「 アニマル ぼくたちと動物のこと 」感想レビュー、16歳が挑む生物多様性の危機

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「 環境問題 」と聞いて一番に思い出す課題は何ですか?

森林伐採、海洋プラスチック、などさまざまですね。

今回は、16歳の少年少女が、生物多様性という問題に真っ向から挑むドキュメンタリーをご紹介します。

旅を通し、さまざまな人と出会い、失望や希望の相反する気持ちを味わいます。

動物ドキュメンタリーというだけでなく、それらを通じて大人へと変化する彼らの成長物語にも注目です。

目次

アニマル ぼくたちと動物のこと

©Animal

あらすじ

ベラとヴィプランは、動物保護と気候変動問題に取り組む16歳のティーンエイジャー。自分たちの未来が危機にさらされていると確信している世代だ。過去40年間に絶滅した脊椎動物の個体数はすでに60%以上と言われ、ヨーロッパでは飛翔昆虫の80%も姿を消した。このことを科学者たちは「6度目の大量絶滅」と呼んでいる。50年後、人類は生存していないかもしれない。2人は、映画監督で活動家のシリル・ディオンに後押しされ、気候変動と種の絶滅という2つの大きな危機の核心に迫ろうと決意し、絶滅を食い止めるための答えを探るべく、世界を巡る旅に出る。インドではプラスチック汚染について、フランスでは温室効果ガス排出量の約15%を占める畜産業の実態を、パリでは動物行動学者のジェーン・グドールから動物と人間の関係について学ぶ。また、ケニアの大草原を訪れ、環境大国コスタリカでは現職大統領から自然再生のノウハウを学ぶ。2人は果たしてより良い未来のための解決策を見出せるだろうか?
(公式サイトより引用)

原題

Animal

公開日

2024年6月1日

上映時間

105分

予告編

キャスト

  • ベラ・ラック
  • ビプラン・プハネスワラン
  • アンソニー・バルノスキー
  • アフロズ・シャー
  • クレール・ヌビアン
  • クリス・デイビス
  • エロワ・ローラン
  • ジェーン・グドール
  • ディノ・マーティンス
  • バティスト・モリゾ
  • ジャン=マルク・ランドリー
  • ニコラ・ベレーケン
  • カルロス・アルバラード

公式サイト

アニマル ぼくたちと動物のこと

6度目の大量絶滅!?

