考察・疑問点
エントロピー増大の法則
今作を理解する上で「 エントロピー増大の法則 」を知識として持っておくと、2度目以降も楽しめるのではないでしょうか。
シンプルに説明すると、秩序あるものが無秩序に散らばっていくイメージです。
劇中でエントロピーが増えるというセリフがありました。
秩序あるものが崩壊していく度合いが大きい程、エントロピーが増幅。
エントロピー増大の法則をもっと分かりやすく説明すると下記の通り。
- 「 無秩序状態の度合い 」を数値で表した法則
- 無秩序状態=エントロピー値は高い
- 秩序ある状態=エントロピー値は低い
このエントロピーが増幅すると減少しないという法則があります。
僕たちが生きている時間軸(現在)=自然界は、常にエントロピーが増幅している状態(つまり、時間が前に進んでいる状態)
イメージを膨らませてみましょう。
宇宙の始まりはビックバン。
秩序だった宇宙の種がビッグバンにより急速に拡大(=エントロピーの増幅=秩序 → 無秩序へ)
今作のキーポイントは、タイムマシンのような時間逆行装置(回転扉)です。
物理学的には「 物質のエントロピーの流れを逆行させることにより、物質自体の時間の流れを逆行させることができる 」そうです。
劇中で粒子の話がチラッと登場しましたが、未来人は粒子レベルまでコントロールできる科学力を持ち、時間を意のまま操作する。
これが「 TENET テネット 」において重要な概念知識となります。
祖父殺しのパラドックス(Grandfather Paradox)
SF系作品でよく議論されるタイムトラベルの逆説。
バック・トゥ・ザ・フューチャーの元ネタにもなっている有名な説でもあります。
劇中でニールと主人公が「 祖父を殺したら自分は存在できるのか 」というニュアンスで会話していました。
タイムマシン装置を使って過去に行き、祖父を殺したら自分自身は存在するのか?
この説に従えば、もちろん祖父を殺すと自身は生まれない=存在し得ない人間が時間を遡ってタイムトラベルできない
「 過去に遡り祖父を殺す」ことは不可能になりますよね。
言い換えれば、過去にタイムスリップして祖父を殺すであろう自身は存在しないことになり、祖父が殺される事象自体が起きない。
この矛盾により1〜4が永遠とループします。
- 自分が祖父を殺す
- 自分は生まれない
- 祖父は殺されずに済む(から)
- 自分は生まれる(1に戻る)
過去に遡り祖父を殺すと、祖父が存在しない世界と存在する世界とで、別のタイムラインで時間が進む(パラレルワールド)とかですね、考えたらキリがなくなります。
TENET テネットの意味
TENET自体の言葉の意味は、劇中字幕で「 主義 」と訳されていました。
超話題作ということもあり、色々な説が飛び交っています。
面白いなと思ったのは下記の2つ。
- ラテン語の回文(SATOR式)と関わりがある説
- TEN(10分)+NET(反対から読む)説

前方のどちらからも「 SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS 」
ラテン語で「 農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする 」という意味。
中央の「 TENET 」のみ、上下左右どこからでも読めるように配列されています。
下から2段目を右から読むと「 アレポ 」
アレポは、劇中でキャットとデキていると噂されていた人物です。
ラスボスのセイターしかり、劇中冒頭でのオペラシーンしかり、このラテン語の回文説がTENETの意味として有力だと思います。
ノーランもこれを参考にしたのでしょう。
回転扉(時間逆行装置)
劇中で登場した回転扉は、何世代あとの未来人が作った時間逆行装置。
今作のキーポイントはこの装置でして、この装置を通過して現在と過去が目まぐるしく交差します。
てっきり超絶科学テクノロジーを持った未来人が登場すると思っていましたが登場せず。
挟み撃ち作戦
劇中ラストシーン。
赤組(現在)と青組(過去)に別れて敵のアルゴリズムを奪取する作戦です。
分かりやすく言うと
- 任務開始からの順行(赤組)
- 任務終了から逆行(青組)
セイターからプルトニウム241を奪われた主人公ですが、セイターが使った戦法もまさしくこの挟み撃ち作戦。
ニールは逆行(青組)でしたが、主人公を救うため途中で順行(赤組)に切り替わっています。
セイターはなぜ未来予知(時間操作)が可能なのか?
旧ソ連での放射線物質を探す要員として働いていたセイターは、あるケースに入った機密文書を発見。
当時、人類史上最も核兵器が危険な状態に晒された時代だったというセリフも登場しました。
セイター含む2人の作業員がいましたが、機密文書を読んだ彼は隣にいた作業員をスコップで殺して、それを我がものとしました。
セイターは機密文書を読み、アルゴリズムが時間を操作できる物質であることを理解したのでしょう。
それを使い過去に行き、未来に何が起こるかを知っていた。
未来で起こる事象を知っていたセイターは、天然ガスビジネスなどで莫大な富を築きます。
セイターが末期ガンを発症したため、キャットとマックスとの思い出の地(ベトナム)で自殺を決意。
彼は自殺のついで人類を道連れにして世界を滅ぼす計画を企みます。
とんでもねえワガママジジイじゃないか!と思った人多いんじゃないですかね。
ケネス・ブラナーいい演技してましたね。
アルゴリズム(9つ)
アルゴリズムとは何なのか?
