「 ラストマイル 」考察・感想レビュー【ネタバレなし】
アメリカ資本の大手物流会社の巨大物流センターから発送された配達物に、爆弾が仕掛けられた。
最新オリジナルスマホの発売とプレミアムセール開催開始もあり、物流は止められない。
…どうする?
- 非常におもしろい。コロナ禍自粛から加速度的に利用されるネット購入による物流の裏側を感じさせつつ、社会的視点を多角的に見せてくれる
- 仕事は楽しいかつらいかではない。上流下流格差でもない。大切なのは矜持である
ラストマイル
あらすじ
11 月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。
やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。
巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?
残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?決して止めることのできない現代社会の生命線 ―
世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?すべての謎が解き明かされるとき、この世界の隠された姿が浮かび上がる。
(公式サイトより引用)
公開日
2024年8月23日
上映時間
128分
予告編
キャスト
- 塚原あゆ子(監督)
- 野木亜紀子(脚本)
- 満島ひかり
- 岡田将生
- ディーン・フジオカ
- 大倉孝二
- 酒向芳
- 宇野祥平
- 安藤玉恵
- 丸山智己
- 火野正平
- 阿部サダヲ
- 石原さとみ
- 井浦新
- 窪田正孝
- 市川実日子
- 竜星涼
- 飯尾和樹
- 吉田ウーロン太
- 薬師丸ひろ子
- 松重豊
- 綾野剛
- 星野源
- 橋本じゅん
- 前田旺志郎
- 金井勇太
- 永岡卓也
- 麻生久美子
- 望月歩
- 中村倫也
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察・感想レビュー
本作は、監督・塚原あゆ子と脚本・野木亜紀子の集大成といってもいいだろう。
綾野剛と星野源が主演した「 MIU404 」も、石原さとみ主演の「 アンナチュラル 」も、本作とシェアード・ユニバースにすることで、
3作のドラマの核となる骨子が明確に提示された。
それは“ 矜持 ”である。
現実の米資本大手物流A社の配送が、近年で二転三転したニュースは記憶にあるだろうか?
当初はヤマト運輸が一手に引受け、FC化された個人ドライバーが荷受し配送していた。
しかし、配送量の増加に反して荷物単価は叩きに叩かれ…
ヤマト運輸は撤退路線に入った。
その隙間に日本郵政が参画し、現在では自社配送をFC元締会社が組織し個人ドライバーに配達させている。
この入り乱れ飽和状態は、ドライバーの負担増大と低賃金化に拍車をかけている(燃料高騰も厳しい)
そして、それぞれの人物像が、現代の日本経済の衰退を示唆する警鐘ではないだろうか。
さて、“ 矜持 ”と示したが、本作でのキーワードを3つに限定してみた。
「 従属 」
「 矜持 」
「 プライド 」
それぞれを主要人物に当てはめてみよう。
※ 俳優名(役名)⇒キーワード
- 満島ひかり(舟渡エレナ)⇒矜持
- 岡田将生(梨本孔)⇒従属
- ディーン・フジオカ(五十嵐道元)⇒プライド
- 宇野祥平(佐野亘)⇒従属
- 火野正平(佐野昭)⇒矜持
- 阿部サダヲ(八木竜兵)⇒従属→矜持
- 酒向芳(刈谷貴教)⇒プライド
- 大倉孝二(毛利忠治)⇒従属
- 綾野剛(伊吹藍)⇒矜持
- 星野源(志摩一未)⇒矜持
- 麻生久美子(桔梗ゆづる)⇒矜持
- 石原さとみ(三澄ミコト)⇒矜持
- 井浦新(中堂系)⇒矜持
- 窪田正孝(久部六郎)⇒矜持
- 薬師丸ひろ子(三澄夏代)⇒矜持
- 望月歩(白井一馬)⇒矜持
従属とはやらされてる、しなければならない、思考しない、こなすだけ…要するに組織に属して従うのみの状況。
プライドとは達成感、我欲、名声を主として、自身が評価されるために他事他者の立場は省みない。
矜持とは、英語でいうと、プライドである。
しかし、本作での矜持とプライドは表裏一体ながらも似て非なるもの。
達成“ 感 ”ではなく、目的のために自らを犠牲にし、他者と共闘し未来への孔を穿つ自己の克己心に他ならない。
現代の日本は、矜持が霧散しウザいとされていないか?
プライドという我欲に塗れたエキセントリックな承認欲求に人心が従属している。
本作で矜持を持ち、走る彼らと走らせる者たち。
映画を見た人々の多くから「 配達員が大変なんだと知ったから優しくしよう 」などという、脳味噌がお花畑の声が上がっている。
要するに社会構造が他人事であり、あくまでも” プライド “な、上から目線に立とうとしているのではないか?
ホワイトカラーは新たな仕組みを生み出す創造的な業務に携わるスペシャリスト。
ブルーカラーは仕組みに対して、日々繰り返し精査し完成度を高め研鑽し、仕組みの変化に適宜対応するプロフェッショナル。
職務とはかくあるべきだと僕は思う。
だからこそ、国家行政が賃金格差や社会的地位の格差を小さく狭めるように促進すべきだと思っている。
そんな歪で階級制度的な資本主義社会構造の一端を垣間見せてくれたのが、このラストマイルである。
まとめ
ラストマイルは、映画という総合的エンターテイメントから我々に対し、
見て見ぬふりをしている社会の歪さに気付くきっかけを与えてくれる、“ ラストワンマイル ”ではないだろうか。
ライター:LEDMAXI