世界中の興行記録を塗り替え、アカデミー賞11部門を獲得した歴史的傑作。
しかも2023年2月に2週間限定で公開された3Dリマスター版は新作を押しのけるほどの大入り満員。
この映画はなぜかくもヒットしたのだろうか?
タイタニック
あらすじ
原題
Titanic
公開日
1997年12月20日
上映時間
194分
キャスト
- ジェームズ・キャメロン(監督)
- レオナルド・ディカプリオ
(ジャック・ドーソン役) - ケイト・ウィンスレット
(ローズ・デウィット・ブケイター役) - ビリー・ゼイン
(キャルドン・ホックリー役) - フランシス・フィッシャー
(ルース・デウィット・ブケイター役) - デヴィッド・ワーナー
(スパイサー・ラブジョイ役) - グロリア・スチュアート
(ミセス・カルバート役) - ヴィクター・ガーバー
(トーマス・アンドリュース役) - ダニー・ヌッチ
(ファブリッツィオ・デ・ロッシ役) - ジョナサン・ハイド
(ブルース・イズメイ役) - キャシー・ベイツ
(マーガレット・モリー・ブラウン役) - ビル・パクストン
(ブロック・ロベット役)ほか
予告編
日本では今も実写映画ナンバーワンの大ヒット作
1997年末に公開された「 タイタニック 」の大ヒットは、今も鮮明に記憶に焼きついている。
「 社会現象 」という言葉がピッタリで、同じ年の夏に公開された「 もののけ姫 」の記録を破り、歴代興行成績の第1位に輝いた。
それはアメリカ本国をはじめとする他の国々でも同様で、当時の興行収入記録を次々と塗り替える史上空前の大ヒットとなった。
その後アメリカやワールドワイドでは、同じジェームズ・キャメロンの「 アバター 」シリーズ、マーベルの「 アベンジャーズ 」シリーズ、「 スター・ウォーズ / フォースの覚醒 」などに記録を塗り替えられるが、20世紀の映画としては第1位。
日本に至っては、今も「 劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 」「 千と千尋の神隠し 」に次ぐ第3位(277.7億円 / 含リバイバル)で、実写映画としてはダントツのナンバーワンに輝いている(次点は「ハリー・ポッターと賢者の石」で203億円)。
第70回アカデミー賞では作品賞や監督賞を含む11部門を制覇。
名実ともに映画史に残る古典として語りつがれる作品だ。
2023年のリマスター版も予想を上回るヒット
さらに驚くべきは、2023年2月に「 25周年記念3Dリマスター版 」としてリバイバルされたところ、これがまた大ヒット。
3時間超えの長尺であり、アニメが興行の主流となった日本において、このリバイバルがかくもヒットするとは予想されていなかったため、上映回数はどの劇場も1日1〜2回。
3Dという性質上スクリーンは大きなところばかりだったが満員回が続出。
「 2週間限定公開 」にもかかわらず約11億円も稼ぎ出した。
もし2週間限定という枠がなかったら、どこまで記録を伸ばしたことか。
今時リバイバル公開でこれほどヒットした作品は他に記憶にない。
筆者は初公開時に3〜4回見ていて、3Dという形式があまり好きではないため、今回は特に見る気はなかった。
ところが誰の予想も裏切る異例の大ヒットぶりが伝わってきたため、あの「 タイタニック 」に今何が起きているのか?という興味で、劇場に足を運ぶことになった。
確かに大入り満員。
しかも「 あの青春時代の名画をもう一度 」という中年層が主流かと思いきや、年齢的に初公開を劇場で見ていないであろう若い観客の方が多数派であることに驚かされた。
タイタニックは純粋に作品として見ると功罪相半ば
あまりテレビ画面で見たい(テレビ画面で見て楽しめる)映画でもないので、全編を通して見たのは、初公開時以来かもしれない。
あらためて見ても、イマイチな部分と見事な部分が共存する映画だ。
しかし「 通俗の王 」としてのジェームズ・キャメロンの資質が、ここまで余すところなく発揮された映画は他にない。
今回確認して驚いたのは、タイタニックが氷山と衝突するのは上映時間を半分以上過ぎてからだということ。
つまりおよそ1時間40分以上にわたって、あの通俗極まりない中二病的なメロドラマを見せられるのだ。
見せ場は当然後半なので、それまではひたすら耐えることになる。
とは言うものの、今見直すと、実は前半もそこまで悪くはない。
他愛ないことは間違いないが、そこはさすが「 通俗の王 」
型通りではあるが、他愛ないメロドラマに階級対立の要素をからめ、それをタイタニックの乗客の構図と重ね合わせることで、妙なダイナミズムを生み出している。
何度か見ていれば、その階級対立の問題が、後でのっぴきならない状況を生み出すことが分かっているので、感情を強く刺激される仕掛け。
少なくとも退屈で眠くなるようなことはない。
タイタニックの見どころはむしろ主役以外の人間描写にあり
とはいえ、もちろん見せ場は沈没が始まってからの後半だ。
3Dにしたせいもあってか、今見ればVFXの拙さは多少感じるが、パニックスペクタクルとしての描写は今も比肩する作品がない。
1970年代に「 ポセイドン・アドベンチャー 」(1972)や「 タワーリング・インフェルノ 」(1974)など災害パニックものが流行したが、スペクタクル描写やパニック描写では、束になってもこの作品に敵わない。
そんな極限状況になっても、まだメロドラマをやっているのには多少いらつくが、スペクタクル描写の凄まじさと、主役陣以外の人物描写の素晴らしさはそれを補って余りある。
