パワフルなロックサウンドを奏でる要でありながら、ヴォーカルやギターに比べると目立たないことが多いドラムス。
現役の名ドラマーたちが、ドラムスという楽器の魅力と奥深さについて語る音楽ドキュメンタリー。
女性ドラマーたちが自らのアイデンティティを追求する部分に強い現代性がにじむ。
COUNT ME IN 魂のリズム
あらすじ
鍋やフライパンまでありとあらゆるものを叩きながら過ごした子供時代から、世界中のスタジアムで旋風を巻き起こすようになるまでの道のりはどんなものだったのだろうか?クライマックスへ向けた特別なセッションへの道のりを軸に、錚々たるドラマーの面々がドラムの歴史、自身のキャリア、音楽やドラムそのものについて語る、貴重なインタビューが交錯しながら自然とドラムへの理解が深められてゆく。
現代ドラム文化の本拠地たる米国と、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、レッド・ツェッペリンといった偉大なバンドを産み、お互いに影響を与えながら音楽文化を発展させてきた英国。伝説的なジャズ・ドラマーたちが現代のドラマーと音楽に対して与えてきた影響を解説しながら、それらのレガシーをロックへ持ち込んだジンジャー・ベイカーの功績を讃え、ニック・”トッパー“・ヒードンやラット・スキャビーズといった伝説的なパンク・バンドのドラマーをフィーチャーするなど、英国制作ならではの視点が光る。
子供たちが初めてドラム・セットを手にした際の喜びを爆発させる瞬間を筆頭に、リラックスして楽しめる作品でありながら、ニコ・マクブレイン、スチュワート・コープランド、シンディ・ブラックマン・サンタナ、チャド・スミス、テイラー・ホーキンス、ロジャー・テイラー、ジム・ケルトナー、イアン・ペイスといった超一流ドラマーに留まらず、ベン・サッチャーや、エミリー・ドーラン・デイヴィスなどの若い世代のドラマー、更にはロス・ガーフィールドのようなドラムに関するスペシャリストにもスポットが当てられ、玄人を唸らせる深みも兼ね備えている。全編に渡ってドラムへの愛が溢れた作品でありながら、ドラムに関する専門的な知識は不要。全ての音楽ファン必見のドキュメンタリー!
公式サイトより引用
公開日
2024年3月15日
原題
Count Me In
上映時間
85分
予告編
キャスト
- マーク・ロー(監督)
- ロジャー・テイラー
- イアン・ペイス
- ニック・メイソン
- チャド・スミス
- スチュワート・コープランド
- ニック・“トッパー”・ヒードン
- テイラー・ホーキンス
- シンディ・ブラックマン・サンタナ
- クレム・バーク
- ニコ・マクブレイン
- ラット・スキャビーズ
- ボブ・ヘンリット
- ジム・ケルトナー
- エミリー・ドーラン・デイヴィス
- スティーブン・パーキンス
- ベン・サッチャー
- サマンサ・マロニー
- エイブ・ラボリエル・Jr.
