第96回(2023年度)アカデミー賞は「 オッペンハイマー 」の圧勝、人種的な多様性が後退した印象

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下馬評通り「 オッペンハイマー 」の圧勝

第96回(2023年度)アカデミー賞が、日本時間の2024年3月11日に発表された。詳しい結果はさまざまなところに出ていると思うが、アカデミー賞の公式サイトだけ貼っておこう。

目立つのは「 オッペンハイマー 」の圧勝で、作品 / 監督 / 主演男優 / 助演男優 / 撮影 / 編集 / 作曲の7部門受賞となった。

ただしこの結果自体は下馬評通りなので、驚くには値しない。

以下、今年の受賞結果を見て思った3つのトピックについて書いてみたい。

目次

配給会社ビターズ・エンドは賭けで大勝

ユニバーサル映画である「 オッペンハイマー 」は、通常なら東宝東和が配給するのだが、おそらく原爆の発明にまつわる物語ということで東宝東和が二の足を踏み、

アメリカでは7月に公開されたのに日本では上映の予定がなく、多くの映画ファンをやきもきさせた。

このまま劇場公開は見送られるのではないかとさえ思われたが、2023年12月、独立系配給会社ビターズ・エンドによる日本公開が発表された。

「 オッペンハイマー 」は、おそらく上映権もバカ高く、悪い方向で物議を醸せば興行の妨げとなるリスクもある。

ビターズ・エンドは、「 パラサイト 半地下の家族 」という大ヒット作こそあるものの、基本的にはアート系の良質な作品(=興行的にそこまでのヒットはしない作品)を配給することで知られる会社だ。

「 オッペンハイマー 」のようなハリウッド大作を配給するのは、社運を左右する大きな賭けだったはずだ。

しかしその賭けは、予想以上の大勝になったようだ。

オスカー7部門受賞というお墨付きを得たことで、今後あらゆるメディアが、その内容やテーマ、歴史的背景、アメリカでの受け方などについて書き立てるだろう。

これで大ヒットは間違いないし、今後どんな論争が巻き起こったとしても、それは上映の妨げとはならず、むしろ映画のパブリシティとなる。

どう考えても損をする要素が見当たらない。

ビターズ・エンドの勇気と決断に拍手だ。

日本映画の3部門受賞はならず

事前に大きな話題になっていたのは、「 君たちはどう生きるか 」(長編アニメ賞)「 ゴジラ -1.0 」(視覚効果賞)「 PERFECT DAYS 」(国際長編映画賞)という3本の日本映画がノミネートされていたことだ。

この内、前の2本が受賞を果たし、「 PERFECT DAYS 」だけは受賞を逃した。

それでも2本が同時に受賞したことは素晴らしい快挙である。

だが、ふとこんなことに気がついた。

「 君たちはどう生きるか 」=アニメ

「 ゴジラ -1.0 」=特撮(VFX)怪獣もの

「 PERFECT DAYS 」=実写ドラマ

ジャンルで分けるとこうなるわけだが、日本映画の「 アニメ 」「 特撮怪獣もの 」というジャンルは、もうだいぶ前から評価は確立している。

日本アニメの人気と影響に関しては、今さら説明するまでもないだろう。

怪獣特撮ものもハリウッドの映画人に大きな影響を与えているし、ゴジラはレジェンダリー映画によって、すでにハリウッドで重要なキャラクターとなっている。

つまり、この2つのジャンルで評価されることに特に驚きはない。

多くの映画ファンが残念に思っているのは、興行的にも前2者に比べて圧倒的な劣勢に立たされている「 実写ドラマ 」がなかなかブレイクしないことではないだろうか。

「 ドライブ・マイ・カー 」(ちなみに本作の配給もビターズ・エンドだ)は、2年前のオスカーで作品賞 / 監督賞 / 脚色賞 / 国際長編映画賞の4部門にノミネートされるという前代未聞の快挙を果たし、国際長編映画賞を獲得した。

しかし、日本国内ですらそこまでヒットはしていない(約13億5000万円)。

「 ドライブ・マイ・カー 」が、評価の面であそこまで到達したのだから、それに続けとばかり日本映画(実写ドラマ)が世界に進出している…という雰囲気でもない。

「 ドライブ・マイ・カー 」は、どことなくイレギュラーな成功のようになってしまっている。

それだけに今回「 PERFECT DAYS 」も受賞してくれていたら、ジャンル的に言うと日本映画の4つの柱が綺麗に揃う形になったので、あらためて残念に思う。

それだけ「 関心領域 」が強かったのだから仕方ないが。

今年はすでに「 夜明けのすべて 」が多くの人から絶賛されていて、質の高さは文句なしだ。

しかし、あれはオスカーのような場で勝ち残るというタイプの作品ではなく、仮に出品されてもノミネートに至らないだろうし、万が一ノミネートされても受賞は無理だろう(この予想が外れてくれたら果てしなく嬉しい)。

多様性の後退

今年のアカデミー賞は、脚色賞のコード・ジェファーソンと助演女優賞のダバイン・ジョイ・ランドルフがアフリカ系の血を引いている(肌の色はかなり薄い)のが目立った程度で、ほとんどの受賞者が白人。

アジア系やネイティヴアメリカンも含め、人種的な多様性は非常に後退した印象だ(その観点からもアジア系である宮﨑駿と山崎貴の受賞は貴重)。

主演女優賞は「 キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 」のリリー・グラッドストーン(ネイティヴアメリカン)も有力視されていたが、結果的にはエマ・ストーンが2度目の受賞を果たした。

受賞者の顔ぶれに白人が多いのは、「 オッペンハイマー 」が多部門を受賞したのだから無理のない話だとも言える。

だがジェンダー差別に関わる問題をエンタメとして昇華した「 バービー 」の立役者であるグレタ・ガーウィグやマーゴット・ロビーが、ノミネート段階で落とされた問題も視野に入れると、

多様性の尊重に対する揺り戻しが来ているのでは?という気がしてならない。

これは昨年、登場人物の多くがアジア系の「 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 」に作品賞 / 監督賞 / 主演女優賞をはじめ7部門もの賞(奇しくも今年の「オッペンハイマー」と同じ数だ)を与えてしまった反動が大きな一因なのでは?と思う。

今になって「 あの狂躁(きょうそう)は一体何だったんだ?」と醒めた気分になり、選択の基準として人種的 / ジェンダー的多様性の尊重が、今年はかなり後退したのではなかろうか。

私自身は、映画の賞(ましてやオスカーのようなお祭り)で、純粋な作品の質よりも多様性を優先させるような傾向には賛同しない。だがそれにしても去年とは打って変わり過ぎたこの光景に、何か嫌な空気を感じるのも事実ではある。

さらに言えば、圧倒的に下馬評の高かった「 関心領域 」に対して「 PERFECT DAYS 」に勝機があるとすれば、現在のガザの紛争から、

ユダヤ人問題に対する微妙な感情が湧き、ひとまず「 関心領域 」は脇に置こう…的な動きがあった場合だと思っていた。

もちろんそれは作品の質と直結しない部分なので、それを望んでいたわけではないし、非難する気など微塵もない。

だが、ともかくその動きはなかったという事実を、先ほどの「 多様性の後退 」の問題と絡めると、何かモヤっとしたものがうごめくのは感じてしまう。

ぼのぼの

文・ライター:ぼのぼの

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