韓国映画界が放つフィルム・ノワールの世界にどっぷりと浸れる作品。
冒頭は「 ひき逃げ事件 」を巡る被害者・加害者家族のように思えます。
見続けるにつれて「 人間の本性 」を描いた作品に様変わりし、最終的には誰も予想できない結末に。
その複雑さと、タイトルが意味する「 偶像 」とは?
画像の引用元:IMDb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
悪の偶像
公開日
2020年6月26日
上映時間
144分
キャスト
- イ・スジン(監督)
- ハン・ソッキュ
- ソル・ギョング
- チョン・ウヒ
予告編
感想レビュー
好きだった点
作品に漂う「 フィルム・ノワールの世界観 」を狙った演出が好きでした。
そこから派生した真のテーマ「 偶像 」を考察させてくれるストーリーも好き。
良くも悪くも「 映画好きな人たちはこういうのが好きだよね 」と考えながら制作した印象を受けました。
嫌いだった点
考察を前提に制作されているため、話が分かりにくい構造になっている点は微妙だと思いました。
事件から現在に至るまで多くの部分を登場人物の会話で補っていかなくてはいけないので、気を抜くと内容に置いていかれそうになります。
死体遺棄など事実を示す決定的なシーンは描かれていません。
見どころ・考察
今まで隠れていた人間の本性的な部分が暴かれていく点。
息子のひき逃げ事件を発端に、その父親である知事候補は窮地に立たされます。
対応の紳士ぶりがさらなる人気を獲得することに繋がります。
最終的には被害者の父親に選挙活動を手伝ってもらうようにまでなるのです。
まずここが普通のサスペンスとは違うところです。
憎み合うはずの両者が裏での金銭的・世間体的な取引を通じて共犯者となることで、歪な関係性を成立させるのです。
そんな裏事情を知りもせず、世間は彼らを褒め称えます。
ここに「 悪の偶像 」が描かれているように思いました。
そんな彼らの誤算と言えば、一連の事件で発覚した被害者の息子の妻の本性と、被害者家族の消せない本音です。
妻は最初、何かしらの事件に巻き込まれたのかもしれないと思われていました。
事件の裏には何か大きな事案が発生しているのではないかと観客に思わせるのです。
しかし、知れば知るほどその妻の本性は、自分のためなら他人の不利益や他人を痛めつけることに躊躇はしない。
そんな異常な性格の持ち主であることが判明します。
ここに次なる「 悪の偶像 」が存在すると思いました。
弱者の顔をした「 悪 」なのです。
一方、被害者の父親は、障害を抱える息子を支えてくれるいい妻だと信じて彼女のために尽力します。
しかし、そんなものは彼女(=悪)が見せていた偶像なのです。
実際のところは、全て彼女の思惑通りに動いていただけでした。
そして、ラストで転落していく2人の父親。
被害者の父親はテロまがいのことをしたために、世間からバッシングを受けます。
彼はひき逃げ事件を通して「 偶像 」の裏側を知ることになり、結果としてテロまがいの行為になってしまいました。
知事候補である父親には被害者の妻によって危害が加えられます。
しかし、ここが「 悪役として偶像を見せる 」側としての強さなのでしょうか。
彼は、顔にひどいやけどを負ってもなお、それを人前に晒すことでアピールに繋げていくのです。
あくまでも、彼は「 偶像 」としての高潔な自分を保ち続けるわけです。
この「 やけど 」ですが、被害者の妻によるやけど事件は彼女の姉に続いて2回目だと考えると末恐ろしくもあります。
姉はそのやけどのせいでひっそりと過ごし、逆に知事候補の加害者の父親はそれすらも利用するのです。
事件をきっかけに、自分自身でも知らなかったであろう「 悪 」の部分に気づいた加害者の父親。
知らなければ幸せだったかもしれない「 悪 」の存在に気付いてしまった被害者の父親の対比が印象に残ります。
まとめ
私たちが見逃しているだけで、そこかしこに転がる事柄は「 悪 」が見せている「 偶像 」なのかもしれない。
そんな裏に潜む「 悪 」を描いた意欲作だと思います。
本作のキャストは、演技力に定評のある主役の2人はさることながら、謎の多い被害者の妻を演じたチョン・ウヒが素晴らしかったです。
彼女は同監督の「 ハン・ゴンジュ 」にも出演しています。