- ジェス・ボーウェン
公式サイト
ドラムスの魅力を堪能できるドキュメンタリー
ロックドラマーたちの姿を描いた音楽ドキュメンタリー。
構成上特に変わった部分はなく、有名なドラマーたちがドラムスという楽器の魅力や、自分が過去に影響を受けたドラムレジェンドについて語る様子を、さまざまな演奏を挟みながら描くもの。
極めてオーソドックスな作りだが、非常に面白かった。
この面白さは、やはりドラムスという楽器が持つ原初的な力に依るところが大きい。
ギターやベースと比較しても、より感覚的な面に訴えかける力が大きいリズム楽器。
それでいてレコーディングされた音源では一歩退いたところに置かれることが多い楽器の魅力を、存分に味わうことができる。
これはPAを使わない小さなライヴハウスへ行けばすぐに分かることだが、ドラムスの音は、CDやストリーミング音源には決して収まりきらないものだ。
ハイハットの鋭角的な音もバスドラムが空気を揺るがす感覚も、レコーディングされた音源とは全く別物。
もしこの映画を見て、改めてドラムスに興味を持つような方がいたら、音源を聞くのもいいしホールやアリーナのライヴに行くのもいいが、
ぜひ一度小さなライヴハウスで、PAを通さない生のドラムスの音を聴いてもらいたいと思う。
次々と登場するスタードラマーたち
インタビューに応じるドラマーは、チャド・スミス(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、スティーブン・パーキンス(ジェーンズ・アディクション)、ニコ・マクブレイン(アイアン・メイデン)、
イアン・ペイス(ディープ・パープル)、ニック・メイソン(ピンク・フロイド)、ニック・“トッパー”・ヒードン(クラッシュ)など錚々たる顔ぶれ。
さらには彼らがドラムスを志すきっかけとなったドラムレジェンドとして、リンゴ・スター(ビートルズ)、チャーリー・ワッツ(ローリング・ストーンズ)、ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリン)、ジンジャー・ベイカー(クリーム)から、
ジャズ畑のエルヴィン・ジョーンズ、アート・ブレイキー、バディ・リッチらの演奏シーンまで入ってくるので、ロックやジャズに親しみながら生きてきた者としては至福の時間だ。
インタビューに応じつつ、演奏に関してもかなり詳しく語られるロジャー・テイラー(クイーン)やスチュワート・コープランド(ポリス)は特に長い間親しんできたドラマーだが、彼らのプレイについてさまざまな再発見があるのにも興奮。
特にコープランドのプレイは、他のドラマーと並べて聴くと、その変態的なまでのユニークさに感心する。
インタビューを受けているテイラー・ホーキンス(フー・ファイターズ)は2022年に亡くなっている。
当然最後には「 テイラー・ホーキンスに捧ぐ 」と出るかと思いきや出ないので「 あれ? 」と思ったら、この作品の製作年は2020年だった。
日本公開まで結構長くかかったようだ。
白眉はキース・ムーンの破天荒なプレイ
全編の白眉と言えるのは、ザ・フーのキース・ムーン(1978年に死去)のプレイを分析する部分だ。
彼のプレイはバタバタした騒々しいものという印象が強いが、実は狂気的なカオスと理知的なオーケストレーションが同居したとんでもないものだった。
「 フー・アー・ユー 」など、ザ・フーの中でもポップで分かりやすいナンバーという印象を抱いてきたが、ドラムパートだけを取りだしてみると、あんな複雑な構成とリズムになっていたのか。
〈1日に30時間パーティーをしている男〉と形容されたステージ外での破天荒な生き方は、いかにも70年代のロックスター。
世間一般の常識からはみ出した極端に偏った才能の持ち主であり、ドラマーとなるために生まれ、自らの才能に押し潰されるように死んでいった人物であることがよく分かる。
女性ドラマーたちに大きなスポット
オーソドックスなドキュメンタリーと書いたが、エミリー・ドーラン・デイヴィス、シンディ・ブラックマン・サンタナ、サマンサ・マロニー、ジェス・ボーウェンといった女性ドラマーたちが大きくフィーチャーされている点がいかにも2020年代的だ。
恥ずかしながら私は知らない人たちばかりだったが、そのプレイは有無を言わせぬ素晴らしいものだし、男社会の典型であるロック業界の中で偏見と闘ってきただけに、
ドラムスに人生を賭ける熱量はより強烈なものとなっていて、インタビュー内容も聞き応えがある。
その意味で、公式HPのシンディ・ブラックマン・サンタナの解説に「 女性とは思えない程シンプルでパワフルなドラミングが特徴の数少ない女性ドラマーの一人 」とあるのは何だかなあ…という感じはする。
1つの文中に2回「 女性 」が出てくることも含め、「 女性とは思えない程 」は最低限カットすべきでは…。
生ドラムスとロックミュージックの魅力を忘れないでほしい
なお、私が見た川崎市アートセンターの観客は、ほとんどが50代以降の中高年男性だった。
もはやそういう層しかロックドラマーに関心を示さないのだろうかと思うと、ちと寂しい気分にもなる。
作中でも触れられている通り、打ち込みには打ち込みならではの魅力があり、生ドラムスの単なる代用ではない。
だがそれは逆も同様で、生ドラムスならではの魅力と、そのようなサウンドを必要とするロックミュージックの魅力を決して忘れないでほしいものだと思う。