文・ライター:リリヲ
Netflixオリジナルドラマ作品である本作。
元NHK職員の経歴を持つ黒崎博監督がNetflixとタッグを組んだことに驚いたが、
日本テレビドラマ界を代表する脚本家・岡田惠和がネットに進出することにも意外性があり、驚かされ興味が湧いた。
黒崎監督と有村架純は映画&ドラマ「 太陽の子 」以来2度目のタッグ。
脚本の岡田と坂口健太郎も映画&ドラマ「 そして、生きる 」以来2度目。
岡田と有村は、有村の映画デビュー作「 阪急電車 片道15分の奇跡 」(2011)から数えるとなんと本作で6回目の再タッグだ。
有村はつくづく制作陣に愛される俳優だと思い知らされる。
自身の演技を着実に次作へと繋げており、いまや実力派といっても過言ではないだろう。
そんな安心・安全、期待感しかない本作の魅力を解説していく。
北海道とハワイの雄大な景色を舞台に描かれる、交通事故で恋人を失ったさえ子と、
その恋人の心臓を移植され命を救われた成瀬が数奇な運命に翻弄されていく切ないラブストーリー。
ドナーの記憶や感情が臓器受給者に移ってしまう、いわゆる記憶転移を描いた作品だ。
さよならのつづき
あらすじ
事故で最愛の人を失った後、導かれるようにひとりの男性と出会ったさえ子。実はその男性は、さえ子の亡くなった恋人から提供された心臓に命を救われ、その記憶も引き継いでいて…。
(公式サイトより引用)
公開日
2024年11月14日
予告編
キャスト
- 黒崎博(監督)
- 岡田惠和(脚本)
- 有村架純
- 坂口健太郎
- 生田斗真
- 中村ゆり
- 三浦友和
- 奥野瑛太
- 伊藤歩
- 古舘寛治
- 宮崎美子
- 斉藤由貴
- イッセー尾形
公式サイト
あらすじ・感想レビュー(第1話)
物語のはじまりは、北海道の雪山を走るバスの中。
雄介のおっちょこちょいにより思わぬ形でプロポーズが成功した幸福の絶頂の直後、
突然の雪崩により、バスごと山底に落下してしまう。
さえ子をかばい、即死した雄介の心臓は移植され、さえ子は最愛の伴侶になるはずだった人を失ってしまう。
仕事で、雄介と出会ったハワイに再び降り立ったさえ子は、2人の出会いのきっかけとなったヒロと再会し、
雄介との日々に思いを馳せる。
ヒロとの取引に悩んでいたさえ子を雄介がストリートピアノで励ましたことをきっかけに2人は出会ったのだ。
楽しかった日々を思い出し、帰路につこうとしていたさえ子は聞き覚えのあるピアノの旋律に走り出す。
その先にはストリートピアノを弾く成瀬がいた。
第1話のレビューを見る
北海道でのプロポーズが成功した直後、スローモーションで宙を舞うさえ子と雄介、2人の一瞬の光景が、
これから待ち受ける「 どこへ向かうのか分からない 」未来を予期しているようだった。
雄介の最期は幸せだったのか、それとも無念だったのか、雄介の笑顔を見れば明らかだけど、ふと、そんなことを思った。
雄介亡きあと、雄介の心臓を移植された人物から手紙を受け取るが、読む気にならず、
さえ子は寂しさを忘れるように仕事に没頭していた。
職場のコーヒー会社では明るく振る舞い、雄介が残してくれた婚約指輪は薬指ではなくネックレスに。
薬指にしていたら、この先も一人で雄介を想い続ける意志ともとれるが、さえ子はそうしなかった。
見ないようにしているわけではなく、雄介を想いながらも前に進もうとする強い女性なのだと感じた。
そして舞台はハワイへ。
冒頭のスローモーションといい、お金かけてるな~さすがNetflix(笑)
日本を離れて息つく時間を用意してもらったことで雄介との出会いに思いを馳せるさえ子。
その幸せな回想は、雄介の走馬灯でもあったのではないかと感じてしまった。
そのくらい2人の相性のよさが伝わってきたのだ。
そんなハワイの地で、さえ子はふと雄介のストリートピアノと同じ旋律を耳にし、思わず走り出す。
その先には、臓器提供のお礼とともに、
「 できることがあるのなら、あなたを助けに行きたいとさえ思います。私の心がそう思ってしまうのです 」
とさえ子に手紙をあてた成瀬がいた。
成瀬のこの想いは、誰のものなのか?
