はちどり
公開日
2020年6月20日
上映時間
138分
キャスト
- キム・ボラ(監督)
- パク・ジフ
- キム・セビョク
- イ・スンヨン
- チョン・インギ
- パク・スヨン
予告編
考察・感想レビュー
ベルリン国際映画祭ジェネレーション14plus部門をはじめ国内外の映画祭で50を超える賞を受賞。
「 RottenTomatoes 」では、批評家から100%の支持を得るなど非常に高く評価されている。
今作「 はちどり 」は、キム・ボラ監督の短編「 リコーダーのテスト 」(2011年)で9歳だった主人公ウニの、その後の物語となっている。
1994年、韓国・ソウル。
14歳のウニは、学校に馴染めず、別の学校に通う親友と遊んだり、男子学生や後輩の女子デートをしたりして過ごす日々。
そこに、塾に女性教師のヨンジが現れる。
彼女は、ウニにとって初めて自分の人生を気にかけてくれる大人だった。
次第に、ウニは彼女に心を開いていくことに。
好きだった点
一見、少女の物語の日常を映した映画のように見えるのですが、とんでもない完成度を誇った作品でした。
まず、ウニ役のパク・ジフをはじめ各キャストの演技が素晴らしかった。
直接、感情を表には出さない抑制されたようで、とても奥深く繊細な演技。
それが、いわゆるステレオタイプではない興味深いキャラクターを作り出している。
中でも魅力的なヨンジ先生が放つ言葉の数々がとても心に響く。
さらに、考え抜かれた脚本も素晴らしかった。
14歳のウニの日常の物語のように見えて、実はその背景に大きく立ち塞がる社会の理不尽なまでの変化、崩壊が描いている点。
そして、そこで起こる“ある出来事“をキッカケに描かれていく普遍的なテーマやメッセージ。
現代を生きる私たちにも、非常に刺さる作品となっていました。
嫌いだった点
上映時間が138分と長く、大きな見せ場が用意されているような作品ではなかった。
主人公ウニの日常を淡々と描くため、見ている側が能動的に読み取らなければならない部分もあるように思えた。
地味な作品ではあるが、その日常にも意外性や共感できる部分に溢れていていました。
見どころ
物語のスケール。
少女の日常を描いている今作ですが、その背景には大きな社会の変化と崩壊が描かれる。
例えば、ウニの通学路に掲げられた「 私たちは、死んでも立ち退かない」と書かれた垂れ幕やテレビから流れてくる
北朝鮮の金日成主席の逝去など。1994年の韓国社会を描いた、ある意味大きなスケールの映画でもある。
そもそも当時の韓国社会は、32年間続いていた軍事政権が消滅し民主化が進み、1988年のソウルオリンピック後に、大きな経済成長をしたという背景がある。
しかし、急ぎすぎた拡張政策は1998年には通貨危機を引き起こす。
それは、韓国映画「 国家が破産する日 」(2019)でも描かれている。
キム・ボラ監督は、ウニの不安定な心情と、崩壊に近づく韓国社会の不穏な未来を重ねたと語っている。
ステレオタイプとフェミニズム。
ステレオタイプではない登場人物の描き方が素晴らしい。
学校では大人しいだけのウニだが、外ではクラブに行ったりデートをしたりと、ウニの様々な面が見える。
よく、韓国映画では、わかりやすく単純なキャラクターを配置する傾向にある。
そんな傾向からは逸脱したフェミニズム映画でもあった。
いわゆる男尊女卑的な家庭や声を出して逆らえない女性など、現在のMeToo運動にも繋がる。
本作では、男性側を徹底的な悪として描かず、彼らもその社会規範の中の被害者であるという事を示している。
まとめ
ハチドリは、鳥類の中で最も体が小さくホバリングしながら花の蜜を吸うことで有名な鳥。
大人でも子どもない思春期の中学生という彼女たちは、止まっているように見えて一生懸命に羽ばたいている「 はちどり 」のようにもうつる。
「 不思議で美しい世界 」へ羽ばたく勇気をくれるような素晴らしい作品でした。