「 南総里見八犬伝 」とは?
曲亭馬琴とは? 執筆時の時代とは? 戯作文学とは?
江戸時代には「 雨月物語 」という怪奇戯作も代表作品である。
挿絵としての浮世絵は葛飾北斎を代表として民衆の支持を得ていた。
現代のライトノベルとアニメ的ではないだろうか?
安寧鬱々な社会の変革の時代。
民は奇想天外かつアンダーグラウンドなヒロイズムを求めるものである。
八犬伝
あらすじ
江戸時代の人気作家・滝沢馬琴は、友人の絵師・葛飾北斎に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。
里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、
壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。北斎はたちまち夢中になる。
そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。
北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、
馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、義理の娘から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。
失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとはー。(公式サイトより引用)
公開日
2024年10月25日
上映時間
149分
予告編
キャスト
- 曽利文彦(監督)
- 役所広司
- 内野聖陽
- 土屋太鳳
- 渡邊圭祐
- 鈴木仁
- 板垣李光人
- 水上恒司
- 松岡広大
- 佳久創
- 藤岡真威人
- 上杉柊平
- 河合優実
- 小木茂光
- 丸山智己
- 真飛聖
- 忍成修吾
- 塩野瑛久
- 神尾佑
- 栗山千明
- 中村獅童
- 尾上右近
- 磯村勇斗
- 立川談春
- 黒木華
- 寺島しのぶ
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽(BGM)
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察・感想レビュー
八犬伝とは
「 南総里見八犬伝 」でも「 里見八犬伝 」でもない、「 八犬伝 」
本作は、曲亭馬琴(きょくていばきん)の執筆した「 南総里見八犬伝 」ではなく、「 魔界転生 」や「 忍法帖系 」の時代創作の大御所たる山田風太郎の原作にて、
実パートと虚パートを描き、創造が描画になり、思考の世界で実になる創作過程の物語。
実と虚とは
“ 虚 ”とは“ 虚構 ”である。
“ 実 ”とは“ 実在 ”を示し、史実として活躍し“ 実 ”を遺した馬琴と北斎と関わる人々の生き様の凄味と言える。
南総里見八犬伝とは
江戸時代の怪奇と伝承戯作に類し、アンダーグラウンドと艶を匂わせた作品といえる。
多くの八犬伝物において「 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌 」の仁義八徳を示した玉が飛び去るシーンが散見される。
しかし、実書では伏姫が君主の言葉を翻すことの不可を説き、飼犬の八房に連れ去られていく。
伏姫は、八房に肉体の交わりを許さなかったが、八房の気を受けて懐妊。
伏姫はその身を恥じて、潔白を証明するために父の義実の眼前で割腹し、果てる。
そのときに白光する八個の珠が天空に飛び去る。
この流れが割愛されてしまう。
時が経ち「 仁義八徳 」の珠を出生と共に手にしていた者が紆余曲折艱難辛苦を超え、里見家の下に集結。
怨霊玉梓と決戦する壮大な虚構の物語である。
「 南総里見八犬伝 」の派生
里見八犬伝を艶本化した作品で、本文・挿絵ともに原作を忠実になぞっている。
その挿絵は獣姦を描いている2次創作でもある。
現代の成人同人誌に見られる、既存作品のアダルト2次創作が江戸時代でも行われていた。
本作が語られる過程で、昭和世代の方々は、薬師丸ひろ子と真田広之が主演を務めた
深作欣二監督「 里見八犬伝 」(1983)との比較を口にする。
しかし、当該映画の原作は鎌田敏夫が描いた小説「 新里見八犬伝 」で、時代設定も「 南総里見八犬伝 」から100年後を描いた2次創作である。
さらには官能小説といっても過言ではない描写に溢れている。
また、同じく深作監督のSF映画「 宇宙からのメッセージ 」(1978)や、「 おおかみこどもの雨と雪 」(2012)にも八犬伝の影響が見受けられる。
曲亭馬琴について
旗本・松平信成の御用人である滝沢運兵衛興義の五男として武家に生まれる。
幼い頃より文芸に通じ、放蕩傲慢な日々を過ごす。
角川春樹の最後の監督作品である「 みおつくし料理帖 」(2020)で、藤井隆が演じる清右衛門が馬琴である。
ちなみに、清右衛門の妻・お百は薬師丸ひろ子が演じている。
藤井隆と役所広司の馬琴の若い頃と往年時の比較も一興である。
葛飾北斎について
映画でいえば、緒形拳の演じた「 北斎漫画 」(1981)
青年・壮年期を柳楽優弥、老年期を田中泯が演じた「 HOKUSAI 」(2020)
本作の北斎の人生背景と馬琴の語りから「 南総里見八犬伝 」のイメージを瞬時に繰り出す北斎のリビドーを知るキッカケになるだろう。
凄味
本作の実パートにて、馬琴と対をなす戯曲者の鶴屋南北。
南北の新作歌舞伎「 東海道四谷怪談 」は劇中の“ 実 ”として、南北が馬琴に突き付ける課題の凄味。
さらに現実世界の“ 実 ”として、劇中の歌舞伎で現代の歌舞伎役者が演じることの凄味。
劇中歌舞伎で、お岩を演じる三代目尾上菊五郎を演じるのが尾上右近。
民谷伊右衛門を演じる七代目市川團十郎を演じるのが中村獅童。
本物が本物を演じる瞬間が“ 実 ” ≒ リアルであり、より実証を導く凄味に感動を覚える。
ちなみに、忠臣蔵と四谷怪談は浅野家と吉良家の因縁から端を発している。
民谷伊右衛門は仕官を求める腕の立つ浪士。
当時、江戸詰めの赤穂藩堀部安兵衛にスカウトされ士官する。
赤穂藩御用人の娘のお岩と夫婦になるも…時を待たずに、お取り潰しになる。
そんななか、伊右衛門は吉良家御用人の娘に惚れ込まれ、念願の仕官も示唆される。
反面、吉良邸の配置を赤穂浪士から得るように示唆される。
お岩を治療する按摩を唆し不義密通を仕掛ける。
この侍忠義と相反する実情に伊右衛門の精神も壊れていく。
不義密通とは不倫不貞で、当時は即時死罪。
極刑として“ 戸板の裏表に打ち付け獄門 ”とされた。
戸板の裏表とは、扉板の両面それぞれに不義密通を起こした男女を個別に打ち付けることで、
死後の世界でも会えることはないという極刑である。
八犬士とは
現代でいう2.5次元男子を主演としたアクションスペクタルである。
ゆえに、2次創作な艶本や春画は現代の同人界隈のように、当時の推し活者やマニアにとって香しい素材だったのだろう。
まとめ
「 南総里見八犬伝 」
僕にとってはNHKの人形劇「 新八犬伝 」だった。
人形作家の辻村ジュサブローの人形たちに魅力されたものだ。
また、先述した影響作品のほかにも、多くの名作が曲亭馬琴「 南総里見八犬伝 」をモチーフにしたシーンのある作品を展開している。
日本人にとっての奇想天外作品の根源であることは自明の理である。
文・ライター:LEDMAXI