普通のラブストーリーならば、希望と未来のある恋の予感を期待してしまうところだが、
本作は普通のラブストーリーではない。
その中で純度の高い愛をどこまで描けるかという点に注目していきたい。
あらすじ・感想レビュー(第2話)
心臓移植が決まる前の成瀬の病室から物語は再開する。
雄介が上げた花火を窓越しに見る成瀬とミキ。
「 来年の花火大会まではもう保たないと思う」という成瀬の言葉に、ミキは帰りの車内で抑えていた涙が止まらない。
しかし直後、移植可能の連絡を受ける2人。
移植成功から目覚める最中、成瀬は脳裏に見覚えのない光景を感じながら目覚める。
そこから苦手なはずのコーヒーを飲みたくなったり、快気旅行先のハワイでふと目にしたピアノに吸い寄せられ
一曲演奏してしまったり、不可思議な自分に戸惑いながらも、再びミキと人生を歩める幸せを噛みしめていた。
演奏していた成瀬とは行き違いになってしまい会えなかったさえ子だったが、成瀬からのサンクスレターに返信を書く。
その手紙が互いの心の支えとなり、人生を進みだす2人だったが、
偶然乗り合わせた電車が遅延したことで復旧を待つ駅のホームで、ついに2人は出会ってしまう。
第2話のレビューを見る
移植に間に合わず人生を終えることになるかもしれないと感じる成瀬と、
それを感じながらも成瀬の前では明るく振る舞い、一人になった車内で溢れる涙を抑えられないミキを見て、
この2人はこれまでどれだけの長い時間、この重く溢れ続ける不安と戦いで消耗してきたのだろうと彼らの過去に思いを馳せた。
成瀬の持病を乗り越えての結婚なのだから、2人の絆が相当強いことは想像に難くない。
移植可能の連絡を受け、これまで抑えていた不安や悲しみ、絶望、全ての感情が一気に押し寄せ胸が詰まる成瀬。
このシーンはほんの1分ほどだったが、そのワンシーンに成瀬のこれまでを全て凝縮させている坂口の演技は見事だった。
そして、ついに成瀬とさえ子が出会ってしまう。
これは、雄介のさえ子を想う強い気持ちが導いたものなのだろうか?
電車の復旧を待つ駅のホームで、コーヒーを淹れる成瀬の横顔がふと雄介と重なった。
おそらく寄せて演じてはいるのだろうが、生田と坂口のパブリックイメージの違い、
雄介と成瀬のある意味正反対の性格と人生を考えると、
俳優の演技はもちろん、ここで自然とそう感じるように感情を高めていく演出も、丁寧に積み重ねられたものだからなのだろう。
コーヒーのドリップを見ている成瀬の脳裏に突如、激しい心臓の音とともに、
自分のものではない記憶、知らない女性の幻影がフラッシュバックする。
それがさえ子と重なり、思わずさえ子を見つめる成瀬。
有村と坂口の俳優としてのイメージ上、どちらかというと「 静 」の雰囲気の中で物語は進むが、
自然に、しかし強烈にクライマックスを盛り上げ、思わず次のエピソードを一気見してみたくなる構成も隙がなく匠の域だ。
米津玄師が歌う主題歌「 Azalea 」の柔らかな声や歌詞も、物語を優しく包み込んでいて素晴らしい。
ポップなメロディーなのに切なさの扉をノックされ、既に涙腺がやばい。
タイトルの花、アザレアの花言葉は「 あなたに愛されて幸せ 」だ。
あらすじ・感想レビュー(第3話)
電車の遅延を待つ間、成瀬が入れたコーヒーを飲んだことをきっかけに、
行き帰りの通勤の車内で友人のように話をするようになった成瀬とさえ子。
さえ子は、成瀬が生前の雄介と同じことを言う度に複雑で切ない気持ちになってしまう。
一方、成瀬もさえ子に既視感があり、会ったばかりのさえ子と話がしたいと思う自身の感情の意味を自問自答していた。
成瀬はすっかりコーヒーを好きになり、術前とは性格や嗜好が大きく変化していた。
そんな成瀬にミキはなぜか大きな不安に駆られる。
ある日、成瀬はミキの運転でリンゴの品評会に向かう道中、雄介とさえ子が事故に遭った道を通ってしまう。
すると突然、成瀬の脳裏にリアルに事故の光景が降りかかり、パニックに陥ってしまう。
成瀬は自分がドナーの記憶を持っていることを確信してしまった。
第3話のレビューを見る
序章を終えた3話は、一話の中にエピソードをぎゅぎゅっと詰め込んでおりボリューミーではあるが、
ポイントを感情面に絞っているので、どのエピソードも大事なシーンとして印象的だった。
1~2話が衝撃の展開だっただけに、3話では大自然の中にポツンとある駅で、
豊かな自然を感じながらコーヒーを飲む贅沢な時間が美しい映像とともに描かれていたり、
さえ子の人懐っこく衝動で動く性格が成瀬とさえ子が仲良くなるきっかけを作ったりと、
全体的にほっこりするシーンも多かった。
