震災後の能登半島の人々の生活を描くドキュメンタリー映画「 NOTO, NOT ALONE 」
作品では、特に被害の大きかった石川県珠洲市の飯田高校で行われたボランティアによる給食づくりの様子が描かれています。
映像作家として現場に密着した小川紗良さんは、「 能登の自然や文化の奥深さを、より多くの人に体感してほしい 」と語ります。
彼女の目から見た能登の魅力と、次回作にかける思いをお聞きしました。
被災地の高校から始まった記録の旅
――そもそも、小川さんが能登へ向かわれたきっかけは。
小川さん:
映画に登場する三上奈緒さん(旅する料理人)とは以前、ラジオ番組のロケで知り合い、とてもエネルギーのある方だと思っていました。
震災後、三上さんが全国の生産者から食材を集め、ボランティアに声をかけて、被災した珠洲市の高校で給食をつくっていることを知りました。それを見て、私も家にあった無農薬のジャガイモを洗って送りました。
三上さんの言葉で、「 食事は体だけでなく心もつくる 」というのが印象に残っています。非常時こそいつも通りの安心できるご飯を届けたという思いがあって、私もすごく共感しました。
そうしたら三上さんが「 撮影しに来ない? 」と。
三上さんとしても、大変な状況の中での給食作りを記録として残して届けたいという思いがあったと思います。
私も能登に関心がありながら、なかなか踏み出せずにいたところで背中を押してもらい、カメラを持って向かいました。
――映画の撮影を含め、この1年間で能登に7回も行かれたそうですね。
小川さん:
すごく面白くて。7回も通うと現地に知り合いもできますし。
能登の風景はとても表情が豊かなので、四季を追って記録に残したいという気持ちも生まれました。
能登を初めて訪れたのが3月で、そのときは雪が降っていたのですが、夏が来て田んぼの景色が変わり、地元のお祭りや風習を見たり。毎回新鮮に目に飛び込んでくるものがたくさんあります。
能登の人たちは、本当にお祭り好きです。
市や町よりさらに細かい地区のつながりが強く、祭りの時期は週末になると、地区ごとに毎日のように開催されているほどです。
震災で道路が寸断され、支援物資も入ってこない、そこから出ることも入ることもできなくなった地区でも、祭りを通じたコミュニティの強さがあったからこそ、皆で助け合って生き延びることができたという側面もあったと思います。
―― 一方で、復興はまだまだ道半ばという話も聞きます。
小川さん:
まだ断水しているところもあるし、一年が経とうとしているのに体育館で生活を続けている人もいます。
能登の人の中にはシャイで謙虚な人も多く、なかなか「 助けて 」と言えない人もいると思います。
例えば9月の豪雨災害の直後に話を聞きに行ったときにも、
「 震災であれだけ助けてもらったのに、また助けてというのは申し訳ない 」と仰るんです。
だからこそ、能登の外側からも、もっと関心を持たないといけないと思います。
イベントで能登の商品を販売しながら、状況を伝える機会もあったのですが、「 行ったら迷惑になるのでは 」と言う人も多かったです。
でも、今の能登には新幹線や飛行機で行くことができるし、宿泊施設や飲食店も営業を再開しています。
普通に足を運んで地域文化を味わうだけでも、現地では経済が回ります。
現地の人たちは今、日常を取り戻したい一心で日々を過ごしています。
そのためには現地の人たちの「 商い 」が戻ってくることも大事です。
また、奥能登には「 奥能登芸術祭 」といったイベントもあるので、そういった催しが再開したら、それを機にさらに魅力を知る人が増えてほしいです。
――これからはどんな活動を予定していますか。
小川さん:
来年の春を目途に、「 NOTO, NOT ALONE 」の続編にあたる長編ドキュメンタリー映画を完成させたいと思っています。
長編では震災だけではなく「 食 」を主題にしたいと考えています。
今、能登が直面している問題は、全国にある食の生産の問題にも繋がっています。日本は食料自給率が低く、地方では過疎高齢化が進み、農業や漁業の後継者不足が深刻です。今回の地震でも、そのような問題が浮き彫りとなりました。
東京で生きていると、なかなか目の前の食材を誰が育て、どこからやってきたのか見えにくくなってしまいます。しかし見えないところで、実は私たちの生活を支える食に危機が迫っている。非常時になると、そんな食の大切さを改めて痛感すると思うんです。
日本の食の未来がどういう状況にあるのか、能登の姿を通して届けたいです。
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小川さんの言葉はとても心強く、やる気に満ちていました。
そのために私たちができることはなんでしょう。
映画制作にはお金が掛かります。
「 とおまわり 」では協賛金の募集を行っております。詳細はHPをご覧ください。
「 NOTO, NOT ALONE 」12月以降の上映予定
- 2024年12月11日(水)
場所:長野県小谷村・おたりつぐら
時間:18:00〜
登壇:三上奈緒 ほか
料金:500円
- 2024年12月20日(金)
場所:千葉県千葉市緑区・パーンスナーム
時間:15:00〜
登壇:三上奈緒、木原ちか
料金:3,000円
- 2024年12月22日(日)
場所:東京都銀座・銀座ソーシャル映画祭 会場・中越パルプ工業
時間:14:30〜16:15
登壇:三上奈緒、小川紗良
料金:2,000円
文・インタビュー:栗秋美穂