「 ピース・バイ・チョコレート 」日本でも深刻な「後継者問題」とつながっていた

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本作品は2024年、第19回難民映画祭で上映された。

当時の紹介文には「 家族の心温まるドキュメンタリー 」「 シリア難民のサクセスストーリー 」と書いてある。両方正しい。

しかし筆者はそこに違う側面を見つけたので、そこから考察する。

主人公一家はシリア難民だ。家族の中で最初にシリアからカナダにやってきた長男のテレクは、難民キャンプの医療隊員をしていた。

彼は紛争の途中で医学部を卒業できないままカナダにやってきたのである。

毎日、シリアにいる家族とビデオ通話するが、「 いつになったらパパやママはカナダに行けるの?」とそればかり聞かれる。

テレクは少しイライラしていた。なぜなら、テレクはなんとしても医学部を卒業するために医学部のある大学に編入したかったのだ。

家族のことは二の次であるテレクを、私は責められない。

若い時は家族より自分の夢が大切であるし、それが健全な成長とも言えるからだ。

目次

ピース・バイ・チョコレート

原題

Peace by Chocolate

あらすじ

シリア内戦により難民となったテレクは家族と共にカナダへ移住する。一家の受け入れ先であるアンティゴニッシュは、故郷のダマスカスに比べてはるかに小さな街だったが、内戦で宙ぶらりんになった医学部卒業を目指すテレクは方法を模索する。一方、ダマスカスで一流のチョコレート職人だった父親のイッサムは、移住先の人々の支援を得てチョコレート販売を再開し、成功の道が開けるが_。家族と平和、そして人々に幸せを運ぶチョコレートを描いた、実在するチョコレート店の心温まるサクセスストーリー。

公開日

2021年6月18日

上映時間

96分

予告編

キャスト

  • ジョナサン・カイザー(監督)
  • アイハム・アブ・アンマー
  • ハテム・アリ
  • マーク・カマチョ他

シリアでは50人もの従業員を抱える工場のショコラティエ登場

ついにカナダにやってきたパパとママ。パパは腕利きのショコラティエ(チョコレート職人)早速、キッチンでチョコレートを作り始める。

医学部への編入先が一向に見つからないテレクがイライラしたように言う。「 パパ!何やってるんだよ、そんなもの、カナダ人が食べるわけないだろう 」

言うが早いか場面は変わり(この演出がコメディタッチで面白かった)そこはパパのチョコレートを食べたい人々が大行列をなしている。会場の教会は満員だ。

その光景はいつの間にか新聞の一面を飾り「 難民ショコラティエ旋風 」を巻き起こした。

物語はここから、元々この町にいたショコラティエとの攻防戦や、最後には兄弟のようになっていくパパとサポーターとの友情、その他、パパの事業を狙って画策してくる人間が描かれる。

しかし冒頭に書いたように、これは心温まるサクセスストーリーだけでもない別の要素があった。

おまえなしでは、字も読めない

やっと!やっとテレクの元に編入許可通知がやってくる。早速アクセスを調べて唖然とするテレク。車で約20時間かかるではないか。しかしテレクは行こうとする。

パパに行先を尋ねられ、「 僕は医者になりたくて戦争を生き延びてやってきたんだ 」と激しい口調で答えるテレク。

英語の分からないパパはチョコレートを作りながら、チラチラと息子を見てこう言う。「 おまえなしでは、字も読めない 」

家業と夢の板挟みになるテレク。でもどうしても医者になりたい。

悩み苦しんでいる間もなく、車を飛ばし、大学へ向かうが、さまざまな事情でアメリカへの国境を越えられずに戻って来た。

するとそこには、倒れて入院していたパパ。テレクは泣いて、反省し、悔いた。

「 テレク、お前がチョコレートから手を引くと言っても大丈夫。お前を誇りに思う」そんなパパに対し、テレクが取った行動は……

さぁ、またここで場面は早変わり。テレクはなにをしていたか。これもまた笑える演出になっている。

いつの時代、どこの世界でもある後継者問題のドキュメンタリーだった

ここまで読んでくださった読者ならお分かりだろう。この作品の隠れた大きなテーマは「 後継者問題 」なのである。

いつの時代も、二代目は反発し、我が道を行こうとする。あるいは事業を継ぐために、異分野で修行をして家業に戻ってくる。

そして父親の古いやり方と今の自分のやり方で溝が生まれる。父と息子、男同士のプライドもあり、それは社内闘争になることもある。

しかし、本ドキュメンタリーは、父と息子のヒューマンドキュメンタリーの側面が大きかったように私は感じた。父も息子も互いを尊重しながら、ジレンマを感じていた。そこには優しさがあった。

家業を継がずに自分の意志を通す。それは悪いことではない。自分の人生なのだから、無理やり継がされても親に恨みが残るだけだ。

しかし、もしも読者の中で「 後継者としての自分 」の進む道を悩んでいる人がいたら、この作品は一見の価値ありだ。コメディの要素も多く、決して悲観的に考えずに済む。

最後に、テレビで講演したテレクの言葉を記す。「 本当の不幸とは?難民とは全てを失う事、家も家族も学校も。積み重ねてきたもの全てを失うことなんです 」

パパが積み重ねてきたもの……それはショコラティエとしてのキャリアだけではない事に、最後、テレクが気付いたどうか、見届けてほしい。

あなたも自主上映をしてみませんか

  • 「 ピースバイチョコレート 」の上映会は、2025年3月1日にこちらの「スローシネマ」というイベントで行われました。次回は2025年3月15日開催です。
執筆者

文・ライター:栗秋美穂

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