「 シビル・ウォー アメリカ最後の日 」感想レビュー、戦場の狂気をリアルに描いた傑作

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「 エクス・マキナ 」などのSFスリラーで名高いアレックス・ガーランドが放つ新作は、内戦に陥ったアメリカを描くもの。

4人のジャーナリストが体験する戦場の狂気。

これはSFなのか?

それとも現実のアメリカの未来なのか?

目次

シビル・ウォー アメリカ最後の日

©Civil War

あらすじ

「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」

連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー

(公式サイトより引用)

原題

Civil War

公開日

2024年10月4日

上映時間

109分

予告編

キャスト

  • アレックス・ガーランド(監督)
  • キルステン・ダンスト
  • ワグネル・モウラ
  • ケイリー・スピーニー
  • スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン
  • ソノヤ・ミズノ
  • ニック・オファーマン

公式サイト

シビル・ウォー アメリカ最後の日

SFスリラーの名手、アレックス・ガーランド待望の新作

©Civil War

アレックス・ガーランドは元々小説家で、ダニー・ボイル監督/レオナルド・ディカプリオ主演の映画「 ザ・ビーチ 」(2000)の原作者として世に知られることになった。

その後、ダニー・ボイル監督の「 28日後… 」(2002)の脚本家として映画界入り。

カズオ・イシグロ原作の「 わたしを離さないで 」(2010)などを経て、「 エクス・マキナ 」(2015)で監督デビュー。

「 アナイアレイション -全滅領域- 」(2018)、「 MEN 同じ顔の男たち 」(2022)とSFスリラー系の傑作を連発し、監督4作目として放ったのが本作だ。

「 MEN 同じ顔の男たち 」に続くA24製作で、全米1位のヒット作となったことで大きな注目を集めた。

筆者はアレックス・ガーランドの作品は全て大好きで、とりわけ「 アナイアレイション -全滅領域- 」と「 エクス・マキナ 」は、

全SF映画の中でも上位に来る傑作だと思っている。

そのためガーランド作品というだけで必見。あえて詳しい予備知識を入れずに試写会に臨んだ。

結論から言えば、その期待に見事に応えてくれる傑作だった。

2020年代の世界に流れる不穏な空気を映し出した、本年度を代表する映画の1本と言っていい。

ミクロな視点から戦場の狂気をリアルに描く

ただし、事前の予想とは大分違う内容だった。

見る前は、もっとマクロな視点から、アメリカで内戦が起きる過程を描いたポリティカルスリラーのようなものを想像していた。

しかし実際は、劣勢に追い込まれた大統領をインタビューするためワシントンD.C.へ向かう4人のジャーナリストが、戦争の凄惨な実態を目撃するという内容。

ほぼ主人公たちが見たものしか描かない、ミクロ視点の体験型作品だった。

そのため、どのようなプロセスで内戦が起きたのかといった、マクロ的な事情はほとんど分からない。

レイシズムに触れるシーンはあるが、それが戦争の原因であるとは言及されず、そのレイシズムを露わにする兵士がどちら側の兵士なのかさえもよく分からない。

しかしそれは欠点になるどころか、本作の強力な魅力となっている。

ここで描かれた不条理がアメリカ固有のものではなく、世界のあちこちに普遍的に存在するものとして語られているからだ。

まだ公開前なので詳しいことは語らないが、先述の「 お前はどんなアメリカ人だ? 」のシーンは、その兵士が一体何を目的とし、

どんな考えを持っているのか分からないことが、凄まじい恐怖と緊張を生み出している。

戦争の狂気を描いた名シーンとして、後世に語り継がれることだろう。

「 地獄の黙示録 」meets「 マリウポリの20日間 」

4人が車で出発してからの展開に妙な既視感を覚えたのだが、途中で気が付いた。

本作の中盤までは、間違いなく「 地獄の黙示録 」を下敷きにしている。

ウィラードの一行は4人のジャーナリストに、ボートは自動車に、カーツ大佐はアメリカ大統領に置き換えられて進む地獄巡りの旅。

遊園地のような場所でスナイパーと遭遇するシーンは、「 地獄の黙示録 」におけるドラン橋のシーンとプレイメイトのシーンを混ぜ合わせたかのようだ。

しかし「 地獄の黙示録 」が、カーツ王国に到着した終盤で、それまでとかなり違う物語になったように、本作もワシントンD.C.に到着してからかなり違う物語になる。

ネタバレになるので書けないが、その契機となる出来事も非常によく似ている。

終盤、カーツ王国ならぬワシントンD.C.で繰り広げられる激烈な戦闘シーンは、試写会の2日前に見たばかりのドキュメンタリー映画「 マリウポリの20日間 」そのものだった。

戦場で兵士に密着するジャーナリストの姿を描いた劇映画は数多いが、本作ほど凄まじいリアリティに貫かれた作品は記憶にない。

本物の戦場で、ジャーナリストが命がけで撮影したドキュメンタリー「 マリウポリの20日間 」と比べても全く遜色がなく、

地続きの物語として見られるのだから、そのリアルさが想像できるだろう。

「 地獄の黙示録 」meets「 マリウポリの20日間 」…そんな映画が傑作にならないはずがない。

唯一の不満はジャーナリズムの倫理に対する追究不足

強いて欠点を挙げるなら、ジャーナリズムの倫理的問題について宙ぶらりんなまま終わってしまったところだ。

終盤の展開については、意図的なものかもしれないが、ドラマとして深彫りすべき内容を、素材のままザクッと放り出して終わったような印象を受ける。

特にリー(キルステン・ダンスト)の変化については、もう少し説得力のある心理描写がほしかった。

しかし若いジェシー(ケイリー・スピーニー)が、「 ここ数日は、かつて経験したことがないほど恐ろしい体験だった。でも生命の鼓動のようなものを感じた 」と言い、

凄まじい戦闘シーンの最中、実に生き生きとした笑顔をジョエルと交わすショットには、写真家やジャーナリストの、綺麗事では済まない狂気を痛烈に感じた。

アレックス・ガーランド監督の真摯な姿勢に好感

筆者の見たプレミア試写会では、終映後、アレックス・ガーランド監督の舞台挨拶が行われた。

ガーランド監督は、外見はアメリカ人のようなラフな格好だが、中身は英国紳士そのもの。

全ての質問に実に真摯に答え、時には司会者の失言をやんわりとたしなめる姿勢も含め、極めて好感度の高いものだった。

「 本作に込めたメッセージは、トランプを当選させてはいけないということ 」と明言していたが、劇中に登場する大統領は必ずしもトランプのパロディのようにはなっていないし、

露骨なプロパガンダ臭は全く感じられない。

そういう声高なメッセージは奥底にグッと抑え、戦場のリアルな恐怖体験を通じて社会の分断を影絵のように浮かび上がらせたのが本作の成功要因だ。

「 エクス・マキナ 」「 アナイアレイション -全滅領域- 」「 MEN 同じ顔の男たち 」、そしてこの「 シビル・ウォー アメリカ最後の日 」と、

これまでのところハズレなしのアレックス・ガーランド映画。

そのラインアップに5番目の傑作が並ぶ日が待ち遠しい。

「 シビル・ウォー アメリカ最後の日 」感想レビュー、圧巻の音作り!ぜひドルビーシネマで鑑賞を

執筆者

文・ライター:ぼのぼの

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