死後もデジタルレプリカとして映画出演する俳優たち
一方俳優組合のストは何を求めていたのだろうか?
脚本家組合と同様、基本的な労働条件の改善や配信サービスにおける二次使用料の分配などに加え、こちらでもAIが大きな争点になっていた。
その合意に関する原文はこちらの記事の通り。
こちらの合意は、脚本家組合に比べてあまりに膨大かつ複雑なので、要約することも困難だが、ざっくりポイントだけつかんでいこう。
大きな問題となっているのは俳優のデジタルレプリカだ。
特にエキストラを一度デジタルスキャンしたら、そのデータをさまざまに加工して、半永久的に使い回すという施策をスタジオが打ちだしたことに俳優たちが反発したのだ。(ただしAMPTP側はそれは誤解だと主張している)
このデジタルレプリカ問題についての合意は、おおむね以下のようなものになった。
デジタルレプリカを作る場合は、俳優との間に明確な協定書を作る。
そのレプリカを使用する際、脚本や演出が変更されていたら、新たな許諾が必要となる。
同意の内容は俳優の死後も有効で、デジタルレプリカを再利用する際は、新たな同意書や報酬が必要になる。
3つ目は少し分かりにくいが、要するに「 俳優が死んだからと言ってスタジオが勝手にデジタルレプリカを使用することはできない。使用する場合は、しかるべき代理人や組合の許可を得て、所定の報酬や印税を支払う必要がある 」という意味で間違いないと思う。
エキストラについては、レプリカとしてスキャンされた日だけでなく、それを実際に俳優が演じた場合の日数分の報酬が支払われるという取り決めがなされた。
また、スタジオ側と特別な契約を交わすAリスト俳優(つまりトップスター)に関しては、このような規定に当てはまらないとされている。
複雑で抽象的な文言も多く、実際にどう運用されるのか分からない部分もあるが、おおむね俳優組合側の主張は受け入れられたように見える。
そしてここでも興味深いのは、俳優のデジタルレプリカそのものは否定されていないことだ。
もちろん本人の同意が必要だが、そのような合意のもとに出演契約を交わしていれば、たとえば重要な出演者が撮影中に急死した場合、大幅に脚本を変えたり代役を起用して撮影し直したりしなくても、デジタルレプリカを利用して、最低限の手当で作品を完成させられることになる。
これは続編などの場合も同様だろう。
シリーズの新作撮影前に俳優が亡くなっても、そのキャラクターが突然出なくなったり別の俳優に変わったりせず、物語上の必然に則った形でシリーズから退場させるることが可能になる。
そうは言っても、「 スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け 」において、前作の撮影後に急死したキャリー・フィッシャーを「 CGで甦らせるようなことはしない 」と最初から明言していたように、観客側の心情的な問題は残る。
しかし本人が生前にそれを了承していたとなれば受け止め方も違うだろうし、それができる技術と条件がある以上、いずれは当たり前に実行されるようになるだろう。
2023年に行われたハリウッドのストライキは、つい先日までSF世界の存在だと思われていたAIが、良くも悪くも非常に身近な存在、我々の生活にリアルに関わるものとなったことを示す象徴的な出来事だ。
映画製作の現場だけではない。
2020〜30年代は、AIの普及が人類の生活を大きく変えるパラダイムシフトの時代として歴史に残ることだろう。
よく目を見開いて、その行く末を見届けることにしよう。
なお、途中に挿入された4枚の画像は、全て生成AIに作らせたものだ。
プロンプトはそれぞれ
「 ハリウッドで行われた俳優と脚本家のストライキをテーマにした画像 」
「 2024年に公開されるハリウッド映画のイメージ 」
「 食品に混入した毒素を題材にしたSFスリラーのイメージをフォトリアルで 」
「 デジタルレプリカとなって死後も映画出演を続ける俳優のイメージ 」
ブロンプトの大雑把さもあって、少しピント外れな、どちらかと言えば失笑を招く画像になってはいる。
しかし、くれぐれも忘れないでほしい。
生成AIは、このような画像を30秒足らずで次から次へと作ってしまうということを…
文・ライター:ぼのぼの