今回は、アジアンドキュメンタリーズの「 Y/Our Music 」について、感想を綴っていきます。
Y/Our Music
あらすじ
本作は、タイの農村から都市へと連なる音楽とその原風景をとらえた音楽ドキュメンタリー。作品では、タイの様々な地域や世代をつなぐ伝統音楽や労働歌、モーラムやインディーミュージックに耳を傾ける。9人のミュージシャンが自分たちの音楽を静かに語り、カメラはそのルーツとなる原風景を探る。それは赤い塵雲の中で奏でられる伝統楽器、収穫を待つ間に口ずさまれる労働歌、DJがかけるイサーン音楽の7インチレコード、楽器を弾けないバンドによるアンダーグラウンドミュージック、全てが都市の騒音や農村の風の音と共に調和を持って響く。ミュージシャンたちはメインストリームになることがなくとも自分たちの音楽を頑なに信じ、試行錯誤を繰り返し、そして次の世代を教育する。全く別々の音楽の世界に住んでいる彼/彼女らを繋ぐのはまさにその絶え間ない情熱なのだ。
(公式サイトより引用)
上映時間
82分
予告編
キャスト
- 監督:ワラーラック・ヒランセータワット、デヴィッド・リーヴ
公式サイト
感想レビュー
音楽というものにひたすら多方向から向き合うドキュメンタリーで、タイのさまざまな場所で音楽を奏でる。
自分が普段聞いている音楽や好きなジャンルはかなり幅が狭かったんだということを、この作品を見てすぐに思った。
この作品のレビューを書きたいと思った理由はただ「 音楽が好き 」ということだけだったが、思っていた以上にしっかりとルーツについて触れており、
約1時間半もの間に音楽が止む瞬間はほとんどなかったため、時折体を揺らしながら鑑賞した。
その” ルーツ ”についてだが、私の好きなアーティストたちも度々自分の音楽のそれを語ったりする。
そしてそれは何十年も前にヒットしたアーティストだったり、自分の幼少期に聞いた音楽だったりと人によって違うが、
この作品に出てくる音楽家にとってのルーツにとても興味が湧いた。
決まったものじゃなくても、高価なものじゃなくても、作ろうと思えば楽器は作れる。
竹のようなもので笛を作って演奏するシーンを見てそう感じた。
デュエットのように男女で歌い、即興で歌詞を紡いでいくシーンがとても気に入った。
男性が電話越しに女性を口説いているような歌詞なのに、実は女性は電話局の職員で、
未払いの電話料金を取り立てるために電話したという設定のやりとりに思わず頬が緩んだ。
トゥクトゥクに乗るシーンも好きだった。
派手にデコレーションされた車内で、音楽を爆音で流す。
日本で同じことをするとかなり迷惑がられそうだが、タイでは当たり前のように馴染んでいた。
でも、国は違えど音楽に対する思いは同じだと思う。
「 音楽のない世界なんて頭が変になる 」「 音楽は最高の薬 」と作中で言っていたが、とても同意できるからだ。
映画と音楽はとても深い縁で結ばれているように思う。
気に入った映画のサウンドトラックを繰り返し聞いたり、それで新しく好きなアーティストに出会ったり。
映画も音楽も両方好きだからこそ、この作品はとても面白かった。
果てしなく続く地平線で笛を吹き、曲が終わったタイミングでニワトリの「 コケコッコー! 」という鳴き声が響く。
その後に携帯電話が鳴り、もしもし?と続くこの流れがたまらなく好きで、書きながら思い出してまた口角が上がってしまった。
音楽は日常をどこかに置いてくる効果もあるように感じる。
広大な景色の中で大きな音を出すことは、そんな経験のない私はある種の非日常のように思うが、ニワトリの声が日常に引き戻し、そして電話が鳴る。
とてもよくできたシーンだと思った。
まとめ
路地でも都会でも地平線でも、どこでも楽器を演奏する。
” Y/Our Music “とは、あなたが本当に感じる音楽だと最後に言っていた。
私は私の本当に感じる音楽を、この先の人生で見つけていきたい。
文・ライター:小松糸