映画を見る前は恥ずかしながら、タゴールとゴダールの違いも分からないほどに、タゴールについて何も知らない門外漢でした。
見終わる頃には、すっかりとタゴールソングスに魅了されてしまいました。
インドの詩聖と呼ばれる、ラビントラナート・タゴール(1861-1941)の作った歌は2,500曲あまり(何とビートルズの約10倍)
このドキュメンタリー映画を見ると、100年を超えた今でも、いかにインドのベンガル人たちに親しまれ歌われているかが伝わってきます。
画像の引用元:IMDb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
タゴール・ソングス

公開日
2020年5月12日
上映時間
105分
キャスト
- 佐々木美佳(監督)
- オミテーシュ・ショルカール
- オノンナ・ボッタチャルジー
- レズワナ・チョウドリ・ボンナ
予告編
感想レビュー

好きだった点
ドキュメンタリー映画としてはめずらしいくらいにナレーションや監督の主張が前面に表れず、説明くさくなっていなかった点。
そのため、ほぼ全編がタゴールの歌とインタビュイーたちの言葉だけで繋がっていくのですが、流れに身を任せるように見られて心地よかったです。
「 インドは大家族の文化 」という言葉が出てきますが、若い監督がたくさんの人たちに温かく迎え入れられながら、
バングラデシュの貧富の差も老若男女も関係なく、その姿が活き活きと描かれていたのもよかったです。
インドに行った気分になれるのも(例えば、満員電車の屋根に登ったり)醍醐味の一つでしょう。
嫌いだった点
あえて挙げるなら、あまりメリハリがなく全体的に起伏が少なかった点。
ただし、その分ありのままの姿が映し出されているので、素材のよさを活かすには必要な手法だったのかなとも思いました。
見どころ
タゴールの正体を追い求めていく過程。
さまざまな人たちが語るタゴール像やタゴールソングを聴いているうちに、その魅力が徐々に伝わってくる点。
徐々に、というのがポイントです。
序盤ではタゴールについての説明は最小限にとどめながら、終盤近くで、タゴールの人となりについて明かされるのです。
「 神さまのような存在 」とまでされている、タゴールの生き様から利他の精神の尊さが感じられました。
地主でもあったタゴールは、他人から奪うどころか、何かを必要とする人たちに、必要なだけ与えたそうです。
余談ですが、どこかの国の政治家たちには、見習ってほしいですね。
2つ目は、タゴールソングそのものです。
見どころというか、聴きどころですね(笑)
タクシー運転手が口ずさむ国歌もタゴールソングであれば、町中のおばちゃんが歌う民謡もタゴールソング、
さらにラッパーがヒップホップ調で歌うのも、若者風にアップデートされたタゴールソングなのです。
曲調の変化を楽しみながら、歌詞の深さと普遍性に惹き込まれてしまいました。
劇中に登場する人物たちがタゴールソングスを通して、各々がどのような道を歩んでいくのかも注目ポイントですね。
疑問点
いかにして、日本人である監督自身がタゴールに魅了されたのかが不明でした。
つまり、映画を撮ろうと思った動機が明かされていないので、そこがとても気になりましたね。
以前から気になっていたことで、ボリウッド映画(インド映画における「ハリウッド」的な映画)のほとんどが作中で唐突に歌や踊りが展開されるのですが、
もしかしたら、タゴールの歌が生活に浸透しているから、その影響もあるのかな?とふと、思いました。
まとめ

今回、仮設の映画館で鑑賞したのですが、せっかくなので、普通の映画館ではできないことを試みました。
それは、深夜から明け方にかけて見ることです。
世界が寝静まった時間に、独りで歌に耳を澄ませる時間は、特別な味わいがありました。
鑑賞後は明るくなり始めた窓の外で、鳥が目覚めの挨拶を交わしていました。
監督が(仮設の映画館での)舞台挨拶で、現在のコロナ渦において、
「 困難をどのように乗り越えればいいのかについて、私は歌の中にその答えがあると思います 」と話していました。
力強いメッセージを受け取り、まさに今、見るべき映画だと改めて共感したのでした。