元々、岡田惠和の脚本で、さえ子は無邪気なキャラクターとして描かれていたが、
有村はさらに明るく誰からも好かれるさえ子にブラッシュアップしてほしいとクランクイン前に提案したそうだ。
このさえ子の明るさと無邪気さと、北海道とハワイの美しい情景が物語を照らすことにより、
重たいテーマを緩和し、視聴者が見やすいよう工夫されており、引き込まれた。
3話で垣間見えたさえ子の衝動性が、今後の展開に大きく作用する伏線になってくるのだろう。
また、友人となった成瀬とさえ子が連絡先を交換していないなかで、
1時間に1本しかない電車で会えるのか?会えないのか?とやきもきしたり、
約束していたさえ子の誕生日に現れなかった成瀬をただ待つことしかできないさえ子の切なさが、
携帯電話で手軽に繋がれる代わりに失ったドラマ性を高めていた。
今の地上波では見られない太っ腹なハワイロケも含め、
往年のトレンディドラマの醍醐味キターー!と一人盛り上がってしまった。
ラストの成瀬が雄介の記憶を持っていると確信するシーンも、
“ 記憶転移 ”というある意味ファンタジーともとれるテーマを、
リアルに現実的に起こっていることとして描いている点も、地に足のついた岡田の脚本の秀逸さが際立っていた。
あらすじ・感想レビュー(第4話)
小樽のテラスカフェで誕生日を過ごす雄介とさえ子の回想から物語は再開する。
雄介の死から一年が経ち、成瀬が行けないだろうと話していた花火大会の日がやってきた。
成瀬はミキに自分の心臓の記憶のことと今の気持ちを打ち明ける。
誕生日のすっぽかし以来、成瀬と雄介の言動が似ていることを理由に成瀬と距離を置こうとしたさえ子だったが、成瀬が務める大学での仕事担当になってしまう。
その夜、成瀬が大学内で台風に巻き込まれ動けなくなったさえ子を助けたことで二人は急接近する。
成瀬はさえ子に自分が大きな手術を受け、その影響で性格や嗜好が変わったことを話し、その流れで、さえ子は好きだった人は亡くなったと明かす。
深夜、大学図書館で眠るさえ子を見つめる成瀬の脳裏に突然、知らない部屋で眠るさえ子が誰かに話しかける姿が浮かぶ。
さえ子もまた夢の中で自分の寝顔を笑顔で見つめる雄介の姿を見ていた。
目覚めたさえ子に、成瀬は現実感のないまま「言いたいことが浮かんで。言ってもいいですか?お誕生日の日に言えなかったこと・・・」と話し出す。
その後に続いた言葉は冒頭の回想でかつて雄介がさえ子に言った台詞と一言一句同じだった。
第4話のレビューを見る
4話では、さえ子とミキが心の内を明かすことで、それぞれの性格の違いがより深く描かれていた。
成瀬に対し、「 会うのを楽しみにしていたが、やはりよくないのでやめます 」とさえ子が宣言するシーンでは、
さえ子の勝気ではっきりした性格が出ていた。
自分がモヤモヤを抱えているのが嫌なのだろうが、伝えることでそれが相手にとって
時に残酷になることもあるということに気付いていない。
その勝気さを有村が演じることでうまく中和されており、
これも完璧なキャスティングと絶賛されている理由の一つなのだろう。
これが今後の展開にどう作用してくるのか、気になるところだ。
さえ子がミドリに力説するシーンの、「 自分の選択の結果を人のせいにはしない 」という台詞は、
有村自身が本作のインタビューで、自身の考え方として語っていた言葉だ。
有村は自分と芯が似ている役柄を引き寄せる傾向にあるが、
本作では制作側が有村の性格を役柄に反映させたのではないだろうか。
ある意味、さえ子と真逆のキャラクターがミキだ。
心臓の記憶のことを話す成瀬を心配し涙ぐみながらも、
「 丸ごと受け入れる 」と最終的に笑ってみせる強さと明るさがミキにはある。
花火大会でミキが語っていた、
「 心臓の持ち主を愛する人がいて、心臓が記憶を持っていたとしたなら会いたいのかな?私だったら会いたい 」
という言葉は、そこまで想像して誰かを思えるミキの愛情深さが表れている台詞だと感じた。
心臓移植を待つことは、
「 朝、新聞の交通事故欄をチェックしてしまうこと、どこかの誰かの死を望んでしまうことだ 」と聞いたことがある。
ミキも長年、そう願ってしまう自分との葛藤に苦しんできたからこそ、
幸せの最中で、ドナーの家族の苦しみまで想像する心を持つことができたのだろう。
ミキはこのつらい経験を通して、これだけの愛情と思いやりの心を深めてきたのだろうと、彼女の半生を想像した。
台風の夜にドミノ倒しのように雄介と成瀬を繋ぐ線が繋がってしまったが、
成瀬を雄介だと感じてしまったさえ子はどんな行動に出るのだろう?
