【 舞台挨拶レポあり 】「 父と僕の終わらない歌 」考察レビュー、息子が知りたかった父の本当の気持ちとは

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本作は、2016年にイギリスでSNSに投稿され、世界中を感動させたアルツハイマーの父とその息子が歌う実話をもとに、日本を舞台に映画化されたものです。

本記事では、2025年4月23日に東京・有楽町朝日ホールにて行われた完成披露舞台挨拶と試写会のレポートと、考察レビューをお届けします。

目次

完成披露舞台挨拶&試写会レポート

©栗秋美穂

登壇したのは、父・間宮哲太役の寺尾聰さん、息子・雄太役の松坂桃李さん、母・律子役の松坂慶子さん、幼馴染役の佐藤栞里さん、その夫役の副島淳さん、齋藤飛鳥さん、三宅裕司さん、石倉三郎さんといった豪華キャスト(小泉紀宏監督は、体調不良のため欠席)。

寺尾さんは「 本当に心を込めて作った映画 」と語り、松坂桃李さんとの共演が主演を引き受ける決め手の一つだったと明かしました。

松坂桃李さんのことを「 芝居をしていて楽しい俳優 」と高く評価し、松坂慶子さんについても同様に語りました。

松坂桃李さんは脚本を読んで、「 老いや病気という誰にでも起こりうるテーマを、前向きに希望に繋げていく親子の姿 」に心を打たれたと話し、寺尾さんとの共演は「 夢のような時間だった 」と喜びを表現しました。

実は松坂桃李さんは以前、大河ドラマ「 軍師官兵衛 」で寺尾さんと共演することがあったものの、ご自身の肺炎から一日だけの撮影だったことを明かし、

その頃から「 いつかちゃんとご一緒したい、がっつりと共演したい 」と、今回のW主演が念願であったことを明かしました。

松坂慶子さんは、横須賀を舞台にした温かい家族の物語を紹介し、寺尾さん・松坂さんとの共演が楽しかったと語りました。

舞台上でも3人は本当の家族のような距離感で会話していました。

佐藤栞里さんは「 現場が毎日楽しかった 」と笑顔で語りました。

三宅裕司さんは、佐藤さんが自分のサンダルを履いてトイレに行ったエピソードを披露し、現場の雰囲気がよりよくなったと振り返りました。

副島淳さんは、自身の高身長をネタに会場を沸かし、映画を「 心温まる優しい作品 」と表現。

2時間かけて舞台となる横須賀へ行き、5分撮影、また2時間かけて戻るというエピソードを語り「 それでも楽しかった 」と作品への愛着を語りました。

斎藤飛鳥さんは脚本に感動し、「 誰にでも起こりうる話 」と真剣に語りました。

丁寧に会場に向かって話す姿が印象的でした。

三宅さんは「 ここまで音楽が物語にうまく関わる作品はない 」と評価し、石倉三郎さんは会場の反応を見ては「 イエーイ 」と拳を振り上げ、会場を盛り上げました。

また本作が実話であることに関連付け、この物語は「 文学 」であると表現しました。

映画の核となる「 歌 」について、寺尾さんは自身の音楽経験が役立ったとし、松坂さんとのデュエットを楽しんだと述べました。

石倉さんは寺尾さんの歌声を「 ライブと同じ 」と評し、三宅さんも生歌に感動したと語りました。

松坂さんは、車中でのデュエットシーンを「 贅沢な時間 」と振り返りました。

松坂さんは撮影前に歌を完璧に覚えていき、そのことを寺尾さんに褒められると「 当然です 」と恐縮。

プロ意識が感じられました。

最後に松坂桃李さんは「 作品は観客の感想で完成する。ぜひ感じたことを他の人に伝えてほしい 」と呼びかけ、寺尾さんは「 色んな気持ちを全部ひっくり返して見てほしい 」とメッセージを送りました。

登壇者たちは最後まで会場に手を振り、深いお辞儀をして舞台挨拶は終了しました。

本作は「 音楽が繋ぐ家族の愛の物語 」として、家族の絆と希望を描き、多くの観客に温かい余韻を残しました。

来場者に配られた「 父僕ティッシュ 」を、涙を拭くのにご利用くださいというのも納得だったのではないでしょうか。

©栗秋美穂

マスコミ向け試写会でもすすり泣きが聞こえ、ベテランと思われる年配の男性が眼鏡を外して涙を拭いていました。

そんな誰もが涙する「 父と僕の終わらない歌 」作品考察、このあと引き続きお楽しみください。

作品情報

©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

【 あらすじ 】
2016年、イギリス。YouTubeに投稿された1本の動画が、世界中を感動させたー。

ドライブの車中で楽しそうに歌う父と息子。助手席に座り、抜群の歌唱力で伸びやかに歌い上げる父テッド・マクダーモットは、アルツハイマー型認知症を患っている。この動画は同じ境遇にある世界中の家族に感動と希望を与え、再生回数は6000万回以上を記録。さらにこれがきっかけとなり、父テッドは80歳にしてCDデビューを果たし、イギリス最高齢の新人歌手となった。

