映画「 からかい上手の高木さん 」感想レビュー、ピュアで甘酸っぱい恋愛模様

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山本崇一朗のラブコメ漫画が実写テレビシリーズ化され、その続編(後日譚)として映画版が製作された。

テレビも映画も、監督を手掛けたのは恋愛映画の名手・今泉力哉。

中学生ならば成立したピュアなラブコメが、はたして20代の男女間に成立するのか?

目次

からかい上手の高木さん

©からかい上手の高木さん

あらすじ

とある島の中学校。隣の席になった女の子・高木さんに、何かとからかわれてしまう男の子・西片。

どうにかしてからかい返そうと策を練るも、いつも見透かされてしまい失敗…。そんなかけがえのない毎日を過ごしていた二人だったが、ある日離ればなれになってしまう…。

それから10年ーー、高木さんが島に帰ってきた!

「西片、ただいま。」

母校で体育教師として奮闘する西片の前に、教育実習生として突然、現れたのだった!

10年ぶりに再会した二人の、止まっていた時間と、止まっていた「からかい」の日々が、再び動き出すーー。

公式サイトより引用

公開日

2024年5月31日

上映時間

119分

予告編

キャスト

  • 今泉力哉(監督)
  • 永野芽郁
  • 高橋文哉
  • 鈴木仁
  • 平祐奈
  • 前田旺志郎
  • 志田彩良
  • 白鳥玉季
  • 齋藤潤
  • 江口洋介

公式サイト

からかい上手の高木さん

中学生の恋物語は24歳の男女間にも成立するのか?

