【 完全保存版 】小津安二郎監督映画作品まとめ

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今回は、独自の「 小津調 」で家族のドラマを描いてきた映像美の巨匠・小津安二郎監督作品をまとめていきます。

目次

小津安二郎について

小津は、ロー・ポジション(「 子どもの視点 」という見方もあり)に構えた撮影や、

ワンシーンワンシーンが写真芸術として十分に成り立つような厳密な構図などが特徴的な、

「 小津調 」とよばれる独特の映像世界を築きました。

没後60年以上経った現在でも国内外で高い評価を受け続ける、世界的な映画監督であり脚本家です。

主に親子関係や家族の解体をテーマとする作品を撮り続け、

サイレント映画時代から戦後までの約35年にわたるキャリアを持ち、約50もの作品を残しています。

笠智衆、原節子、杉村春子など、お気に入りの俳優を毎回のように登場させることも特徴的です。

1943年に日本軍の報道部映画班員として南方へ派遣され、1945年にシンガポールで敗戦を迎えたのち、

民間人収容所で抑留生活を送ったり、大切な友人を亡くしたりといった自身の戦争体験から、

戦後の作品には戦争批判が所々に見受けられます。

彼は、暇を見つけてはスタッフと連句を詠んでいたそうで、

「 連句の構成は映画のモンタージュと共通するものがあり、とても勉強になった 」と語っています。

なるほど彼の作品には、例えば「 東京物語 」で見られるように、時計の針の「 カチカチ 」という音と、

船の「 ポンポン 」というエンジン音が繋がるなど、前後のシーンをモンタージュ的に絶妙な繋ぎ方をする演出が見られます。

台詞にせずとも伝わる人情の機微や、こだわり抜いたディテールにより作られる作品は、

穏やかながら確固とした美意識を思わせる映像とともに強いメッセージ性があり、時代を超えて人々の心を打ちます。

小津安二郎作品一覧

全作品を時系列で羅列すると以下のようになります。

監督作品は54本存在しますが、そのうち17本のサイレント映画のフィルムは現存しておらず、

作品を見ること自体が難しい作品も多いです。

一部の作品はAmazonプライムや松竹プラスといった有料映画チャンネルなどで視聴可能です。

【 凡例 】
×印:フィルムが現存しない作品
△印:フィルムの一部のみ現存する作品
◎印:カラー作品

●サイレント映画

  • 懺悔の刃(1927)×
  • 若人の夢(1928)×
  • 女房紛失(1928)×
  • カボチャ(1928)×
  • 引っ越し夫婦(1928)×
  • 肉体美(1928)×
  • 宝の山(1929)×
  • 学生ロマンス 若き日(1929)
  • 和製喧嘩友達(1929)△
  • 大学は出たけれど(1929)△
  • 会社員生活(1929)×
  • 突貫小僧(1929)△
  • 結婚学入門(1930)×
  • 朗かに歩め(1930)
  • 落第はしたけれど(1930)
  • その夜の妻(1930)
  • エロ神の怨霊(1930)×
  • 足に触った幸運(1930)×
  • お嬢さん(1930)×
  • 淑女と髯(1931)
  • 美人哀愁(1931)×
  • 東京の合唱(1931)
  • 春は御婦人から(1932)×
  • 大人の見る繪本 生れてはみたけれど(1932)
  • 青春の夢いまいづこ(1932)
  • また逢ふ日まで(1932)×
  • 東京の女(1933)
  • 非常線の女(1933)
  • 出来ごころ(1933)
  • 母を恋はずや(1934)
  • 浮草物語(1934)
  • 箱入娘(1935)×
  • 東京の宿(1935)
  • 大学よいとこ(1936)×

●トーキー映画

  • 菊五郎の鏡獅子(1935) ※記録映画。一般公開はなし
  • 一人息子(1936)
  • 淑女は何を忘れたか(1937)
  • 戸田家の兄妹(1941)
  • 父ありき(1942)
  • 長屋紳士録(1947)
  • 風の中の牝雞(1948)
  • 晩春(1949)
  • 宗方姉妹(1950)
  • 麦秋(1951)
  • お茶漬の味(1952)
  • 東京物語(1953)
  • 早春(1956)
  • 東京暮色(1957)
  • 彼岸花(1958)◎
  • お早よう(1959)◎
  • 浮草(1959)◎
  • 秋日和(1960)◎
  • 小早川家の秋(1961)◎
  • 秋刀魚の味(1962)◎

