文・ライター:@リリヲ
1972年に起きたウルグアイ空軍機571便遭難事故に遭った若者たちの真実と想いを余すところなく描いた極限のサバイバルドラマ。
J・A・バヨナ監督(「インポッシブル」)最新作で、PG12も納得のリアルさを追究したエグさがあるので覚悟して観て。
雪山の絆
あらすじ
1972年、ラグビー選手団が乗ったチャーター機 – ウルグアイ空軍機571便はアンデス山脈に墜落。乗客45名中、生存者29名。生存者たちは、生き延びるために究極の選択を迫られる。
原題
La sociedad de la nieve
公開日
2023年12月22日
上映時間
143分
予告編
キャスト
- J・A・バヨナ(監督)
- エンゾ・ボグリンシク
- アグスティン・パルデッラ
- マティアス・レカルト
- エステバン・ビリャルディ
- ディエゴ・ベゲッツィ
- フェルナンド・コンティヒアニ・ガルシア
- エステバン・ククリスカ
- フランシスコ・ロメロ
- ラファエル・フェダーマン
- バレンティノ・アロンソ
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
見渡す限り雪山しかない極寒のアンデス山脈で72日間も遭難し16人も生還?
なぜ?
どうやって?
その答えが本作にあり、バヨナ監督が大自然の深淵さと人間の生への渇望を圧倒的なリアルをもって描きだしている。
まず、冒頭のチャーター機墜落の瞬間の機内映像を筆頭に、彼らに何度も降りかかる自然の脅威の描き方が、私が観てきた中でも過去イチ、エグい。
ホラー映画の十八番、スペイン作品だからかもしれないが、観客は143分余すことなく真実を伝えようという制作陣の意志をしっかり感じることだろう。
2022年が遭難事故から50年の節目の年ということもあり、搭乗者全員が亡くなったタイミング、名前などが表示され、長い時を経て再び犠牲者を追悼しているように感じた。
16名が生き延びられた理由
雪山の装備も十分な食料もなく、多くが大怪我を負った状態でアンデス山脈に投げ出された29名の生存者たち。
高度3700mで酸素は極薄だ。
彼らが若く屈強なラグビー選手集団だったこと、医大生が2名いたこと、強運はもちろんある。
しかし、一番のポイントは墜落直後からチームの仲間内で助け合い、絶望へ心が向かないように気を配り合い、良い意味でスポーツ脳を発揮し、過酷な状況下でも争わず「 One for all, all for one 」精神でワンチームをキープし続けたからではないだろうか。
現に後半にかけてチームを引っ張ることになったナンドは「 相手が動いてくれるように考え発信してくれるよう 」心がけて対話をしていた。
ナンドは過酷な環境下でも毎日のトレーニングを欠かさず鍛え続け、遂には何日も歩き、人里に助けを求めることに成功したのだ。
人肉を食すことへの罪悪感とバッシング
食料のない世界で飢餓状態に陥った彼らは、生き延びる為に亡くなった仲間や家族の人肉を食べ、生き延びることを覚悟をもって選択した。
当然、彼らは決断した段階で、一生のトラウマを抱え罪悪感とともに生き続けなければならないことを知っていた。
のちに生還してお祝いムードだった群衆が、手のひら返しで彼らをバッシングをすることに繋がってしまう。
本作のナビゲーターを務め、最期の死者となったヌマだけは人肉を食べなかったが「 友の為に命を捧げるほど偉大な愛はない 」と書かれた手紙を残し、自分がいなくなった後も仲間の力になりたいと願った。
この度重なる不条理な世界でも強情で勇敢であり続ける彼らの姿をみて、私はひとつのチームによる生き延びる為の命のリレーを目の当たりにしているのだと気づいた。
映画「 白鯨 」の元となり、同じく人肉を食し94日間の遭難から生還した1819年のエセックス号遭難事故とどこがどう違うのか?
比べながら観るのも興味深いだろう。
本作は心に突き刺さる実話ではあるが、簡単に涙で昇華できる類のものではない。
もっと深く重く、圧倒的な生命力と凄みのある秀作だ。