「 アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方 」の映画情報・あらすじ・レビュー

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2025年1月、アメリカ大統領の座に返り咲いたドナルド・トランプ。

予測不能な言動で世界に混乱をもたらしている怪物は、一体どのようにして誕生したのか?

彼を今のように変貌させたのは、アメリカの影の歴史に名を刻む悪徳弁護士だった。

目次

アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方

©The Apprentice

原題

The Apprentice

あらすじ

20代のドナルド・トランプは危機に瀕していた。不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ、破産寸前まで追い込まれていたのだ。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーンと出会う。大統領を含む大物顧客を抱え、勝つためには人の道に外れた手段を平気で選ぶ冷酷な男だ。そんなコーンが“ナイーブなお坊ちゃん”だったトランプを気に入り、〈勝つための3つのルール〉を伝授し洗練された人物へと仕立てあげる。やがてトランプは数々の大事業を成功させ、コーンさえ思いもよらない怪物へと変貌していく……。
(公式サイトより引用)

公開日

2025年1月17日

上映時間

123分

予告編

キャスト

  • アリ・アッバシ(監督)
  • セバスチャン・スタン
  • ジェレミー・ストロング
  • マリア・バカローバ
  • マーティン・ドノバン
  • キャサリン・マクナリー
  • チャーリー・キャリック
  • ベン・サリバン
  • マーク・レンドール
  • ジョー・ピングー

公式サイト

アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方

トランプを作り出した男

©The Apprentice

ごく普通の若者だったドナルド・トランプが、いかにして今のような怪物に変貌したかを描く話題作。

トランプをはじめ実在の人物が実名で登場するセンセーショナルな作品だ。

ただ見る前の印象では、そのセンセーショナルさにタブロイド紙的ないかがわしさを感じたし、結末がどうなるかは既に分かっている物語なので、あまり興味を覚えなかった。

それが一変したのは、ドナルド・トランプのメンターとなった人物が、弁護士のロイ・コーンだと知ったからだ。

ロイ・コーン!

トニー・クシュナーの戯曲「 エンジェルス・イン・アメリカ 」の主役の一人ではないか!

トニー・クシュナーと「 エンジェルス・イン・アメリカ 」

トニー・クシュナーは1957年生まれのアメリカの劇作家だ。

本来は演劇畑の人だが、近年スティーブン・スピルバーグと組んで「 ミュンヘン 」(2005)「 リンカーン 」(2012)「 ウエスト・サイド・ストーリー 」(2021)「 フェイブルマンズ 」(2022)の脚本を書いているので、

名前を記憶されている映画ファンも多いことだろう。

何とこの4本は全てアカデミー作品賞にノミネートされている。

これは同じ監督/脚本家コンビとしては歴代最多記録だ。

そのことからも、2人の相性のよさが分かる。

そんなクシュナーの演劇分野での代表作が、1990年代初頭に発表された「 エンジェルス・イン・アメリカ 」だ。

第1部「 至福千年紀が近づく 」と第2部「 ペレストロイカ 」に分かれ、上演時間は両方合わせると、休憩を含めて7〜8時間に及ぶ大作。

筆者は2023年の新国立劇場での上演を見ている。

このときロイ・コーンを演じたのは山西惇だった。

「 相棒 」シリーズの印象が強いため、正直軽く見ていたのだが、そんなイメージを吹き飛ばすアクの強い演技を披露。

複数の演劇賞を受賞している。

大きめの上演はそれ以前に2回あり、1994年には宝田明が、2004年には山本亨が、それぞれロイ・コーンを演じている。

またHBOで5時間52分のミニシリーズとして映像化されていて、そちらでロイ・コーンを演じたのはアル・パチーノ。

監督はマイク・ニコルズ、脚本はトニー・クシュナー自身、そしてパチーノ以外の出演者もメリル・ストリープ、パトリック・ウィルソン、メアリー=ルイーズ・パーカー、エマ・トンプソン、ジェフリー・ライトなど、錚々たる顔ぶれだ。

演劇は10年に一度くらいしか上演されないので、ご興味を持たれた方は、まずこのテレビシリーズをご覧になるといいだろう(2025年2月現在Amazon Prime Videoでレンタル可能)。

内容だが、1980年代のニューヨークを舞台に、当時は新しい病気であったエイズ(HIV)に襲われたゲイコミュニティとその周囲の人々の姿を描くもの。

群像ドラマだが、ロイ・コーンはその中でも中心に位置する存在で、強烈極まりない悪徳弁護士としての姿が描かれる。

彼がこの物語に登場するのは、同性愛者でありエイズで亡くなったから。

ただし彼は同性愛者であることを隠し、自分がエイズであることを死ぬまで認めようとしなかった。

このあたりは全て史実に基づく。

検事時代に、ソ連のスパイとされたローゼンバーグ夫妻を死刑に追いやったことを誇りとし、ニクソンやレーガンなど保守系の政治家と強いコネを持ち、目的のためなら違法行為も平然と行う、スーツを着た獣のようなロイ・コーン…