中でも、沈み行く船で最後まで演奏を続けた楽団のエピソードは、何度見ても涙を堪えるのに苦労する。
あの楽団の描写だけでも、他の多くの欠陥を十分に補うものだ。
筆者は、ギャヴィン・ブライヤーズという現代音楽の作曲家が、この時の演奏を再現しようと試みたアルバム「 タイタニック号の沈没 」を通じて、この逸話を知っていたため感慨もひとしお。
1969年に初演された曲だが、その後新たな証言が出るたびに作り直され、何度か再録音されている。
他にも胸を突き動かされる人間ドラマが次々と描かれる。
パニックを収めるため危険な客を射殺し、その直後 自責の念に堪えられず自らの頭を撃ち抜く船員。
自らの責任に心を押し潰されそうになっている設計者や船長の苦悩。
我先にと争う乗客がいる一方で、「 紳士として船と運命を共にする 」と言って、心静かに死を受け入れる者。
裕福そうな老夫婦がベッドで抱き合いながら最期の時を待つシーンの次に、三等船室で母親が幼い子ども2人におとぎ話を語って聞かせる描写が来るのには、どうしたって泣かされる。
三等船室の客はしばらくの間上に出してもらえなかったのだから、全体的には金持ちの方がたくさん生き残っただろう。
しかし見れば分かる通り、一等船室の金持ちも大勢死んでいる。
そして静かに死を受け入れた金持ちもいる。
階級対立がドラマの大きな主軸であり、金持ちの傲慢さがステレオタイプ的に描かれた作品ではある。
しかしその単純な構図に拘泥するわけではなく、どんな階級にも心の豊かな者と貧しい者がいるという描写がなされ、富める者にも貧しい者にも平等に降りかかる「 死 」の圧倒的現実が描かれている。
さまざまな欠点はあるものの、最終的にこの作品を肯定できる理由は、そこだ。
「 死 」を真正面から見据えた超大作
ドラマ的な観点で言えば、この映画の最大の意義は「 大勢の人々がさまざまな思いを抱えながら死んでいく姿を丹念に描写した唯一の超大作 」という点に尽きるのではなかろうか。
他にそんな映画があるだろうか?
戦争ものでも、これだけ多くの人々の死を丹念に描写した作品はほとんどない。
一連のパニックものは、大抵物語が少数の登場人物に絞られていて、死んでいく人々はモブ扱いだ。
この映画は、そういうモブとして扱われる人々が死と向き合ったときの姿を丹念に描写している。
1作目の「 ゴジラ 」(1954)で特に感動的なのは、迫ってきたゴジラを前にした母子が「 もうすぐお父ちゃんのところへ行けるよ 」と言うシーンだ。
その短い台詞だけで、この母子の辿ってきた人生が分かるし、死に直面した思いも分かる。
それに類する描写が、本作の後半には山ほど出てくるのだから強力極まりない。
それと比較すれば、ジャックとローズのメロドラマはいかにも作り物臭いが、まあ許容範囲。
それに多くの人々が、あの恋人たちの悲恋に強い共感を寄せ、神話的シンボルにさえなったことは事実。
私がどう思おうが、これに関しては「 通俗の王 」の勝利だ。
今回の再見で感心したのだが、最初に2人が出会ったのが船尾で、2人の愛が最高の高揚感を迎える例のシーンは船首。
最後に2人は出会いの場所である船尾へと避難。
出会ったときローズは「 プロペラを見ようとして落ちそうになった 」と嘘をつくが、そのプロペラを最後にあのような形で見ることになるという壮絶な皮肉…この構成は実によく出来たものだと思った。
この映画の最大の難点は、他愛ないメロドラマをメインストーリーに据えた脚本だが、直接的なメロドラマ以外の部分では、いろいろ上手い部分もあることに感心させられる。
タイタニックは「 当たり前のことを当たり前に描いた 」最後の大ヒット作
総じて言えば、「 風と共に去りぬ 」と同じく、映画芸術として最高の完成度を持つわけではないが、それを超えた神話的な力を持った作品だ。
少なくとも一度は、劇場の大スクリーンでその力を体験すべきだろう。
ほとんどの映画は、監督や脚本家の「 これを描きたい 」という思いと「 お客さんを楽しませたい 」という思いの両輪からできているもので、作品によってそのバランスが違う。
「 タイタニック 」は、キャメロンの「 これを描きたい 」という思いと「 観客を楽しませたい 」という思いが、一番バランス良く両立した作品だ。
これを見てしまうと、同時期に公開されていた「 アバター ウェイ・オブ・ウォーター 」(2022)が前者に偏った独り善がりな作品であることが分かる。
さらに言えば、「 アントマン&ワスプ:クアントマニア 」(2023)を見た6日後に本作を見たことで、近年のマーベル映画がつまらなくなった最大の理由が、マルチバースの導入という禁じ手にあったことを、あらためて痛感した。
命が1つしかなく、死んだら終わりだからこそドラマが盛り上がるわけで、別のバースの存在や時間軸の改変で、死んだはずのキャラが当たり前に甦って来たら、大人の見るドラマとしてはどうなのよと思わざるをえない。
これと同じ傾向はスター・ウォーズ・シリーズにも見られるし、キャメロン自身もアバター・シリーズで実質的な生き返りをやってしまっている。
つまり、その後「 タイタニック 」の興行記録を破ったブロックバスター映画には、多かれ少なかれ生き返り要素が存在しているということになる。
「 タイタニック 」が人を感動させるのは、「 命は1つしかなく、死んだら終わり 」であることを痛感させるから。
「 タイタニック 」は、そんな当たり前のことを当たり前に描いた、最後の大ヒット作なのだ。
文・ライター:ぼのぼの