©からかい上手の高木さん

原作は、アニメ化もされている山本崇一朗のラブコメ漫画。

実写化作品としては、この作品の前にTBS系で放送された8話のテレビシリーズがあり、映画はその続編(後日談)となる。

監督の今泉力哉をはじめ同じスタッフで作られていて、ロケ地も同じなので、肌触りは全く同じ。

完全にシームレスな世界観で繋がっている。

原作漫画は読んでいないが、テレビと映画は舞台が小豆島。

テレビ版のラストで高木さんはお父さんの転勤でパリに去ってしまい、その10年後に再び島に戻ってくる…というのはテレビ/映画オリジナルの展開らしい。

原作は全て中学生時代の話で完結しているが、映画版で採用されている花火大会の話などは、本来中学生時代のエピソードとして原作にあるようだ。

漫画版の後日談としては「 からかい上手の(元)高木さん 」があり、その設定もごく一部に使われている。

月島琉衣が高木さんを、黒川想矢が西片を演じたテレビシリーズは、まさしくピュアの塊のような名品だった。

大人と子どもの中間に位置する、あの時代ならではの愛らしさに満ちた物語。

「 十代の切なく美しい思い出 」として見事に完結していただけに、その10年後、24歳になった2人の恋愛物語は蛇足のように思えた。

しかし実際に見てみると、これがテレビシリーズに負けない、胸が締めつけられるほどピュアで甘酸っぱい作品になっていた。

声を大にして傑作と叫ぶような作品ではなく、心の片隅にそっと置いておきたくなる愛しくてたまらない作品だ。

花も実もある絵空事

テレビ版でも感じたように、漫画では成立しても実写映像ではリアリティを欠くシーンは山ほどある。

はっきり言えば、現実離れしたお伽話である。

従来の今泉作品と比べても、そのお伽話っぷりは際立っている。

しかしそのような作劇や世界観が明確で、最後までブレがない。

そのため最初のうちは少し引いてしまっても、見ていくうちに心が馴染み、感情移入してしまう。

映画とはしょせん「 虚構を通じて真実を描くもの 」

舞台が瀬戸内海のせいか、どこか大林宣彦映画を思わせる「 花も実もある絵空事 」として完成された作品だ。

テレビ版で特にリアリティを欠くように思えたのは、14歳の男女があれだけ仲良くしているのに、周りがほとんどはやし立てたりしないこと。

また、西片がどれほど鈍くても、さすがにあれで高木さんの思いに気付かないはずはない。

しかしそういう類のややこしいあれこれは映画版でも排除されている。

この高木ワールドに、そんな不純な要素は存在しないのである。ブレがない。

夢物語だからこそ浮かび上がる現実の悲しみ

今泉映画のファンから否定的な声が少なからず聞こえてくるのは、その極端に甘酸っぱさに偏った内容が、

苦みと甘さとユーモアが絶妙にブレンドされた「 窓辺にて 」(2022年)のような過去作からすると奥行きを欠くという理由からだろう。

前作が同じく漫画の映画化である「 アンダーカレント 」(2023年)で、そちらのシリアスな内容との落差に戸惑った部分もあるはずだ。

そういう不満が出るのは理解できるし、否定はしない。

しかしこれはこれで紛う方なき今泉映画。

確かに人間の悪意などどこにも存在せず、中学生時代の甘酸っぱい初恋がそのまま成就するなど、夢物語だ。

しかし、ここまで臆面もない夢物語だからこそ、このような幸福が現実世界には存在しない悲しみが、ピタリと裏側に貼りついている。

これは「 ありえない幸福を描くことで、その幸福が実在しない悲しみと、それがせめて映画の中では実現する喜び 」を味わう映画なのだ。

「 14歳の続き 」の物語

劇中の恋愛模様が、今どきの24歳の男女にしては幼いという批判も分かる。

しかしありえないと言うほどではなく、これくらい奥手な若者は確実にいる。

そしてテレビシリーズからの続きとして見ていれば、宣伝文句にもある通り、この2人の「 止まっていた時が再び動き始めた 」という印象が強い。

舞台が同じ中学校ということもあり、まさしく「 14歳の続き 」を描く物語だと考えれば、こうなるのも無理はない。

このような設定であれば、10年の月日を経て変化した関係性を描く作品も多いだろう。

最近では「 パスト ライブス/再会 」(2023年)がそんな映画の白眉だった。

だが本作は、そういう方向性ではなく「 止まっていた時が再び動き始めた 」感動に主眼を置いているということだ。

そのあり方を否定するのではなく、本作を「 パスト ライブス/再会 」の「 そうあってほしかった姿 」、コインの裏表としてとらえれば、感動がより深まるはずだ。

ルッキズムを突き詰めることでルッキズムを超越

最初のうち、多くの観客が違和感を抱き「 現実離れしている 」と醒めた目で見てしまう最大の要因は、西片も高木さんも美男美女すぎて(特に高木さん役の永野芽郁)、

「 どう見ても目立ち、モテまくるであろう男女が14歳の初恋だけを大切に10年間を過ごせるはずがない 」というものだろう。

それに対してこの作品は恐るべき演出を施してきた。

劇中、高木さんが美人だとかかわいいだとかいう台詞を完全に排除。

台詞のある役に関しては、大人も子どもも全て美男美女を揃えてきたのだ。

学校ものに定番のおデブさんなど、あまり容姿の優れない者は一人もいない。

それによって「 この高木ワールドにおいては、高木さんは特別目を惹くことのない並程度の容姿 」という設定にしてしまっているのだ!

実際、前半はともかく、後半は永野芽郁の容貌がごく当たり前のものに見えてくる。

ルッキズムを突き詰めることでルッキズムを超越してしまう演出…今泉力哉恐るべし。

今泉力哉の実力を正しく評価すべき

前から言っているが、ハイクオリティな作品を年に2本以上のペースで作り続けている今泉力哉は、間違いなく日本映画のフロントランナーの一人だ。

濱口竜介や是枝裕和のように海外の映画祭で受賞をするわけでもなく、興行的に大ヒットを飛ばすわけでもないため軽視されがちだが、映画作家としての手腕は今の日本映画で五指に入る。

その実力は、もっと高く評価されるべきだ。

「 からかい上手の高木さん 」は、そんな今泉力哉の最高傑作とは言えないが、最も愛らしく心が癒される作品かもしれない。

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