まさかあの男がドナルド・トランプのメンターだったとは。

さらに深掘りされるロイ・コーン像

この映画でジェレミー・ストロングが演じたロイ・コーンは、「 エンジェルス・イン・アメリカ 」で描かれたロイ・コーン像とほぼ地続きだ。

実話ベースの作品だけに、実際のロイ・コーン、及びそれに忠実な「 エンジェルス〜 」のキャラクター造型から離れることができなかったためだろう。

ただしそれは欠点ではない。

本作のロイ・コーンは、「 エンジェルス〜 」のキャラクターを土台にしつつ、この悪徳の権化のような人物が持つ冷酷さと攻撃性、そして悲哀をさらに深掘りしていく。

ジェレミー・ストロングは今年のアカデミー助演男優賞にノミネートされているが、ぜひ受賞してほしいと思える迫真の演技だ。

勝つための3つのルール

そのロイ・コーンがトランプに伝授する「 勝つための3つのルール 」がある。

  • 攻撃、攻撃、攻撃
  • 非を絶対に認めるな
  • 勝利を主張し続けろ

これは現在のトランプ大統領の行動原則そのものだ。

コーンが最も重要だと強調するのが3つ目の「 勝利を主張し続けろ 」。

2020年の選挙結果を「 民主党の不正だ 」と主張し続け、2021年1月の連邦議会襲撃事件を招いたのは、まさしくこのルールに基づくものだ。

ただし、くれぐれも誤解してはならないのは、ロイ・コーンがそのようなルールを直接トランプに伝授したという事実は、公式には確認されていないということだ。

だがその3つのルールは、生前のロイ・コーンと現在のトランプの言動にぴったり当てはまる。

これほど分かりやすく整理されていなくても、コーンがそのような極意をトランプに伝えたのかもしれない。

あるいはトランプがコーンの生き方を見て自然に学んだのかもしれない。

この「 勝つための3つのルール 」が、コーンからトランプへと受け継がれたものを的確かつ象徴的に表現していることは間違いない。

アメリカの暗黒の系譜

現在のトランプの強引な政治手腕と、彼が引き起こす世界的な混乱。

その原点にいた人物が、あのロイ・コーンだったという驚き。

さらに言えば、ロイ・コーンは、マッカーシー上院議員やFBIのJ・エドガー・フーバー長官の下で働いていたこともある。

赤狩りの先導者であるマッカーシーと、FBIで権力を乱用したフーバー。

アメリカ近代史における2つの暗黒が、ロイ・コーンを経由してドナルド・トランプに受け継がれていたのかと思うと、横溝正史ミステリにおける血の系譜のような因縁に背筋が寒くなる。

映画を追い越してしまった現実

ただしこの映画には大きな欠点がある。

劇中で描かれるドナルド・トランプは、実業家として大成功を収めた1980年代までの姿だ。

その時点でも十分に怪物ではあるのだが、2025年に大統領の座に返り咲いたトランプの怪物ぶりは、その比ではない。

ニュースを見れば、毎日のように、大きな物議を醸す発言と政策が飛び出してくる。

つまり現実が映画を追い越してしまっているのだ。

もちろん映画は、その後大統領になったトランプを前提として作られたもので、観客もそれを承知の上で見ている。

ただしそれは1期目のことであり、この映画の製作中に彼が大統領に返り咲くことは、あくまでも可能性、それも映画の内容から見て「 実現してほしくない可能性 」でしかなかったはずだ。

2025年のトランプが世界にもたらしている混乱を見てしまうと、このような映画が現実に対してどれほどの力を持ちうるのかと思わずにはいられない。

悪によって凌駕された悪の悲劇

それもあって、筆者は本作を「 ドナルド・トランプの物語 」という以上に「 ロイ・コーンの物語 」として見た。

ロイ・コーンは、病に冒され、自らの見習い(apprentice)であったトランプが、もはや自分のコントロールなど効かない怪物として成長すると、出がらしのように捨てられる。

怪物が、自らの育てたさらに巨大な怪物によって凌駕され、滅びていく姿は、シェイクスピア悲劇のような荘厳さと暗黒性を備えている。

本作の評価の分かれ目は、この物語を「 ドナルド・トランプ誕生秘話 」として見るか「 悪人が自らの育てた悪人によって凌駕されていく醜怪な悲劇 」として見るかにありそうだ。

前者を入り口として見る人が大部分だと思うが、最終的には後者として捉えた方が、より深く本作を楽しめることだろう。

執筆者

文・ライター:望月正人

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