2024年の日本映画は稀に見る豊作だった。
質の高さと興行的ヒットが必ずしも一致しないという問題はむしろ深まっているが、それすら忘れさせるほど質の高い作品が揃い、日本映画史の中でも一つの黄金期と言える活況を呈していた。
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2024年度日本映画トップ10は?
- 夜明けのすべて
- ぼくのお日さま
- 悪は存在しない
- ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
- 正義の行方
- 愛の茶番
- 雨の中の慾情
- デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章/後章
- ぼくが生きてる、ふたつの世界
- アイミタガイ
次点:Cloud クラウド/辰巳
第1位「 夜明けのすべて 」

あらすじ
月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。
(公式サイトより引用)
公開日
2024年2月9日
上映時間
119分
予告編
キャスト
- 三宅唱(監督)
- 松村北斗
- 上白石萌音
- 渋川清彦
- 芋生悠
- 藤間爽子
- 久保田磨希
- 足立智充
- 宮川一朗太
- 内田慈
- 丘みつ子
- 山野海
- 斉藤陽一郎
- りょう
- 光石研
公式サイト
コメント
他人には理解されにくい病気を抱えた人間の生きづらさに、人としての自然な優しさと思いやりで寄り添う物語。
恋愛関係に依らない主人公2人の支え合いも、過度な干渉は避けつつ朝日のように柔らかな温もりを与えてくれる栗田科学の人々も、全てが心に染みる。
そしてこの映画の陰の主役が、画面に直接登場しない人物、自ら命を断った栗田社長の弟であることを忘れてはならない。
彼が残したノートを元に語られるプラネタリウムのナレーションは、人の生と死や喜びと悲しみ、全てを包括してしまう感動的なテキストだ。
三宅唱の演出は、前作「 ケイコ 目を澄ませて 」(2022)の純度を保ったまま、さらなるポピュラリティを獲得。
日本映画界のトップランナーとして、今や濱口竜介と肩を並べる存在になった。
第2位「 ぼくのお日さま 」

あらすじ
雪が積もる田舎街に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習にいそがしい。
ある日、苦手なアイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)と出会う。「月の光」に合わせ氷の上を滑るさくらの姿に、心を奪われてしまうタクヤ。
一方、コーチ荒川(池松壮亮)のもと、熱心に練習をするさくらは、指導する荒川の目をまっすぐに見ることができない。コーチが元フュギュアスケート男子の選手だったことを友達づてに知る。
荒川は、選手の夢を諦め東京から恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む街に越してきた。さくらの練習をみていたある日、リンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。
タクヤのさくらへの想いに気づき、恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあうことに。 しばらくして荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめることになり……。
(公式サイトより引用)
公開日
2024年9月13日
上映時間
90分
予告編
キャスト
- 奥山大史(監督)
- 越山敬達
- 中西希亜良
- 若葉竜也
- 山田真歩
- 潤浩
- 池松壮亮
公式サイト
コメント
まだ20代の新鋭、奥山大史が放った息を呑むような傑作。
昔の自主映画を思わせる、スタンダードサイズでざらついた質感の画面は、最初のうちは貧乏くさい印象が強い。
その画面が次第に光輝くように感じられてくるのは、まさしく映画の魔法を見る思いだ。
主人公の少年少女とコーチの青年の間につかの間成立する美しい三角形。
それがある出来事をきっかけに崩れていくときの、ざらつくような切なさ。
無垢の喪失というテーマや主人公が少年であることなど、筆者が2023年の外国映画ベスト作に選んだ「 CLOSE クロース 」との類似点が多い。
そのような個人的好みを考慮しても、傑作と呼ぶにふさわしい作品だ。
第3位「 悪は存在しない 」

あらすじ
長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。
(公式サイトより引用)
公開日
2024年4月26日
上映時間
106分
予告編
キャスト
- 濱口竜介(監督・脚本)
- 大美賀均
- 西川玲
- 小坂竜士
- 渋谷采郁
- 菊池葉月
公式サイト
コメント
濱口竜介の前作「 ドライブ・マイ・カー 」(2021)は、日本映画として初めてアカデミー作品賞にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞。
国内外で多くの支持を得たが、それに続く新作は、これまでで最も難解で一般性を欠いた映画だった。
しかし難解というのは、通常とは違うドラマツルギーが使われているからに過ぎず、「 悪は存在しない 」というタイトルの向こうにコンラート・ローレンツの動物行動学を見出せば、
人間の道徳とは違う自然の秩序と、それを乱す者への攻撃を描いた物語であることが分かる。
元々がライヴパフォーマンスのための映像から発展したというだけあって、美学的な諸要素(映像・音楽・音響)が極めて秀逸だ。
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