一般的に「 小津の世界観 」として認識されているのは、戦後のトーキー映画になります。

数ある小津作品の中で現在でも視聴可能であり、特に評価の高いおすすめ作品を中心に、以下にまとめます。

東京物語(1953)

©東京物語

公開日

1953年11月3日

上映時間

135分

キャスト

  • 原節子
  • 笠智衆
  • 東山千栄子
  • 山村聰
  • 三宅邦子
  • 杉村春子
  • 香川京子
  • 大坂志郎

考察レビュー

小津作品の中でも最高傑作と評される作品です。

世界中から高い評価を受けており、特に「 ベルリン天使の詩 」などで著名なヴィム・ヴェンダース監督は、

本作でふんだんに用いられる登場人物の後ろ姿(背中)から強く影響を受けており、後ろ向きショットを多用しています。

アキ・カウリスマキやウォン・カーウァイ、マイケル・ウィンターボトムなど

世界中の名だたる映画監督が小津映画へのリスペクトを明言していますが、

本作が最も世界で評価されている代表作と言えるでしょう。

親元を離れた子どもがどんどん様変わりし、親を厄介者扱いするのに対し、戦争未亡人となった義理の娘・紀子が、

夫の死後8年絶ってもなお義理堅く義父母の世話を焼き、実の子どもよりよほど親切であるという対比は興味深いものです。

また、人間はそういうものだと語る紀子の達観した様子もありつつ、

義母には打ち明けられなかった将来の不安や寂しさを義父に打ち明けるラストシーンは、

戦争未亡人となった女性の苦労や苦悩を描きつつ、ある種女性としてのしたたかさも感じさせます。

弱さと逞しさを併せ持つ女性。

小津は人間、特に女性の多面的な彩りを見事に描く監督だと感じさせます。

志賀直哉の「 暗夜行路 」に魅了された小津が、同作の舞台である尾道を撮影場所とした本作。

人の命の儚さや、その中で煌めく生が尾道ののどかな光景の中で際立ち、深く長く人の心に残る名作です。

ラストシーン近くで、義父から義理の娘・紀子へ義母の形見として手渡される懐中時計は、

実の娘が半ば強引に形見として持って行った着物や宝飾品よりもずっと意味があるように思います。

戦争で夫を失った紀子に対する「 まだ人生をやり直す時間はある(しかしそれも無限ではない) 」

というメッセージめいたものを感じるのは、考えすぎでしょうか。

何度も何度も繰り返し見た作品ですが、その時々によって解釈や感じ方が増幅されるような

不思議な魅力を持った作品であることは間違いないと思います。

なお、この作品のフィルムはニューヨークの近代美術館に所蔵されており、

その世界的な芸術的価値の証明ともなっています。

また、撮影時に使用した台本が東京・京橋にある国立映画アーカイブで展示されており、その一部を見ることができます。

本作品の特徴ともいえる、尾道弁の抑揚なく感じるセリフも、小津によって微細に調整・指示されていたことが分かり、

どこか神聖さすら感じました。

晩春(1949)

©晩春

公開日

1949年9月19日

上映時間

108分

キャスト

  • 笠智衆
  • 原節子
  • 月丘夢路
  • 杉村春子
  • 青木放屁
  • 宇佐美淳也
  • 三宅邦子
  • 三島雅夫
  • 坪内美子
  • 桂木洋子
  • 清水一郎
  • 谷崎純
  • 高橋トヨ
  • 紅沢葉子

