「 ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー 」感想レビュー、社会不適合者同士の悲しき戦い

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高校を卒業したばかりのちさととまひろは殺し屋が仕事。

殺し屋協会に属する2人は、協会の言いつけに従って一緒に暮らすことになる…。

奇想天外な設定と本格的なアクションでカルト的な人気を呼んだ「 ベイビーわるきゅーれ

その続編は、2人を殺して後釜に昇格しようとする兄弟との戦いを描くもの。

しかしそんなあらすじとは一味も二味も違うユニークな仕上がりに。

一見おバカなアクションコメディの裏に隠された青春残酷物語としての正体とは?

目次

ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー

©ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー

あらすじ

ちさと(高石あかり)とまひろ(伊澤彩織)は、また途方に暮れていた・・・。ジムの会費、保険のプラン変更、教習所代など、この世は金、金、金。
金がなくなる・・・。時を同じくして殺し屋協会アルバイトのゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)兄弟も、途方に暮れていた…。
上からの指令ミスでバイト代はもらえず、どんなに働いたって正社員じゃないから生活は満足いかない。この世は金、金、金。金が欲しい・・・。そんなとき「ちさととまひろのポストを奪えば正規のクルーに昇格できる」という噂を聞きつけ、作戦実行を決意。ちさと・まひろは銀行強盗に巻き込まれたり、着ぐるみバイトをしたりとさあ大変。そんな二人にゆうりまこと兄弟が迫りくる・・・!育ってきた環境や男女の違いはあれど、「もし出会い方が違えば仲良くなれたかなぁ」なんて思ったり思わなかったり、ちょっと寂しくなったりならなかったりする物語である。

(公式サイトより引用)

公開日

2023年3月24日

上映時間

101分

予告編

キャスト

  • 阪元裕吾(監督・脚本)
  • 髙石あかり
  • 伊澤彩織
  • 水石亜飛夢
  • 中井友望
  • 飛永翼
  • 橋野純平
  • 安倍乙
  • MIZYU
  • RIN
  • SUZUKA
  • KANON
  • 渡辺哲
  • 丞威
  • 濱田龍臣

公式サイト

ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー

シリーズを順番通りに見ることで深まる面白さ

©ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー

シリーズ第3弾「 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ 」が公開目前(執筆当時)。

しかもテレビでは、連続テレビシリーズとして「 ベイビーわるきゅーれ エブリデイ! 」が放送中だ。

これは映画の方も1作目、2作目を見直してから3作目に臨もうということで、両作を連続してNetflixで鑑賞した。

筆者は、第1作「 ベイビーわるきゅーれ 」(2021)を見逃していて、先に本作を劇場で鑑賞。そのあとで第1作をNetflixで見た。

2023年に「 ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー 」を劇場で見たときは、第1作の方でも少し触れた通り、

