貴方が期するモノは室井慎次なのか?
それとも、踊る大捜査線なのか?
前後編の前作「室井慎次 敗れざる者」のレビュー導入文で語った言葉。
「 12年振りに「踊る大捜査線 」の物語が動いた。
スピンオフとして展開するのか?
踊る大捜査線を立て直す。
それが私の仕事だ。
その顛末は?
※今回はネタバレに触れる記載になります。
未見で鑑賞予定の方は、是非とも鑑賞後に読んでいただけると幸いです。
室井慎次 生き続ける者
あらすじ
警察を辞め、故郷・秋田に帰った室井慎次。「事件の被害者家族・加害者家族を支援したい」という想いで、少年たちと一緒に穏やかに暮らすも、ある日、家の傍で他殺と思われる死体が発見される。そんな中、かつて湾岸署を占拠した猟奇殺人犯・日向真奈美の娘だという少女・杏が現れ、穏やかな暮らしを求めたはずの室井の日常が徐々に変化していく。発見された死体は、室井が指揮を執ったレインボーブリッジ事件の犯人グループの一人だったのだ。かつての同僚であり、今は秋田県警本部長になっていた新城に頼まれ、警視庁捜査一課の若手刑事・桜とともに、捜査に協力することになった室井。そこに、服役を経て出所したリクの父が訪ねてくる。「家族でいる時間には限りがある」不器用ながらも組織を守り、組織と戦い、組織のために生きてきた男が、不器用ながらも実直に、必死に家族を守ってきた。敗れざる者…室井慎次の物語が、今ここに完結する。(公式サイトより引用)
公開日
117分
上映時間
2024年11月15日
予告編
キャスト
- 本広克行(監督)
- 柳葉敏郎
- 福本莉子
- 齋藤潤
- 前山くうが
- 前山こうが
- 松下洸平
- 矢本悠馬
- 丹生明里
- 松本岳
- 西村直人
- 真矢ミキ
- 筧利夫
- 飯島直子
- 小沢仁志
- 木場勝己
- 加藤浩次
- 稲森いずみ
- いしだあゆみ
- 織田裕二
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽(BGM)
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察・感想レビュー
室井慎次と言う漢(オトコ)
彼は多くのコンプレックスを抱え、それを動力源として真正面上方を真摯に見据え、障害や壁を時には壊し、退け、歩み続けた。
本来持ち合わせていたであろう、無垢な笑顔を決して見せることは無いままに。
険しく真っ直ぐな瞳。強固な眼力を担う眉。年々と増え深くなる眉間の皺。奥歯を噛み締め、つぐまれた口元。最善策を思考する口腔内と頬。
室井慎次は巌なまでに冷徹に見えるが、その肉体と精神は誰よりも熱い情熱の炎が灯っている漢である。
後悔の人生だったのか?
後悔とは本人の自責からもたらされる自覚。
他者からの他責としてもたらされた自覚の2通りがある。
本作品において室井慎次の後悔は、理想と約束を成し得ず辞した事の自責である。
だが室井慎次に関わった、また、知ることになった者たちの誰もが、室井慎次に他責を追求してはいない。
敵は誰だ?
前作の冒頭でも登場し、ドラマ「 踊る大捜査線 」本篇やスピンオフドラマ、劇場版に出現する奴等。
奴等は「 官僚 」と呼ばれ、上級国民として既得権益と利己的名誉の保持に邁進する。
尚も飽き足らずに、更なる利権を求める餓鬼界に蠢く魑魅魍魎。
奴等が、室井慎次の本当の敵である。誘惑と叱咤と言うハラスメント≒強権発動。室井慎次の肉体も精神も限界だっただろう。
成し得なかった事を成す
小さな手に持てる幸福。小さな足で到達出来る理想。そんな些細な幸福と正義を掲げた室井慎次は、無惨に虐げられ傷つき苦しむ者が居なくなる世界を成し得たかった。
正しいことをする為に偉くなろうとした。それでも、現実はままならない。
巨大な組織は、間違がっているであろう忖度を優先し、決定した事を「 常識 」と認定し、定石化させ「 前例 」と称して硬化していく。
小さな組織の街や学校や家庭の、偏向した思想も同様である。だからこそ守りたかった。守ろうとした。守るために求めた。守るために差し伸べた。
室井さんの語らぬ言葉、語る瞳と掌は常に赦しを与えてくれる。温かく許してくれる。その者の背丈に合わせた答を見つける時間と場を与えてくれる。
室井慎次は高所から変革が出来無いのであれば、低いところから変わって行こうとした。室井慎次は諦めていなかった。
室井慎次の想いは、かつての対立敵対もした同僚や関わった者達にも、同じ希望を理想としてとしてそれぞれの立場で継承されていた。
その根源は?
室井慎次を含めた、対立者たちを射抜いた確固たる信念を持った漢。
その漢を短期間で信念を芽生えさせた、叩き上げの多くの現場の刑事、警察官たちの思いと願いの連鎖なのだろう。
室井慎次を想い、あの漢:青島俊作は彼の地に降り立った。
「 THE ODORU LEGEND CONTINUES 」
まとめ
苦言を少々いたします。
フジテレビや日本テレビ辺りで始まった「 THE MOVIE 」という、ドラマの発展回収型と続編展開。
現代では「 配信で全話一挙放送 」「 続きは配信で 」スポンサーからでなく、一般視聴者から直接的な回収手段として活用されている手法。
本作は前述もさることながら、最後に重要人物を死亡させ、感動を誘うフジテレビの悪手が顕著で辟易してしまう。
室井慎次の物語だけに徹底していれば、感動の作品と成り、ラストの懐かしき青島の来訪登壇は、シリーズ再始動にシンプルに繋がったであろう。
新しい登場人物は、今後のシリーズで青島と絡むであろう配置の推察できる。
だが、製作陣の過去の栄光「 踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ! 」にすがった、派手目の事件の挿入。
強いて言えば湾岸署外野メンバーとライバル官僚の同窓会演出。
これを蛇足と言うのだよ。
蛇足ストーリーがなければ、前後編では無く1本の感動作と新シリーズの真なる序章に成り得たのではないだろうか。
文・ライター:@LEDMAXI