そのとき、成瀬は?ミキは?
この夜の嵐のような幕開けのラストだった。
あらすじ・感想レビュー(第5話)
雄介と同じ台詞を話す成瀬に驚いたさえ子は、死んだ恋人が「 中町雄介 」であることを成瀬に告げる。
雄介が亡くなった場所でさえ子と再会した成瀬は、さえ子に雄介の記憶を持っていることを告げ、
さえ子も成瀬の中に雄介がいることを確信する。
「 心臓の音、聴いてもいいですか? 」
成瀬の胸に耳を傾けたさえ子は、心音を聞いた瞬間、溢れる涙を止められない。
さえ子は健吾にこれまでのことを報告するが、
「 俺は会いたくない。さえ子もやめた方がいい。雄介がいるから楽しいんじゃなくて、その人が好きなんじゃないの? 」
と言われてしまう。
しかし、さえ子が去ったあと、健吾のカフェに成瀬が訪れる。
その帰りの駅で落ち込むさえ子を見つけた成瀬。
さえ子を元気づけたいと再び心臓の音を聞かせる成瀬だが、思わずさえ子を抱きしめてしまう。
成瀬は分からなくなっていた。
自分がさえ子に会いたいのか、雄介がさえ子に会いたいのか。
第5話のレビューを見る
パンドラの箱が開き、それぞれの気持ちが波立ちはじめた5話。
“ 雄介の心臓 ”はそれぞれの人物に混乱と苦しみをもたらしてしまう。
「 誰かを失ってしまっても、愛された記憶があなたを支える 」という本作のテーマ、
それぞれのキャラクターの中で生き続けている雄介の存在の大きさを感じさせられる回だった。
医学的には証明されていなくても、“ 記憶転移 ”の実例は存在しており、
このことも含めたさまざまなトラブル回避のため、臓器受給者にドナーの情報は明かさないと決められているのだろう。
たとえ記憶転移がなくとも、人は愛した人のほんの一部でも、また会いたいと願ってしまうものだから。
雄介の心音を聴いたさえ子の機微な表情演技はさすがの有村だったが、
雄介の心臓が自分を覚えていると知り、思わず涙する健吾を演じた奥野瑛太の名演も光っていた。
奥野は初回の打ち上げ花火のシーンから、健吾が雄介のことを想う強い気持ちが伝わってくる情感豊かな演技をしていて、
奥野の表情演技も素晴らしく、もっとストーリーに絡んでほしいくらいだ。
「 雄介の心臓の音が聴こえて、私のことを覚えてくれている。この世界から雄介がいなくなったわけじゃない。
だから私は会う 」と強く言い切り、成瀬の中の雄介に会いたいさえ子と、
「 自分が会いたいのか、雄介が会いたいのか分からない 」と言う成瀬。
成瀬はどこまでが成瀬で、どこからが雄介なのか?
さえ子はどこまで雄介を求めていて、どこから成瀬を求めているのか?
この割合が逆転したとき、2人の出す結論は?
「 会いたい 」「 会わない方がいい 」
人の感情は本来、正解、不正解と割り切れるものではない。
ただ、誰のためにどんな選択をするのか?
これからの展開はここがキーポイントになってくる気がした。