多様性をテーマとして掲げているとはいえ、アカデミー賞はアメリカの映画賞であり作品賞候補作は多くが英語作品である。
今のところ、非英語作品で作品賞を受賞したのは韓国映画「 パラサイト 半地下の家族 」(2019)のただ一例である。
候補の多くを英語作品が占めるため、作品の評価自体に引っ張られる傾向のある演技部門も英語で出演した場合が大半である。
しかし、稀に全編、またはほぼ全編で英語以外での演技にも関わらずアカデミー賞を受賞する例がある。
今年(第97回アカデミー賞)は全編ポルトガル語のブラジル映画「 アイム・スティル・ヒア 」(2024)から、フェルナンダ・トーレスが主演女優賞候補入りを果たしている。
全編スペイン語の「 エミリア・ペレス 」(2024)ではカルラ・ソフィア・ガスコンとゾーイ・サルダナがそれぞれ主演女優賞、助演女優賞で候補入りした。
非英語作品の出演者が3人も候補入りした例は、筆者が調べた限りではアカデミー賞史上初である。
今回は、「 英語以外で米アカデミー賞の演技部門を受賞した俳優 」の稀有な例をまとめた。
1人目:ソフィア・ローレン

非英語作品のアカデミー賞演技部門受賞者第1号となったのが、イタリアの国際的スター俳優、ソフィア・ローレンである。
既にハリウッドにも進出済みだった彼女の、初のオスカー受賞はイタリア映画の「 ふたりの女 」(1960)だった。
以後もヨーロッパとハリウッドの両方で活躍し、イタリア映画の「 あゝ結婚 」(1964)で2度目のアカデミー主演女優賞候補になっている。
2人目:ロバート・デ・ニーロ

アカデミー賞受賞2回、ノミネート8回を誇る、もはや説明不要のレジェンド俳優。
ニューヨーク出身のアメリカ人だが、全編イタリア語の超大作「 1900年 」(1976)に出演したことがあり、自身のルーツもイタリアで、何かとイタリアに縁がある。
デ・ニーロのアカデミー賞初受賞となったのはアメリカ映画の「 ゴッドファーザーPART II 」(1974)だが、イタリア移民のマフィアのボスを演じたデ・ニーロの出演パートはほとんどがイタリア語だった。
彼の演じたヴィトー・コルレオーネがシチリア島出身との設定だったため、デ・ニーロはわざわざシチリアまで赴いてシチリア方言のイタリア語を習得している。
狂気とも思える役作りは高く評価され、ほぼ英語のセリフがないにも関わらずアカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞している。
デ・ニーロは後年、イタリア映画「 昼下がり、ローマの恋 」(2011)にも出演している。
3人目:ロベルト・ベニーニ

こちらもイタリア語の作品「 ライフ・イズ・ビューティフル 」(1997)からの受賞である。
ユダヤ人迫害(ホロコースト)を、ユダヤ系イタリア人の親子の視点から描いており、シリアス一辺倒になりがちなホロコーストものにはめずらしく、コメディの要素が含まれている。
監督、脚本、主演のロベルト・ベニーニがコメディアンとしても活躍してきた経歴が反映された内容である。
本作はイタリア国内にとどまらず国際的に高く評価され、カンヌ国際映画祭で次点にあたるグランプリを受賞。
非英語作品ながらロベルト・ベニーニは主演男優賞を獲得した。
のちにベニーニは監督、脚本、主演の「 ピノッキオ 」(2002)でゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞も受賞している。