「 天国にちがいない 」考察レビュー、世界各地を異邦人として無言で旅する主人公の珍道中
映画ライフ楽しんでますか?
今回は、ペンネーム(@ayahhi)さんからの投稿レビューです。
セリフの長さ余計にメッセージ性を強める。
美しい映像とブラックユーモアが心地よい。
世界の危機と希望が交錯したユニークな作品です。
画像の引用元:IMDb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
天国にちがいない
公開日
2021年1月29日
原題
It Must Be Heaven
上映時間
102分
キャスト
- エリア・スレイマン(監督・出演)
- ガエル・ガルシア・ベルナル
予告編
公式サイト
作品評価
[rate title=”5つ星”]
[value 5]映像[/value]
[value 5]脚本[/value]
[value 5]キャスト[/value]
[value 5]音楽(BGM)[/value]
[value 4]リピート度[/value]
[value 3]グロ度[/value]
[value 5 end]総合評価[/value]
[/rate]
感想レビュー
好きだった点
主人公が話すセリフは「 パレスチナ人だ。ナザレから来た 」だけ。
世界各地を異邦人として無言で旅する主人公(エリア・スレイマン自身)の珍道中の描き方がユニークです。
映像の美しさには目を見張るものがあり、ワンシーンごとにそのまま絵はがきになるような色彩、構図のバランスです。
衣装やインテリアにもかなりこだわっており、部屋の植物に水をやる時のジョウロの赤や、ジャケットの下に着るシャツの色や柄、眠る時のパジャマの柄など。
細かい部分もとても印象的で洗練され計算されています。
パリで行きかう美男美女に見惚れるシーンで流れる音楽に注目。
ニーナ・シモンの「 I Put A Spell On You 」が最高にカッコよかったです。
ただ単に映像や音楽が良いオシャレ作品ではなく、込められているメッセージの深刻さが色々な表現の仕方で、やや抽象的なやり方を通して、じっくりと着実に観客に迫ってきます。
無言なので、声高に世界の直面する危機に警鐘を鳴らすわけではないのですが、巨大な戦車がパリの街を走るシーンや、NYの住民が全員マシンガンを肩から下げているシーンなど。
空想のようでいて、実際にはすぐそこにありうる世界を描いていて、ゾッとさせるのです。
そのゾッとさせ方も恐怖を煽るのではなく、苦笑させるようなブラックユーモアなので独特の奇妙な空気感があり、引き込まれます。
嫌いだった点
嫌いというわけではないですが、エンターテイメントとして見に来ると「 どういう意味??」と解釈に困るシーンも多いので、正直ちょっと疲れると思います。
見どころ
映画監督である主人公の気ままな旅日記としても見られるのですが、やはり間違いなくパレスチナという複雑な歴史を持つ土地にねざす主人公の政治的・社会的なメッセージを強く帯びている点です。
考察レビュー
砂漠を車で走っているときに、追い越される車に目隠しをされた女性が乗っていたり、パリの部屋に突如小鳥が舞い込みその小鳥が仕事を邪魔するので追い払ったり。
抽象的なシーンがたびたび登場します。
作品全体を通して、エリア・スレイマン監督は、解釈は観客にゆだねると話しているので想像するしかありませんが。
説明のないシーンの意味を自分で拾っていくというような観客に参加する意識を監督は求めていたのかなと感じました。
パリに旅立つ前、ナザレの自宅で主人公が車イスや遺物と思われるゴミ袋を業者の車に乗せて処分するシーンがあります。
しかし、ここに「 誰のものだったのか 」という説明は一切ありません。
何かしらの看護を必要とする状態の誰かがいて、その人が主人公の自宅からいなくなったということしか描かれません。
妻だったのか?
だとしたら、失意の只中で旅に出たのか?
親だったのか?
だとしたら、1つの役目に区切りをつけた気持ちで旅に出たのか?
ただ、誰かが去った(おそらくは死)の後なのに、主人公はそれほど悲しそうな雰囲気ではなく淡々とし、旅を楽しむ様子も見えます。
そうなると、誰がいなくなったのか?
もしかしたら、パレスチナという対立や暴力が日常的に起こった場所では、誰かがいなくなることが既にありふれた出来事であり、悲しいという感情すら麻痺しているということなのか。
解釈はすべて観客にゆだねるというのであれば、私には悲しみに慣れてしまう人間の悲しさと逞しさを描いているように感じました。
普段とは一味ちがった「 映画のメッセージを自分で探す 」という体験を是非してみてください。
まとめ
説明がなく、分かりにくい作品ではあるけれど、主人公の表情や取り巻く人々に人間味があり、どことなく愛着がわく映画でした。