正体とは?
古くは「 しょうだい 」と読まれ、隠されているものの、本来の姿=本体。
正常に意識が動いてること = 正気。
また、神仏の姿 = 御正体(みしょうたい)
本作品における「 正体 」とは何か。
この真実に気付くか、気付けないかで鑑賞後の凄みが変わるだろう。
正体

あらすじ
日本中を震撼させた凶悪な殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)が脱走した。潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体とは?そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とは。その真相が明らかになったとき、信じる想いに心震える、感動のサスペンス。(公式サイトより引用)
公開日
2024年11月29日
上映時間
120分
予告編
キャスト
- 藤井道人(監督)
- 横浜流星
- 吉岡里帆
- 森本慎太郎
- 山田杏奈
- 前田公輝
- 田島亮
- 遠藤雄弥
- 宮﨑優
- 森田甘路
- 西田尚美
- 山中崇
- 宇野祥平
- 駿河太郎
- 木野花
- 田中哲司
- 原日出子
- 松重豊
- 山田孝之
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽(BGM)
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー

藤井道人監督
大前提として、僕は藤井道人作品が好きです、特に故・河村光庸の製作総指揮でスターサンズ製作作品群が好きだ。
「 新聞記者(2019)」「 ヤクザと家族 The Family(2021)」「ヴィレッジ(2023)」は藤井道人を若手職業監督域から社会派監督として突出させた作品群だと言える。
反面として、興行的な成功を収めた「 余命10年 」のような、透明感溢れるリリカルな作品も創り上げてしまう職業監督としての力量も強化された。
他にも良作な監督作品が溢れているけれど、なぜに上記作品を明記したのかを記したい。
集大成
本作品「 正体 」は藤井道人監督の集大成だと僕は捉えた。
上記作品を構成する様々な演出や手法、イデオロギー、ロマンチシズム。
切り取りではなく、自らを省みてさらなるブレイクスルーに到達し、次なる次元に向かうケジメの作品ではないだろうか?
これこそが藤井道人監督作品「 正体 」の正体であると僕は伝えたい。
演出や手法
藤井道人は物語において、各章の展開を切り換える際に煙や光(輝)や霧といった効果演出を用いる。
多分、本作では「 水 」である。
例えば、煙は「 ヤクザと家族 The Family(2021)」で用いられ、第1章は煙に巻く人生。
第2章は狼煙を上げる人生。
第3章は煙たがられる人生、といったように煙のシーンが象徴的だった。
本作は“飲まれる” “流される” “流れる”を用いて象徴的に映し出している。
イデオロギーとロマンチシズム
社会生活で突き付けられる、理不尽や不平等の正体。
力や声が大きい者たちは自らの手を汚さず、彼等にとって都合の良い未来と人生と名声を得るために、淡々とに理不尽を強要していく。
その圧は何層にも重なり、最下層のターゲットを押し潰し、贄にして葬っていく。
その権力構造の正体を本作は暴き出す。
人間関係では常に強者と弱者に分断され、上位の顔色を伺う関係性が現代社会の常である不平等。
それでも尚、人は人と関係し相手の心に触れ、染まり合うことで、リリカルな世界を紡ぎ共有する事ができる。
視線の行方
物語は横浜流星が演じる脱走死刑囚・鏑木慶一について語る関係者たちの横顔から始まる。
それぞれが脱走後の彼が偽名別人として関係した出来事について語り始める。
その邂逅(かいこう)での鏑木慶一は、正面を見ることはほとんどなく、常にうつむき、無表情で物静かな青年だった。
真正面に視線を常に向けているのは、鏑木を追う山田孝之が演じる刑事の又貫征吾。
目を細め上方向にのみ視線を置き、徹底的に警察の威信のために逮捕と責任を又貫刑事に求めるのは、松重豊の演じる川田誠一警視庁刑事部長。
見つめ合う瞳と瞳
物語が進むに連れ、何時しか鏑木慶一と直接関わる人々は鏑木と真正面で向き合い、瞳と瞳を交わして言葉に成らない正体を感じ取る。
鏑木を信じる事で、多くの真実を導き出す。
瞳の先に生まれる言魂
語らず、諦めながらも誤認冤罪撤回を求め続けた鏑木慶一。
鏑木に関わり、魂の奥ゆかさと強さに触れ、勇気ある「 負けない、くじけない 」の心で信頼し合った人々の信頼が、鏑木に本当の言魂を証言させる。
まとめ
「 正体 」とは暴くべき真実なのだろうか?
善なる正体は相互の魂での交流が為されれば、必然として本性を知ることになる。
触れた自分自身も浄化される。悪意まみれな正体。それは一見すると、高貴であり理路整然としているようにみえる。
だが、本質は露骨な狂気よりも凶気の権化に他ならない。
その狂気と凶気をオーディエンスに叩き付けながらも、その正体を示した作品の1つが「 ジョーカー 」「 ジョーカー フォリ・ア・ドゥ 」が近年では顕著だろう。
しかし、悪意まみれの正体はスクリーンの中にとどまらない。
「 事実は小説より奇なり 」
国内外のみならず、世界全ての社会において「 悪意成る正体 」が権勢をふるい、悪意におもねる民衆の支持を得て君臨する。
藤井道人はスターサンズで培った手法で我々に“考える視線”と正体の見極め方を与えてくれるのではないだろうか。

文・ライター:LEDMAXI