面白くはあるが、予想したよりも普通のアクションコメディで、そこまで大評判になる理由はよく分からなかった。

そして第1作を見たとき、2作目よりもはるかにヘンテコな映画で、とりわけ深川まひろ(伊澤彩織)の社会不適合ぶりが物語の核になっていることに驚かされた。

そんなベイビーわるきゅーれシリーズ、今回は1作目と2作目を連続して見直したのだが、案の定、2作目が初見よりもはるかに面白く感じられた。

特に大きな理由は、2作を順番通りに見ると、まひろの人間的な成長が物語の大きな核になっていることが分かるからだ。

1作目のまひろは極端なまでのコミュ障で、「 生まれてすみません 」という言葉が服を着て歩いているような社会不適合者だった(ヒドい言われよう…)。

それがちさと(高石あかり)との関係を通じて、最低限の社会性を獲得。

少なくともちさととの間では適切な距離感を持てるようになったのが前作だった。

アメリカンニューシネマを思わせるバディムービー

この2作目では、一見社会適合性が高くコミュ力のありそうなちさとも、やはり相当にネジがはずれた人物であることが分かる。

特に金銭観念に疎く、ろくにルールも知らない賭け将棋でせっかくのバイト代をすってしまうなど、彼女もまひろとは違う形での社会不適合者なのだ。

そして本作では、相変わらずコミュ障なまひろが、少なくともちひろに対してならノーマルな思いやりを示し、助言を与えたり力を貸したりする姿が描かれるようになっている。

この人間関係の変化・成長は、1作目から続けて見てこそよく理解できる。

そんな2人の姿は、「 イージー★ライダー 」(1969)、「 真夜中のカーボーイ 」(1969)、「 スケアクロウ 」(1973)といった、

アメリカンニューシネマのバディムービーに通ずるものがある。

ちなみにテレビシリーズの「 ベイビーわるきゅーれ エブリデイ! 」では、まひろがもう少しコミュ障気味になっているので、

あれは時系列的には1と2の間なのかもしれない。

社会不適合者同士の悲しき対決

物語のもう一つの軸は、ゆうりとまことの殺し屋兄弟だ。

殺し屋協会に正式加入できず、身分としてはアルバイト。

そんな彼らが、間違った情報に惑わされて、正社員(正式な殺し屋)になるため、ちさととまひろコンビを殺そうとして起きる、悲しき空騒ぎ。

そこにあるのは、現代日本における大きな社会問題、非正規労働者の境遇そのものだ。

さらに言えば、弟のまことが定食屋の女店員に心を寄せるものの、その思いを極端なまでの不器用さでしか表現できないあたり、

コメディタッチで描かれてはいるが、彼もまたまひろとは少し違うタイプのコミュ障であることが分かる。

つまりあの2組は、ほぼ相似形なのだ。

しかしちさと/まひろの2人は、恵まれた才能と(詳しい経緯は描かれていないが)運によって、最初から正社員として起用され、不器用ながらも楽しく生きている。

一方のゆうり/まこと兄弟は、ちさと/まひろに比べると、素早い状況把握能力の点で見劣りするものの、最後の真っ向勝負では互角に近い戦いを繰り広げる。

つまり殺し屋としてそこまで極端な差があるわけではないのだが、正規雇用か非正規雇用かで、業界における両者の扱いには大きな差がある。

別の出会い方をすれば、友人になれたかもしれない彼らは、なぜ殺し合いをせざるをえなかったのか…

最後の戦いを通じて4人が共感と友情を覚え始めるところは、改めて見ると切なさに満ち溢れている。

本作は、” 若い女性の殺し屋コンビ “という荒唐無稽な設定に基づき、コメディと本格的なアクションを融合させたエンタテインメントだ。

しかしその中に、一般社会からはじき出された若者たちの悲哀という、優れて現代的でありつつ普遍的でもあるテーマが流れていることを見逃してはならない。

さまざまな映画との血脈

社会不適合者同士のバディムービーという側面に加え、ドロップアウトした若者たちが、

血みどろの暴力を通じて自己の生を確かめるドラマにも、アメリカンニューシネマを思わせるものがある。

特に最後の戦いには、明らかに「 明日に向って撃て! 」(1969)の終盤を彷彿とさせる描写がある。

ゆうり/まことの不器用極まりない兄弟に、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの姿が重ねられていることは間違いないだろう。

また、物語の中盤では「 花束みたいな恋をした 」(2021)が重要なモチーフとして扱われている。

古典的名作ならともかく、わずか2年前に公開された日本映画が、これだけ大きくネタとして扱われる例はめずらしい。

作中で松本さん(渡辺哲)が強力に推し、ちさととまひろがそれを見ることになるだけではない。

中盤のドラマ構造や台詞のやり取りが、同作に大きく由来しているようなのだ。

実は筆者は未見なので、あまり正確なことは言えないが、作劇上ほぼ間違いない。

「 花束みたいな恋をした 」を見たあとで本作を見直せば、さらに気付く点があることだろう。

他にもぬいぐるみを着たまま喧嘩をするまひろとちさとの姿が、MCUのアイアンマン

「 パシフィック・リム 」(2013)を思わせるなど、あれこれの映画ネタが隠されている。

アメリカンニューシネマを彷彿とさせる青春残酷物語としても、今どき女子の姿を荒唐無稽な設定で描いたコメディとしても、

阪元裕吾監督の真骨頂である凄まじい肉弾アクションとしても、いくつもの映画に対するオマージュ/パロディに溢れた映画愛映画としても秀逸な、シリーズ第2作。

第3作となる「 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ 」で、2人を待ち受ける戦いはどんなものになるのだろうか。

執筆者

文・ライター:ぼのぼの

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