ナチス・ドイツへの復讐劇を通して、人間の逞しさや優しさ、残酷さをリアルに見せつけてくる、忘れがたい一本。
フィリップ
あらすじ
1941年、ポーランド・ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、恋人サラとゲットーで開催された舞台でダンスを披露する直前にナチスによる銃撃に遭い、サラと共に家族や親戚を目の前で殺されてしまう。2年後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのレストランでウェイターとして働いていた。そこでは自身をフランス人と名乗り、戦場に夫を送り出し孤独にしているナチス上流階級の女性たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていた。嘘で塗り固めた生活の中、プールサイドで知的な美しいドイツ人のリザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会い本当の愛に目覚めていく。連合国軍による空襲が続くなか、勤務するホテルでナチス将校の結婚披露パーティーが開かれる。その日、同僚で親友のピエールが理不尽な理由で銃殺されたフィリップは、自由を求めて大胆な行動に移していく…。
(公式サイトより引用)
原題
Filip
公開日
2024年6月21日
上映時間
124分
予告編
キャスト
- ミハウ・クフィェチンスキ(監督)
- エリック・クルム・Jr.
- ビクトール・ムーテレ
- カロリーネ・ハルティヒ
- ゾーイ・シュトラウプ
- ジョゼフ・アルタムーラ
- トム・ファン・ケセル
- ガブリエル・ラープ
- ロベルト・ビエツキービッチ
- サンドラ・ドルジマルスカ
- ハンナ・スレジンスカ
- マテウシュ・ジェジニチャク
- フィリップ・ギンシュ
- ニコラス・プシュゴダ
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
優れている点
巧みな感情描写に引き込まれます。
「 60年間発禁処分を受けていた 」という触れ込みは、過激で常軌を逸しているかのようなイメージですが、
実際には人間の感情の機微を丁寧に描いたヒューマンドラマだと感じました。
考察
復讐心に燃えるフィリップが、リズとの確かな愛を得たのにもかかわらずたった一人でパリへ旅立ったのは、
リズまで犠牲にしたくなかったからだと感じました。
家族、恋人、親友…自分が愛した人間は皆ナチスに殺されてしまう。
だったら、彼女だけは違う運命を歩んでほしいという気持ちではないでしょうか。
つらい選択ですが、フィリップ自身、もう愛する対象を失うことに疲れ切ってしまったのかもしれません。
あの、二人でパリへと逃げようとした夜、空襲さえなければ…と悔やまれて仕方ないです。
戦争というものは、こうして人の運命を残酷にねじ曲げ、 人間を引き裂く、本当に恐ろしく、忌まわしいものだと感じます。
泣く泣く別れざるを得なかった恋人たちがきっとたくさんいたのだろうと思いを馳せ、胸が苦しくなります。
しかし、思い起こせば、リズはフィリップに 「 あなたにいつか安らぎと幸せが訪れるように 」と、 どこか自分とは違う人生を生きるかのような言葉を口にしていました。
ナチスの風が吹き荒れる当時にあっては、確かにリズがフィリップと逃げるのは賢明な選択ではなかったでしょう。
あまりにもつらい結末に、そう自分に言い聞かせる気持ちになります。
また、ナチスの恐ろしさはもちろん、外国人との接触を咎めるドイツ人女性のセリフから、ナチス政策へ進んで加担する” 模範的 “な一般市民の姿も描いており、
排斥や差別が望ましいとされる世の中という、異常な状況下に背筋が凍る思いがしました。
まとめ
ラストに関しては賛否両論あるでしょう。
しかし 、「 腐った世界に迎合しないこと。それは戦争が終わっても大切なこと 」 と語るフィリップが取る行動は、一見の価値ありだと思います。
言葉はないままに、戦争の異常さやその中で生き延びることについてを雄弁に語るラストは必見です。