今なお世界中の人々から愛されているオードリー・ヘップバーンですが、子どもの頃の不幸な出来事から実生活では誰よりも愛を求めたスターでした。
また、女優になる前はバレリーナになることが夢だったヘップバーンでしたが、バレリーナを諦めないといけないという挫折も経験しています。
ですが、彼女がスクリーンで輝いているのは、常に前を向いて悲しい出来事や挫折を乗り越えてきたからでしょう。
今回は、そんなオードリー・ヘップバーンの出演作からおすすめの映画を3本ご紹介します。
オードリー・ヘップバーンとは

挫折を前向きに乗り越えた女優
1929年に生まれたオードリー・ヘップバーンは、父親が失踪したり、第2次世界大戦で栄養失調に苦しんだりと、つらい幼少期を過ごしました。
晩年になって彼女がユニセフの親善大使となったのは、そうした子どもの頃の不遇な体験があったからとも言われています。
また、ヘップバーンの母であるエラ・ファン・ヘームストラはオランダの貴族だったことから、映画の中で見ることのできる気品もこうした彼女の血筋によるものかもしれません。
バレリーナになることが夢だったヘップバーンでしたが、成長期に満足な栄養を取れなかったことや、戦争が激しくなった頃にはバレエの練習も満足にできなかったことから、プリマ・バレリーナになることは難しいと言われました。
バレリーナにはなれないと思った彼女は、気持ちを切り替え演劇の道に進んでいきます。
女優になるつもりはなかった?
イギリス国籍を持っていたヘップバーン。
いくつかのロンドンの劇場で舞台に出演していましたが、1950年頃からイギリスの映画にも出演するようになりました。
ただし、ヘップバーン自身はあくまで演劇がメインで、映画の出演はその片手間ということで、もともと女優になるつもりはなかったと語っています。
そんな彼女に転機が訪れたのは、1951年の映画「 モンテカルロへ行こう 」でフランスのロケに参加したときのことでした。
この現場でフランスの女性作家・コレットは、戯曲「 ジジ 」で主役のジジを演じる女優を探していましたが、そのコレットがヘップバーンを見た途端「 私のジジ 」と言い、戯曲への出演が決定しました。
それと同時期に「 ローマの休日 」(1953)の王女役のテストにも合格したヘップバーンは、映画の合間に舞台やテレビに出演するという条件で、パラマウントと契約を結んだのでした。
オードリー・ヘップバーンの衣装にも注目
もしヘップバーンがいなかったら、今のファッションはなかっただろうとデザイナーが述べるほど、ヘップバーンがファッション界に与えた影響は大きいと言われています。
当時、ハリウッドにはマリリン・モンローをはじめとするグラマラスな女優が多かったのですが、細身のヘップバーンが、そういったハリウッド女優のイメージを変えました。
映画「 麗しのサブリナ 」(1954)以降、ヘップバーンの衣装を担当したのはファッションデザイナーのユベール・ド・ジバンシィですが、
なかでも「 ティファニーで朝食を 」(1961)でヘップバーンが身にまとったリトルブラックドレスは、その後のヘップバーンのイメージを定着させました。
また、まさか自分が映画スターになるとは想像していなかったヘップバーンは、ユベールに「 あなたの作ってくれたブラウスやスーツを着ていると、服が私を守ってくれている気がするわ 」と語っています。
それだけ、ヘップバーンの衣装は彼女の演技の一部になっていると言えるでしょう。
絶対見ておきたい作品はこれ!
ここからは、彼女の出演作品のうち、おすすめの3作品を紹介していきます。
- ローマの休日(1953)
- 麗しのサブリナ(1954)
- パリの恋人(1957)
ローマの休日(1953)

原題(英題)
Roman Holiday
公開日
1954年4月27日(日本初公開)
上映時間
118分
キャスト
- ウィリアム・ワイラー(監督)
- オードリー・ヘプバーン
- グレゴリー・ペック
- エディ・アルバート
- ハートリー・パワー
- ハーコート・ウィリアムズ
- マーガレット・ローリングス
- テュリオ・カルミナティ
- パオロ・カルリーニ
コメント
当時まだ無名だったオードリー・ヘップバーンが、瞬く間にハリウッドスターとなるきっかけになったのがこの作品です。
本作でヘップバーンはヨーロッパの某小国の王女・アンを演じ、王女がローマで出会った新聞記者ジョー・ブラッドレーをグレゴリー・ペックが演じています。
当初、アンのキャスト候補にはエリザベス・テイラーなどが挙がっていましたが、グレゴリー・ペックがキャストに決まったことから、相手は無名の女優から選ばれることになりました。
ヘップバーンの演技を離れた自然な振る舞いや笑顔を見たウィリアム・ワイラーが、即座に彼女を選んだそうです。
映画では、自由を求める王女・アンが大使館を抜け出し、たまたま出会った新聞記者のジョー・ブラッドレーによるローマ案内でつかの間の自由を楽しみます。
最初はスクープ記事を書くためにアン王女に近付いたジョーでしたが、そのうち天真爛漫な彼女に惹かれていきます。
アン王女も同じような気持ちをジョーに抱くようになりますが、シンデレラのように最後はジョーと別れて大使館へと戻っていきます。
「 ローマの休日 」は、王女としての気品と自由を楽しむおてんば娘のキャラを自然に演じたヘップバーンの楽しそうな姿が、見ているこちらをも楽しい気分にさせてくれます。
ラストはビターチョコレートを食べたときのような、ほろ苦くて切ない気分にさせられますが、
広場でジェラートを食べたり、スクーターに乗っているヘップバーンの姿を見て、ローマの休日を自分も楽しみたいと思うような映画です。
麗しのサブリナ(1954)

