ厳禁を推奨する。

それくらい仕掛けが鮮やかなのだ。

仕掛けを知った上で見直しても面白いだろうが、初見の衝撃的な楽しさは奪われてしまう。

多くの人は、見終わった後に、そんな仕掛けの元ネタになったであろう話題作を思い出すと思うが、そのタイトルを出すのもやめた方がいいだろう。

では何故ここまで延々と田舎ホラーについて書いてきたかと言えば、答えは簡単。

そんな田舎ホラーの歴史を知っていた方が、できれば実際の映画を見ていた方が、確実に楽しめる作品だからだ。

内容について詳しく語れない以上、せめて作品を楽しむ前提について書いておきたかったということだ。

もう1つ特筆すべきは、本作の上映時間がたったの66分しかないことだ。

ところが後で思い返しても、そんなに短かったという印象がない。

要素は多いのに、特に詰め込み過ぎの印象はなく、これだけの内容を66分の短い尺でまとめてしまう潔さは見事なものだ。

2時間超えの長い作品ばかりが幅をきかせる昨今、家で空いた時間にサクッと見られるのは本当にありがたい。

なお本作はNetflixで配信が開始されたとき、まさかの視聴率トップに輝いている。

「 ベイビーわるきゅーれ 」によって、いつの間にか阪元裕吾のファンが増えていたのだろうか。

そうだすれば、「 ベイビーわるきゅーれ 」シリーズの3作目は興行的に面白い動きを見せるかもしれない。

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