考察レビュー

妻を亡くして以来、娘が妻のように世話を焼いてくれる男性が、

自分を気にかけるせいで婚期を逃しつつある娘を心配し、自分の再婚に邪魔だと嘘をつき娘の縁談を進めるという

小津映画に何度も登場する「 婚期を逃しつつある娘の縁談話 」の代表作の一つです。

本作は「 父と娘の美しい親子愛 」というより、娘のファザーコンプレックス色が濃く出ています。

婚前旅行に父娘で訪れた京都の旅館で、同じ部屋に隣同士に布団を並べ、娘が

「 お父さんのことが好き、お嫁に行きたくない 」と打ち明けるなど、

父と娘というより、まるで男女の関係性であるかのような危うさを含んだ描写があります。

やはり一部では物議をかもしたようで、やや問題作であるという評もありながら、

国内外で確固とした評価を得ている作品の一つです。

父の説得によりなんとか娘が無事新婚旅行に旅立ち、父が「 ああでも言わないと嫁に行かないから 」と、

自身の再婚話は嘘だったと種明かしをするシーンでは、ほっこりした気持ちになります。

緊張と緩和のギリギリのバランスを保った一作と言えるかもしれません。

麦秋(1951)

©麦秋

公開日

1951年10月3日

上映時間

124分

キャスト

  • 菅井一郎
  • 東山千栄子
  • 笠智衆
  • 三宅邦子
  • 原節子
  • 村瀬禪
  • 城澤勇夫
  • 高堂国典
  • 淡島千景
  • 高橋トヨ
  • 佐野周二
  • 二本柳寛
  • 杉村春子
  • 宮内精二
  • 井川邦子
  • 志賀真津子
  • 伊藤和代
  • 山本多美
  • 谷よしの
  • 寺田佳世子
  • 長谷部朋香
  • 山田英子
  • 田代芳子
  • 谷崎純

考察レビュー

またも婚期を逃しつつある娘の縁談の話です。

28歳の紀子の縁談相手は、42歳未婚のハイスペック男性。

多少年は離れていても社会的地位や容姿はまたとない好条件のため、本人の気持ちよりも先に話をまとめたがる紀子の兄と、

それじゃあんまりにかわいそうだと嘆く母と、前向きなのか後ろ向きなのか態度をはぐらかす紀子。

それぞれの思いが交錯するなか、結果的に紀子が選んだ相手はなんと子持ちの隣人。

しかもその相手が明日秋田に赴任するという慌ただしさのなかで、

良家のお嬢さんで丸の内勤務のOLという立場をあっさり捨て、秋田についていくと言い出します。

当然家族は納得がいきませんが、「 自分の人生は自分で決める 」という女性の自立心が描かれており、

気付けば秋田弁を流暢に使いこなしている紀子の逞しさが頼もしい一作です。

兄と一緒にお酒を飲むシーンで、「 戦争が終わってから女が生意気になってしょうがない 」と小言を言われた際、

真剣な顔で「 違う。戦争中は男が図々しすぎたのよ」と反論する紀子は、

新しい時代の新しい女性像として描かれていたように思います。

戦後間もない時代の男性である小津が主人公にそうした主張をさせたというのは意外であり、好感が持てました。

お茶漬けの味(1952)

©お茶漬けの味

公開日

1952年10月1日

上映時間

115分

キャスト

  • 佐分利信
  • 木暮実千代
  • 鶴田浩二
  • 淡島千景
  • 津島恵子
  • 笠智衆

考察レビュー

お見合い結婚をした有閑マダムが、地方出身の真面目で純朴な夫に不満を抱えて身勝手に振る舞うも、

突然の海外赴任により夫の大切さに気付き、関係性が改善する様を描いています。

その変わり身の早さに半ば呆れてしまいますが、小津の「 女心 」の捉え方は、そのようなものだったのかもしれません。

なお、夫が海外に発つ前夜に夫婦でお茶漬けをすするシーンは、

本作が最初にできた当時(第二次大戦中)は、夫が出征する前夜だったそうです。

検閲の結果、「 出征はめでたいことなのだから赤飯でないとおかしいだろう 」ということで却下されたそうで、

本作は戦後、出征ではなく海外赴任に内容を変えて世に出ました。

このエピソードからしても、小津の戦争に対する反感と、戦中の検閲というものがいかに文化を踏みにじっていたか、

その恐ろしさを思い知ります。

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