©Animal

映画の冒頭シーン、それはいきなりショッキングな映像。

ライオンが銃殺され、森林は伐採され、イルカの死んだ海は真っ赤な血の色。

そこで視聴者はいきなり、6度目の大量虐殺の現実を突きつけられます。

この大量絶滅の危機にはさまざまな理由があります。

気候変動はもちろん、環境汚染も大きな問題です。

主人公のベラとヴィプランはスタンフォード大学の教授を訪ねて質問します。

「 恐竜が絶滅したのは小惑星のせいでしょう?次の6度目の大量絶滅の小惑星は何なの? 」

「 人間は既に小惑星なんだよ。大量絶滅は少しずつ始まっているんだ 」という教授の答えに驚くベラたち。

なんとかしなければ、という強い使命感、16歳でこれだけの使命感を持って実際に行動を起こせるということに、

私はまず感動し、ベラたちの勇敢さを称えたくなりました。

ベラたちは、さっそく身近で行える海洋プラスチックの問題に着手します。

トラック1台分のプラスチックごみが破壊され、マイクロプラスチックとなって海に流れ出す。

それを防ぐために、毎日のようにたくさんのゴミを拾って集めます。

拾っても拾っても減らないゴミの山。

実は、海へのゴミは陸からの波によって流されていっていたのです。

そのため、ベラたちは砂浜ではなく、今度は陸のゴミを拾い集めるのでした。

陸に、山のように積まれた多くのゴミ。

プラスチックだけではなく、衣服もあります。洗濯ネットもあります。

青々とした美しい海の中で、洗濯ネットに入ってしまい、出られなくなった水生生物が映ります。

助け出してあげたい、そう思わずにはいられません。

美しい海の映像と対象的な残酷なシーンにすることで、視聴者への強い使命感を訴えます。

それでもこの問題だけでは環境汚染はなくなりません。

ベラたちが次に訪ねたのは、温室排出ガスの15%を出すという畜産業です。フランスへと飛び立ちました。

ウサギの大量繁殖

フランスで鳩を食べることは知っていましたが、ウサギを食べることは知らなかったため、

ウサギの繁殖飼育業があることを初めて知りました。

そこには母ウサギ、子ウサギ合わせて約1,000匹のウサギがいました。

1匹あたり、A4の紙1枚分のスペースで生活しています。

飼育業者は箱の中から1匹の死んだウサギを取り出して、ベラたちに見せてこう言います。

「 1日で死ぬのは10匹程度かな。普通だよ、気にすることはない。50匹なら問題だけどな 」

ベラはこの人がいない間にヴィプランに言います。

「 ウサギを個々の動物として扱っていなかった 」と悲しみと怒りの混濁した表情。

私も、飼育業者がウサギを放り投げるように扱う姿に胸が痛みました。

「 ウサギは妊娠すると1ヶ月程度で出産する。この子たちが一斉に妊娠したら対処しきれない 」

そう言って、ベラたちに「 よく見ているんだぞ 」と言って、ウサギの人工授精を見せます。

こうして出産時期を調整しているのです。

仕事を楽にするためには仕方ないんだ、と言い訳じみたことも言います。

そして狭い居場所に対しても、「 お金がかかるから仕方ない。このくらいの広さでいいんだ 」と。

私には十分、ウサギたちが押しつぶされているように見えました。

飼育業者は続けます。

「 会計士も獣医師も協同組合も儲けている。それなのに飼育業者だけは月350ユーロだ。これだけでは生きていけない 」

そこで鳴き出したウサギを「 足が挟まっていたんだな 」と籠から一旦取り出し、また狭い籠に戻しました。

「 1匹残らず救い出したい 」

ウサギ工場は壊滅的だとベラたちは思いました。

96%は繁殖。そうでないと経済成長が追いつかない。そして自然破壊が起きている。

このことに気付いたベラたちは、飼育業者のいない間に2人で真剣に話すのです。

「 1匹残らず、連れて帰りたい 」ヴィプランも頷きます。

それはティーンエイジャーである2人の純粋な気持ちでした。

救出するには、連れ出すしかない。でもどうやって1,000匹ものウサギを助ける?

連れ出したいと口では言っても、現実的に不可能なことを知っているから、2人はとても歯痒そうでした。

私は思い出しました。子どもの頃、水槽ごと捨てられていたミドリガメのことを。

捨てられていたんでしょうね。

それが分かっていても、子どもながらに「 助けてあげなきゃ 」と思ったものです。

私は自然環境のことなど考えていませんでしたが、子どもというものは皆、

自分より弱い生き物を助けたい、命を大切にしたい気持ちを最初は持っているのです。

いつから人間は、私利私欲で動物を利用するようになったのだろう。

画面を見ながら、そんなことを考えていました。

絶滅の危機を解決するより経済を優先するのはだめだと2人は考えます。同感です。

私はそこでふと考えました。

なぜこの映画は16歳という多感な時期の少年少女をナビゲーターに選んで演出したのだろう。

現実社会において、16歳でこれだけ問題意識の強い子はほとんど存在しない。

しかし、このドキュメンタリーでは子どもが真剣になって、環境問題、生物多様性問題に挑んでいる。

だからこそ、視聴者の「 応援したい。大人も負けてはいられない 」という気持ちを掻き立てているのではないでしょうか。

私たち人間は自然に生かされている。

生態系が崩れれば人間も滅びるのだと気付かされます。

子どもの視点を通してやっと気付くという大人の愚かさも、我が身に響きました。

「 動く動物を見るのは素晴らしい 」

2人の旅はまだ続きます。

今度はケニアです。デノ先生と一緒に車に乗りながら、野生の動物たちを見つめる2人。

ペットや動物が近くにいる生活をしていると、生涯に渡り健康だというデータを先生が話してくれました。

動物は生態系のことだけでなく、人間のメンタルにとっても大切な存在だと2人と視聴者は気付きます。

緑あふれる中、土の上を歩いたり、走ったりする彼らは、なんとなく無邪気です。

人間への恐怖心がありません。動物が皆、こんな風に過ごせたらいいのに。

そして最後はコスタリカを訪れます。

コスタリカは軍隊を持っていません。

平和を愛し、環境を守る国として、この会話が映画終盤に出てきたことに意味を感じました。

2人は大統領に会い、リジェネラティブ、自然再生について学びます。

コスタリカでは法律で森林伐採を禁止しています。

そして、生物種の6%が生息しており、国土の50%が森林という環境大国です。

世界全体が環境破壊に向かっているのではない。

食い止めようと実行している国もあるし、個人に関して言えば世界各地で活動家はたくさんいるはずだ、

未来に希望を託す2人に私も共感しました。

最後にベラは心情を明かします。

「 生態系を守るために動物のことを学ばなければいけないと思っていた。でも今は違う。私はもっと人間を学びたい 」

この言葉が、映画を通じて私たちに伝えたかったことなのでしょう。人間が人間を学ぶ。

まとめ

私たちは今こそ、あらゆる環境問題の学び直しをし、その知識を実行に移していかなければなりません。

小さな活動家となったベラとヴィプラン。

最初は「 なんとかしなければ 」という使命感だったものが、

最後には「 何ができるのかを具体的に考えられる 」までに成長していました。

映画を見終わった視聴者も成長したように思わせるために、この2人のキャスティングは不可欠だったのです。

6度目の大量絶滅を防ぐために何ができるのか、できることがたくさんあると、

この映画はさまざまなエピソードを通して、私たちに伝えてくれました。

いつの時代もそうですが、私たち個人が「 できることから始める 」ことが大切です。

ベラたちのゴミ拾いのように。

執筆者

文・ライター:栗秋美穂

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