見終わっても体の震えが止まらなかった。
とてつもない映画だ。
ドゥニ・ヴィルヌーヴは、この映画で一挙にスタンリー・キューブリックやテレンス・マリックの領域に到達してしまった。
かなり極端な方向性ではあるが、「 映画芸術史上最高傑作の1本 」と言って過言ではない。
通常の映画とはまるで違う。
「 物語 」と言う以上に圧倒的な「 体験 」
そのためにこそ必要な166分の長尺。
後半のストーリーは原作から脚色されている部分が目立つが、それがことごとくハリウッド的な予定調和に反し、見る者の心を引き裂いていく。
DUNE / デューン 砂の惑星 PART 2

あらすじ
皇帝の命令で一族と惑星デューンへ移住した青年ポール。移住が罠と判明し、アトレイデス家とハルコンネン家の争いが勃発する。宇宙の命運を懸けた戦いが幕をあけるのだった。
原題
Dune Part Two
公開日
2024年3月15日
上映時間
166分
予告編
キャスト
- ドゥニ・ヴィルヌーヴ(監督 / 脚本)
- ジョン・スパイツ
- ティモシー・シャラメ
- ゼンデイヤ
- レベッカ・ファーガソン
- オースティン・バトラー
公式サイト
考察レビュー

本作は見る人を選ぶ作品
最新のVFXを駆使した映像スペクタクルとしても凄い。
だが「 単純なSFスペクタクル 」として見ようとすると確実に面食らうだろう。
ストーリーは壮大で深みがあるが、台詞は極端に少なく、説明的な描写は最低限に抑えられている。
かなり映画を見慣れていないと意味が分からない描写多数だ。
フレメンの習俗については、映像を見て「 そういうものなのだ 」と受け止めるしかない。
これは台詞やストーリーではなく、映像によって何かを語る…語ると言うよりは、その世界に放り込んでしまう体験型の映画だ。
体験の強度は半端なものではないが、映画をストーリー中心で見ようとする人には、非常に退屈に見える可能性もある。
今ちょうど「 映画を早送りで観る人たち 」という本を読んでいる最中なのだが、あそこに登場するような人たちには絶対受けないタイプの映画だろう。
もしBlu-rayなどで見られた日には、早送りに次ぐ早送りで1時間もかからず見終わってしまう可能性大だ。
冒頭で「 映画史上の最高傑作 」ではなく、あえて「 映画芸術史上の最高傑作 」と書いたのも、それが理由だ。
本作は「 スター・ウォーズ 」などよりも、アンゲロプロスやタルコフスキーの映画にはるかに近い。
見ていて「 エイゼンシュタインが生きていてSF映画を作ったら、こうなるのでは?」という思いが何度か去来した。
それだけに「 ここまでアーティスティックな語り口で一般に受けるのか?」という懸念は消えない。
アメリカでは大ヒットスタートしているようだが、それはまともな大作が枯渇しているなど複合的な事情によるもので、一般に受け入れられたと解釈するのはまだ早いだろう。
欧米ほどフランク・ハーバートの原作が人口に膾炙(かいしゃ)していない日本では、先行上映において、すでに賛否が真っ二つに分かれているようだ。
原作からの見事な改変が観客の心を天と地に引き裂く
クライマックスに差しかかると、少なからぬ原作からの改変があって驚かされる。
帰ってから原作を引っ張り出してチェックすると、完全な改変もあれば、設定は同じだが描写がまるで違うところもある。
それらの脚色が全て上手くいっていて、終盤においては、物語としての感動が映像的な感動に追いつき、不思議な涙が溢れそうになる。
中でもあのラストシーン。
あれは「 設定は同じだが描写がまるで違う 」シーンの1つだが、DUNEの2作目がまさかあんなラストシーンで終わると一体誰が想像しただろうか。
それまで全面的に展開されていた権謀術数渦巻く政治劇・歴史劇は、どこか幾何学的・抽象的な映像と相まって、いわば「 天 」の映画になっていた。
それがあそこでグイッと感情や想いの世界に引き戻され、「 地 」の映画となる。
天は天で動き続ける一方で、地にとどまる人間もいる…魂が引き裂かれるようにドラマチックな、あのラストを見て、「 アラビアのロレンス 」を想起した。
巨大な歴史の動きと、それに翻弄される人間。
しかし「 アラビアのロレンス 」とは人物の配置がまったく違う。
その違いが、さらに強く胸を打つ。
続編 – 第3作「砂漠の救世主」実現への期待
私は「 渦 」「 静かなる叫び 」「 灼熱の魂 」といったカナダ時代の作品から、ドゥニ・ヴィルヌーヴの大ファンだ。
とりわけ最初の出会いとなった「 渦 」という異形の傑作には大きな衝撃を受け、2000年のベストフィルムに選んでいる。
その後ハリウッドに招かれたヴィルヌーヴは、「 ブリズナーズ 」「 複製された男 」「 ボーダーライン 」などの中級作品を経て、
「 メッセージ 」「 ブレードランナー2049 」「 DUNE / デューン 砂の惑星 」といったSF大作の担い手となる。
どの作品も全て好きだ。
それでも「 DUNE / デューン 砂の惑星 PART2 」がここまでとてつもない高みに到達するとは、さすがに予想していなかった。
1作目も良かったが、こちらは次元が違う。
アンゲロプロス、キューブリック、マリック、タルコフスキーらの映画と肩を並べ、21世紀の「 アラビアのロレンス 」とさえ言える作品となっている。
ドゥニ・ヴィルヌーヴは、DUNEシリーズの3作目「 砂漠の救世主 」の映画化も切望しているそうで、実際原作を改編して、
すぐにでも続きが見たくなるような終わり方にしている(さらにある有名俳優を次作で活躍するキャラとして登場させている)。
アメリカでは前作を大きく上回る大ヒットなので、おそらく実現するだろう。
2作目でここまでの作品を作り上げてしまったヴィルヌーヴ。
3作目では一体どんな未知の世界を見せてくれるのだろうか。

文・ライター:ぼのぼの