簡単に説明しよう。
これはMCUシリーズで登場したインフィニティガントレットをイメージすると分かりやすい。
全てのインフィニティストーンを集めて指パッチンすると、宇宙の生命体半分が消滅するのがインフィニティガントレットの驚異でした。
さて、TENETではどうでしょうか?
アルゴリズムと呼ばれる銀色の物質を9つ集めると世界の全てが逆行し、人類が一瞬にして消滅するというもの。
何世代後の未来科学者によって作られた時間逆行装置(アルゴリズム)
悪人に使われるのを恐れた理由から、未来人の科学者はアルゴリズム9つに分解して過去に隠したというわけですね。
劇中冒頭のオペラ会場で登場したプルトニウム241が9つ目のアルゴリズムだったというお話です。
ニールの正体はキャットの息子マックス説
ニールはラストシーンでオレンジ色の紐をリュックに付けていました。
冒頭のオペラ劇場でもオレンジ紐を付けた人物が、主人公を銃撃から救ったシーンを覚えていますか?
あの人物もニールだったことがラストシーンから分かります。
思い返して見ると、主人公が任務中にお酒を飲まないこともニールは知っていた。
つまり、ニールは過去に逆行して主人公を追っていたということになります。
主人公は順行世界、ニールは逆行世界という構図です。
順行世界の主人公視点から見るとラストシーンでニールは死んでいるように思えますが、逆行世界のニール視点から見ると、
ニールは死ぬ前に、順行に戻って主人公を救出したというオチです。
じゃあニールの正体は誰だったのか?
ニールは、キャットの息子だったのです。
- キャットに好意を抱いていた主人公は
- その後、キャットと親密関係になり
- キャットの息子(マックス)の父親代わりになり
- 主人公に育てられたマックスは
- 未来でTENETに入隊
- 主人公を救出するために未来から過去へ送り込まれた
これで合点。
と言いたいところですが、ラストでニールは、主人公にとっては数年後の話で、自分にとっては数年前の話だと打ち明けていることから、
年齢として考えた場合、ニールがマックス説はない!
じゃあ誰なのか?(それは謎です)
ちなみにラストで主人公を助けたニールは、どのみちトンネル内で死ぬ運命なので、別れを言った後にトンネルに向い結局は死ぬ。
というお話です。
ニールがマックスであったとするならば、ラストシーンでマックスのバッグにオレンジ紐を付けた描写が登場すればと個人的には思いました。
プリヤの正体はTENETメンバー
ラストシーンでプリヤがキャットを暗殺しようとしていたシーン。
ニールに救出された主人公は、キャットを暗殺から救うためにプリヤを銃殺。
前述した通り、過去改変はできません(運命は変えられない)
ラストでニールに救われた主人公は、未来の息子マックス(=ニール)をプリヤ暗殺から救い → 未来で成長したニールは未来から過去へ戻り主人公を救う。
これを永遠と繰り返すという、まさに「 親殺しのパラドックス 」
主人公とニールは、互いに救い救われを永遠に繰り返す運命なのです。
黒幕の正体はTENET創設者
最重要人物=黒幕は、まさかの主人公自身だったというオチ。
TENETという組織を創設したのも主人公自身であり、アルゴリズムを知る者は消されるという掟を作ったのも主人公自身だった。
ラストシーンでは、キャット(エリザベス・デビッキ)を救うため、自ら作った掟を破ってプリヤを殺した主人公。
意外と優しいね。
なぜ世界が滅亡するのか?
アルゴリズムを9つ集めて起動すると、現在軸が全て逆行して人類が一瞬にして消えてなくなる=人類滅亡。
第三次世界対戦を阻止する主人公の物語というのが、公開前から噂されていました。
世界対戦どころの騒ぎではありません。
自分自身と接触するのはNG
逆行世界へスリップした際に、NGルールがありました。
逆行世界の自分自身と出会ってはならないというルールですね。
しかし、劇中思いっきり主人公同士が戦っていたシーンありましたよね。
あれは接触しているものの、認識していないのでセーフということになるのでしょう。
要は、出会ってもいいけれどお互いを自分自身を認識するとNGということでして、認識すると自分が消滅するというわけですね。
ラストシーンでアイブスが主人公に向けて言ったセリフ「(青組に)見られたらまずい 」
これが意味するものとは?
あなた自身で考えてみましょう!
主人公、ニール、キャット、セイターは何回の逆行をしたのか?
最後にこれは理解して見た方がいいと思いました。
現在軸、過去軸がミックスされた状態でストーリーが進むため、混乱する人もいることでしょう。
- 主人公 → 1度過去へ(アルゴリズム奪還のため)
- キャット → 1度過去へ(逆行弾に被弾して治療するため)
- ニール → 複数回過去へ(未来と過去を行き来している)
- セイター → 複数回過去へ(未来と過去を行き来している)
冒頭シーンのオペラを襲撃したテロリスト集団は、セイターの手下でして、アルゴリズム(プルトニウム241)を奪おうとするも、
主人公・ニールたちに阻まれ失敗。
誰の視点で見るかによって、時間軸が現在か過去かで頭が混乱する人がほとんどでしょう。
現在軸にいる人物視点では周囲が逆行しており、過去軸にいる人物視点では周囲が順行している。
これが今作を難しくしている最大の要因となっています。
次のページからは時間軸を完璧に理解して納得したい人向けです(別に読まなくてもよい)
気になる人は是非。