「 ベイビーわるきゅーれ 」他に類を見ない殺し屋青春アクションコメディ
ベイビーわるきゅーれ
あらすじ
女子高生殺し屋2人組のちさととまひろは、高校卒業を前に途方に暮れていた・・・。明日から“オモテの顔”としての“社会人”をしなければならない。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たち。突然社会に適合しなければならなくなり、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど社会の公的業務や人間関係や理不尽に日々を揉まれていく。さらに2人は組織からルームシェアを命じられ、コミュ障のまひろは、バイトもそつなくこなすちさとに嫉妬し、2人の仲も徐々に険悪に。そんな中でも殺し屋の仕事は忙しく、さらにはヤクザから恨みを買って面倒なことに巻き込まれちゃってさあ大変。
公式サイトより
そんな日々を送る2人が、「ああ大人になるって、こういうことなのかなあ」とか思ったり、思わなかったりする、成長したり、成長しなかったりする物語である。
公開日
2021年7月30日
上映時間
95分
予告編
キャスト
- 阪元裕吾(監督・脚本)
- 高石あかり
- 伊澤彩織
公式サイト
すべてが微妙に狂った設定
本作よりも先に、シリーズの第2作「 ベイビーわるきゅーれ2 ベイビー 」を劇場公開時に見た。
なかなか面白かったが、正直なところ1作目が一部で大反響を呼んだ理由はピンと来なかった。
それから1年以上経った頃に、この1作目をNetflixで見て大いに驚いた。
まさかこんなに変な映画だったとは!
この1作目と比べると、2作目はもっと普通のアクションコメディ。
1作目の変さ加減は異常だ。
高校卒業間近の女性殺し屋杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)。
2人とも有能な殺し屋だが、しっかりとした表の顔を作るという組織の方針で、高校卒業後は2人でルームシェアをして、堅気のアルバイトをしながら、税金や年金などを払うよう求められる。
社交性は高いが短気なちさと、完全なコミュ障のまひろ。
何とか社会に適応しようとがんばる2人だが、バイト先での揉めごとから、ヤクザの一家と対決することになってしまう…という物語。
ストーリーだけでも十分に変ではあるが、それ以上に細部がすべて微妙に狂っている。
主人公であるちさととまひろのキャラだけでも十分に狂っているが、敵となるヤクザ一家が、それに輪をかけて狂いまくっていて、一から十まで笑える。
その狂ったキャラたちが、オフビートなコメディを繰り広げたかと思えば、一転してバイオレンスたっぷりのアクションも演じる。
その予測不能さ、通常のストーリーテリングを天然でハズしまくったような奇怪さは、思いきりくせになる。
これは公開時に大評判になったのも当然だろう。
社会不適合者の悲哀
個人的に特に共感したのは、まひろの社会不適合ぶりだ。突然切れたりはするものの、明るく社交的で、バイト先のメイド喫茶でも即採用されて人気者になっているちひろに対し、まひろはまともに口も聞けず、見学扱いになってしまう。
居たたまれないほどの、まひろの場違い感。とても他人とは思えず、共感度マックスだ。
そんなまひろが自分の心と向き合い、ちひろと和解するシーンは本作のクライマックスの1つだ。
2人の成長物語に着目すれば、これは日本映画屈指のシスターフッドムービーとも言えるだろう。
続編の方が作りは垢抜けているが、この要素があまり描かれていなかった分、1作目ほど強い共感は抱かなかったのだと分かった。
変化球の作劇で本格的なアクションを実現
だが本作の魅力として真っ先に上げるべきは、本格的なアクションだ。
社会不適合な少女たちの青春ストーリーをオフビートなコメディで描いた作品なら他にもある。
だがその2つの要素に、これほど本格的で血みどろなアクションを合体させた映画は他に知らない。
そのユニークさこそ本作の最大の魅力だ
このアクションに大きく貢献しているのがまひろ役の伊澤彩織だ。
彼女は女優であると同時にスタントパフォーマーであり、スタントだけの仕事もしている。
あれほどリアルで過激な肉弾戦を描けるのは彼女がいてこそだ。
髙石あかりの方は、それと同レベルのアクションは演じられないのだが、ガンアクションでミニマルな「 決め 」を見せることで、2人のアクションにそこまでの格差が出ないよう演出面で工夫されている。
そもそも阪元裕吾という監督は、アクションを撮りたくて映画を作っているような人物だ。
しかしただのアクション映画では企画の実現が難しいということか、強いひねりを加えた変化球の作劇で、マニアからライトな映画ファンまで唸らせる作品を撮り続けている。
「 ベイビーわるきゅーれ 」シリーズは、彼の作家性と万人向けの娯楽性が、最も理想的なバランスで両立した作品だと言えよう。
今年の秋には3作目も公開される予定だ。
またちさととまひろのコンビに会えるのが楽しみで仕方ない。
文・ライター:ぼのぼの