この奇跡の実話をもとに、日本を舞台に、横須賀に生きる父と息子に置き換え、それぞれの愛と葛藤、家族や友人たちに支えられながら、アルツハイマーの父が若き日に諦めたレコードデビューの夢を、再び叶えようとするまでの感動の物語を描く。

考察レビュー

©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

親が幼子の両頬をそっと包んで優しく見つめる。現実でも映画でもよく見るシーンだ。

物語の最後、主演の寺尾聡演じる間宮哲太が、青年になった息子、松坂桃李演じる雄太の両頬を包んで見つめる。

まるで小さかった頃の雄太を目の前にしたときのように。

そう、このとき、哲太の目に映っていたのは青年になった雄太ではなかった。

幼い頃の雄太、あるいは過去と現在が交錯していたのかもしれない。なぜなら哲太はアルツハイマーを患っていたからだ。

哲太の前で困惑と喜びをない交ぜにした雄太の泣き顔で物語は終わった。

この親子に何があったのか、探っていこう。

俺の家、どこだっけ?

©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

舞台は横須賀。クラシックカーを運転しながら陽気に歌う父・哲太に対して、助手席に座る息子・雄太は仏頂面だ。

何せ駅で1時間も待たされたのだ。それなのにちっとも悪びれない哲太に対し雄太は呆れながらも、目的地に到着。

そこは雄太の幼馴染の結婚式会場。この日、哲太は彼女のために歌を披露するのだった。

ギター片手に歌う哲太の姿は聴く人を離さない。プロではないがプロ顔負け。

若い頃はレコードデビューを目指し、今は楽器店経営という肩書も頷ける。

実際、主人公の哲太を演じる寺尾聡が足を組んでギターを弾く姿は素晴らしい。

筆者が小学生の頃に大ヒットした「 ルビーの指輪 」を歌う寺尾の姿が蘇った。あの頃、子どもたちも口ずさんだほどの名曲だ。

哲太が無事にステージを終え、会食のとき、松坂慶子演じる母・律子が登場。なんとブーケを受け取っている。

「 お父さんたらね、毎年結婚記念日を忘れるのよ。だからこのブーケはワンチャン(もう一度結婚する機会)の印 」とどこまでも陽気だ。

この母と父の陽気さが、息子を支えてきたのだろう。

しかし雄太は、人には言えない秘密を持っていた。

そして帰り道、父の「 俺の家、どこだっけ? 」の言葉で、家族は、哲太さえ気付いていなかった現実を知ることになる。

根本的治療法のないアルツハイマー病

©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

「 初期のアルツハイマー病です 」と診断を告げられた哲太。

しかし、陽気な律子の肩を組んで「 大丈夫、この年になるとな、最後を意識するものなんだよ。母さんと2人で頑張るよ 」と言って雄太を安心させようとするが、雄太はパートナーの助言もあり、しばらく横須賀の実家に滞在することになる。

そこから、さまざまなことが起こる。

商店街のフェスティバルに遅刻した謝罪のために、車内で陽気に歌う哲太を撮影した姿をSNSに上げた。

そこで哲太の病名を告白する。

するとその動画が話題となる。あっという間に注目を浴びる哲太。

しかし、明るい話題ばかりではない。

あれほどSNSで哲太親子を応援してくれていた顔も知らない人たちが手のひらを返したように、雄太を追い詰めるシーンに、現代の闇を感じた。

しかしそのおかげで雄太をはじめ、周囲は一層、哲太のために尽力する。

根本的な治療はない。だが、夢を抱いていたことは覚えている、それを実現させたい。

優しい息子だ。ここまでできるだろうかと、正直思った。

雄太が独身だから、自分の時間を父のために使いやすいという理由もあるだろう。

しかしここまで献身的になれるのは、それまでの哲太と雄太の関係が良好だったことの証でもある。

哲太は息子が持っている「 特徴 」を知ったとき、それを受け入れた。

これは簡単なことではないと、親として思う。

しかし、だからこそ「 ありのままの自分を受け入れてくれた親 」に感謝していたし、信頼を寄せていたのだろう。

戻ってこいよ…

©2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

アルツハイマーという病は、時に人格さえ破壊するということを実感する雄太と律子。

哲太が家の中のものを荒らすようになり、家族のことさえ分からない様子で狂暴化していく。止められない母と息子。

「 戻ってこいよ 」と父を見つめて呟く雄太は、まだ父の中に「 哲太 」が生きていると信じている。

だからこそ「 戻ってこいよ 」なのだ。

だが、崩壊してしまった人格は時に本音を言わせてしまう。

哲太が雄太の秘密を侮辱する。

「 父さん、俺のこと、そんな風に思っていたのかよ 」一人号泣する雄太。

物語はいつしか、雄太の中の父親探しへと変わっていく。

そして冒頭に書いたラストシーン。

献身的な家族と、歌に情熱を傾けながら懸命に生きる父親としての姿。

息子の両頬を、皺だらけになった両手で包むラストシーンで、雄太が確信したものはなんだったのか、ぜひ劇場で見てほしい。

執筆者

文・ライター:栗秋美穂

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