原題(英題)
Sabrina
公開日
1954年9月17日(日本初公開)
上映時間
113分
キャスト
- ビリー・ワイルダー(監督)
- オードリー・ヘプバーン
- ハンフリー・ボガート
- ウィリアム・ホールデン
- ウォルター・ハンプデン
- ジョン・ウィリアムズ
- マーサ・ハイヤー
- ジョーン・ボーズ
- マルセル・ダリオ
- マルセル・ヒライヤー
- ネラ・ウォーカー
- フランシス・X・ブッシュマン
- エレン・コービイ
コメント
「 ローマの休日 」でブレイクしたオードリー・ヘップバーンでしたが、次回作では大富豪の兄弟への愛に揺れ動く女性を演じます。
それがこの、「 麗しのサブリナ 」です。
大富豪の兄弟は、兄のライナス・ララビーをハンフリー・ボガート、弟のデイビッド・ララビーをウィリアム・ホールデンが演じています。
ララビー家のお抱え運転手の娘であったサブリナは、弟のデイビッドに夢中でしたが、プレイボーイだった彼はサブリナには目もくれません。
ですが、2年間のパリ留学から戻り、垢ぬけた姿のサブリナを見たデイビッドは、婚約者がいるにもかかわらず、サブリナに求婚します。
生真面目な兄のライナスはそんな2人を引き離そうとするのですが、サブリナと一緒にいるうちに彼女を好きになり、サブリナもまた気持ちが揺れ動いていきます。
この映画では、さなぎから華麗な蝶に変身したかのようなサブリナの姿に目を奪われますが、監督のビリー・ワイルダーは、華麗なサブリナの衣装を自分で見つけるようにヘップバーンをパリに送りました。
そのときに出会ったのがファッションデザイナーのユベール・ド・ジバンシィでしたが、当初ユベールは、ヘップバーンが来ると聞き「 キャサリン・ヘップバーン 」だと思い込んだのだそう。
そのため、オードリー・ヘップバーンと最初に会ったときはがっかりしたそうですが、話をしているうちにヘップバーンの人柄に魅了され、以降の映画ではユベールが彼女の衣装を担当するようになりました。
また、監督がビリー・ワイルダーというだけあって、ズボンのお尻ポケットにシャンパングラスを入れたまま椅子に座ったデイビッドがお尻に怪我をする場面や、
パリ留学中のサブリナが卵をうまく割れない場面など、思わずクスッと笑ってしまうような場面をさりげなく映画に盛り込んでいます。
パリの恋人(1957)

原題(英題)
Funny Face
公開日
1957年9月28日(日本初公開)
上映時間
103分
キャスト
- スタンリー・ドーネン(監督)
- オードリー・ヘプバーン
- フレッド・アステア
- ケイ・トンプソン
- ミシェル・オークレール
- ロバート・フレミング
- ドビマ
コメント
オードリー・ヘップバーン初のカラー映画出演作品が、この「 パリの恋人 」です。ミュージカル映画でもあります。
この映画でヘップバーンは古本屋で働く娘ジョー・ストックトンを、ファッション雑誌のカメラマンであるディック・エイブリーをフレッド・アステアが演じています。
ファッション雑誌「 クオリティー 」の編集長であるマギーは、カメラマンのディックをはじめとするスタッフとともにグリニッジビレッジに繰り出し、古本屋で働くジョーを無理やり追い出し撮影をはじめます。
撮影が終わったあと、一人残ったディックはジョーとともに後片付けをするのですが、そこでジョーはディックに突然キスをされ、次第に彼に心奪われるようになります。
次にマギーは、ミス・クオリティーを選んでパリのデザイナーと独占契約を結ぼうとしますが、ディックはジョーを推薦します。
あんなにおかしな顔(ファニーフェイス)ではだめだと渋るマギーを説得し、こんな変な顔ではモデルになれないというジョーを、フランスに行けば共感主義者のフロストル教授にも会えると説得したことで、
ジョーはモデルになることを引き受けるのでした。
フレッド・アステアのダンスに比べれば自分はまだまだと謙遜していたヘップバーンですが、もともとバレリーナ志望だったこともあり、2人の息ぴったりなダンスを披露してくれます。
なかでも印象に残るのは、共感主義者の溜まり場のカフェでジョーが踊る場面ですが、ここでは所狭しと踊るヘップバーンの躍動感たっぷりのダンスを見ることができます。
映画の原題とヘップバーンのルックスは結びつかないようにも思いますが、ヘップバーン自身は自分の顔にコンプレックスを持っていたようなので、映画のタイトルにも惹かれて出演したのかもしれませんね。

文・ライター:竹内亨午