文・ライター:@小松糸
2016年に実際に起こった障がい者施設の死傷事件をもとに描かれた作品。
元有名作家の洋子は、森の中にある障がい者施設で働くことになった。
さと君や陽子といった同僚と仲睦まじく働く一方、他の職員による入所者への暴力などを目の当たりにし、さと君は次第に正義感を増幅させていく。
月

あらすじ
辺見庸の同名小説を実写化。相模原で実際に起きた衝撃の事件が題材。山奥の障がい者施設で働く元作家の女性は、入所者と働いていく過程で、職員が障害者に対して暴力を振るっている現実を目撃する。
原題
なし
公開日
2023年10月13日
上映時間
144分
予告編
キャスト
- 石井裕也(監督)
- 宮沢りえ
- 磯村勇斗
- 長井恵里
- 大塚ヒロタ
- 笠原秀幸
- 板谷由夏
- モロ師岡
- 鶴見辰吾
- 原日出子
- 高畑淳子
- 二階堂ふみ
- オダギリジョー
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー

実際に起こった事件をもとに作られた今作。
レビュー執筆にあたり当時のニュース記事や概要を読んだが、かなり精神的にくるものも少なくなかった。
多少フィクションとしての脚色はあれど実話だし、事件が起こったのも最近なので、映画にするのは早すぎるのではと正直思っていた。
しかし、映画として背景を描くことは並大抵のことではなく、目を背けずに知れたことの意味があったと思える。
映画の冒頭に聖書の引用が映される。
「 これまであったことはこれからもある。これまで起こったことはこれからも起こる。太陽の下、新しきものは何もない。」という言葉の中で、タイトルに「月」とつけたことにかなり意味を感じた。
犯人のさと君は、月の下で新しいことを起こそうと思っていたのだろうか。
思い通りにならない職場の中で、皆がストレスを抱えて仕事をしている。
入所者に暴力などが当たり前になっている序盤のシーンでは、さと君はまともに見えてしまったのが恐怖だった。
道徳的にこれは正しいとか間違っているとか、そういうのではなく、綺麗事だけではいけないのもたしか。
自分はどうなのかと観終わってからずっと考えているし、勝手に自己嫌悪になってしまう。
入所者の一人であるきいちゃんのお母さんが出てくるのだが、さと君の言う「 しゃべれない人は心がない 」の言葉を本当に通用させるなら、このお母さんは唯一の入所者サイドの登場人物だ。
きいちゃんのことを気にかけ面会にも頻繁に来ている。
そして、事件後に施設を訪れた姿が頭にずっと焼き付いて離れない。
洋子の夫がさと君に接触した際に「 お前には生きるということがどういうことなのかわかってない 」と言った。
きいちゃんが生きているということが、お母さんの生きることに繋がる。
あの表情を見て、たとえ話すことができなくても、身動きが取れなくても、その人が生きることが周りにどれだけ影響を与えているのかを感じた。
映画の中盤のさとくんと洋子の対話のシーンからずっと生きることについて考え、答えのない問いのようにも思えたが、きいちゃんのお母さんが体現してくれたような気がした。
まとめ
暴力はいけない、とわかっていても、これは綺麗事なのだろうか。
自分の想像の中だけで考えていても、本当のことは当事者たちにしかわからない。
自分があの場にいたらどうするかを、観賞後ずっと考えている。