4人目:ベニチオ・デル・トロ

スティーブン・ソダーバーグ監督の「 トラフィック 」(2000)はアメリカ映画だが、複数の国の複数の都市に舞台がまたがる群像劇で、メキシコのティフアナを舞台にしたパートはほぼ全編スペイン語である。
既にハリウッドの英語作品でも活躍していたベニチオ・デル・トロはアメリカのプエルトリコ自治連邦区出身で、母語はスペイン語である。
本作では出演パートのほぼ全編が英語以外の言語ながら高く評価され、アカデミー賞の助演男優賞を受賞した。
同じソダーバーグ監督の「 チェ 28歳の革命 」(2008)ではキューバ革命の英雄、エルネスト・ゲバラ(チェ・ゲバラ)を演じ、こちらもほぼ全編スペイン語だった。
同作ではカンヌの男優賞を受賞している。
5人目:マリオン・コティヤール

こちらはフランス語の作品「 エディット・ピアフ 愛の讃歌 」(2007)での受賞。
伝説的なシャンソン歌手、エディット・ピアフを主人公にした伝記映画で、全編フランス語作品でもアメリカ資本の入っている「潜水服は蝶の夢を見る」(2007)と異なり、
フランスを主体としたヨーロッパ映画である(資本的にはフランス、イギリス、チェコの合作)。
フランス映画がアカデミー賞で主要部門を争うことは度々あったが、意外なことに21世紀まで演技部門受賞者はいなかった。
フランス国内外のさまざまな賞を受賞したマリオン・コティヤールは本作でアカデミー賞の主演女優賞を受賞している。
英語も堪能で、「 インセプション 」(2010)など英語のハリウッド大作への出演も少なくない彼女だが、2度目のアカデミー賞候補となった「 サンドラの週末 」(2014)もフランス語作品だった。
6人目:ユン・ヨジョン

「 ゴッドファーザーPART II 」「 トラフィック 」同様、アメリカ映画からの受賞。
韓国系アメリカ移民の一家を主人公にした「 ミナリ 」(2020)はアメリカ映画ながら、全編の半分以上が韓国語で、助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンはほぼ全ての台詞が韓国語だった。
多様性を近年のテーマとして掲げているアカデミー賞の改革が結実した結果と言っていいだろう。
アジア人のアカデミー助演女優賞受賞者は史上2人目で、「 サヨナラ 」(1957)のミヨシ梅木(ナンシー梅木)以来の快挙だった。
「 サヨナラ 」が英語メインの作品だったことを考えると、「 ミナリ 」の快挙は時代の変化を感じる、より意義深いものである。
映画の発祥元・ヨーロッパ
映画の発祥元はフランスであり、元々映画産業はアメリカよりヨーロッパの方が盛んだった。
その地位が逆転したきっかけは、ヨーロッパが戦地になった第一次世界大戦である。
戦地になったことでヨーロッパの映画産業は後退し、逆にアメリカは産業を拡大させた。
以降、映画の本場といえばハリウッドのあるアメリカがその地位に君臨し続けている。
相対的地位が低下したとはいえ、アメリカ映画界にも発祥元であるヨーロッパへの意識はあったようだ。
フランスの名匠、ジャン・ルノワール監督の「 大いなる幻影 」(1937)をはじめ、ヨーロッパの映画は時折アカデミー賞の主要部門を争っている。

文・ライター:神谷正倫