古代ギリシャにおいて大理石は、神殿を築くための重要な資源であった。
その大理石がなぜ今、中国で重宝されているのか。
※ 本作は、アジアンドキュメンタリーズで配信されている作品です。
旅する大理石 ギリシャから中国へ
あらすじ
大理石はギリシャの特産品であると同時に、文明の象徴でもあった。栄華を誇った古代ギリシャ時代は、大理石で神殿を築いた。そして今、大理石はアテネの港から積み出され、中国へと運ばれている。どん底のギリシャ経済と成長を続ける中国経済の差が如実に現れている。ギリシャは中国を格好のビジネスパートナーととらえ、官民挙げて接近中だ。欧米が中国の消費に商機を求める一方、豊かになった中国の石工たちは、市場を海外に求め始めた。中国にやってきた大理石は、加工されて欧州へと売られてゆく。大理石の行方に、チャイナマネーの巨大なうねりが生み出す経済のねじれが垣間見える。
公式サイトより
公開日
2021年
原題
A Marble Travelogue
上映時間
97分
予告編
キャスト
- ショーン・ワン(監督)
- ジア・ザオ、ジジアン・ワン(プロデューサー)
- シャン・シャン(撮影)
- カルロス・ムニョス・ゴメス・キンテロ(撮影)
- ショーン・ワン(撮影)
- タオ・グー(編集)
- クラウディオ・ヒューズ(編集)
- ショーン・ワン(編集)
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- 総合評価
考察レビュー
本作は、ギリシャの特産品「 大理石 」を巡る経済情勢を追ったドキュメンタリー映画です。
大理石ビジネスを通して、現代経済の歪みが見えてきます。
劇中にナレーションや解説はないため、当事者の言葉や映像から、ギリシャと中国の経済課題を推察しなければなりません。
例えば、大理石加工品で裕福な生活を送る中国人男性の住宅と、低賃金労働をしている家庭が同じ画面に映し出されます。
この様に具体的な解説がなくとも、現代の社会問題が理解できる様に工夫されています。
大理石が運ばれる場面で不気味な音楽が流れる等、巧みな演出にも注目です。
中でも、本作で大きく焦点が当てられている人物は、観光事業を手掛けるギリシャ人双子姉妹です。
意図的なものかは不明ですが、彼女らの台詞からは作品のテーマが読み取れます。
例えば、大理石で作られた神殿が中国のレジャーランドで設置されている場面では、「 私たちはどこに行くの?」といった話題の話をしています。
これ以外にも中国で「 ここに来た理由は?何で来たのか分からない 」等、まるでギリシャから運ばれた大理石の気持ちを代弁しているかのような会話もあります。
ギリシャの大理石は、ギリシャ神話に登場する「 オリンポス12神 」の神殿に使われていました。
それが今では、アテネから中国の泉州港へと輸出されています。
経済が衰退しつつあるギリシャにとって、経済成長中の中国に高値で買い取ってもらえるのは嬉しいことでしょう。
しかし、かつて神殿の材料としても使われたギリシャの特産品が今や諸外国で様々な加工を施されています。
大理石を通して互いの経済事情が豊かになる一方、国の伝統や個性というものが軽んじられている様な印象を受けました。
中でも特筆すべき課題は、冒頭で先述した中国における経済格差事情です。
国全体で見れば中国は経済成長国ですが、その一方で富裕層と貧困層の生活環境に大きな差があることが映し出されています。
富裕層には、大理石で作られた彫刻を購入したり、加工品を売って生計を立てる人もいます。
その大理石ビジネスの下支えとして、貧困層が安い賃金で大理石の加工業をしているという現実を軽視してはいけないと思いました。
文・ライター:キングギドラ