壁を乗り越え幸せを誓う男性2人に笑顔し、偏見や差別の本音を問われる。
夢もリアルも描いた意欲作。
天空の結婚式
あらすじ
ベルリン在住の同性カップルが結婚を決意する。そこで2人は、未だカミングアウトもしていない両親に結婚を認めてもらうため、イタリアの故郷へと向かう。
公開日
2021年1月22日
原題
Puoi baciare lo sposo
上映時間
90分
キャスト
- アレッサンドロ・ジェノヴェージ(監督)
- クリスティアーノ・カッカモ
- サルヴァトーレ・エスポジト
- モニカ・グエルトーレ
予告編
考察・感想レビュー
好きだった点
他の反対を押し切っても難民を受け入れる、という人権意識の高い村長(主人公)。
彼の父ロベルトが、いざ自分の息子が男性と結婚するとなったら、それは受け入れられないというのは、リアルな描写だと思います。
当事者しか分からない現実の壁。
しかし、壁を壁として拒否してしまうのではなく、皆が幸せになれる道を探そうという姿勢が表れている本作は希望があり、本当にこのような世界にしていきたい、
と温かい気持ちになります。
嫌いだった点
ミュージカルの共演で知り合ったアントニオと結婚相手パオロ。
「 ミュージカルは嫌いだ 」というロベルトの言葉は、唐突に歌いだしたり机に上がったりするのが不自然で馴染まないという理由からですが、
ラストシーンでまさに唐突にミュージカルが始まるので、その不自然さが前面にでていたのでは?と感じました。
見どころ
男性と結婚する報告に訪れた息子に対し、反対する夫との離婚までも視野に入れて、息子の幸せを応援しようとする母アンナの毅然とした態度には心を打たれます。
もう少し前であれば、家族全員がうろたえて反対するというのが普通でした。
今は確実に理解者は増えており、様々な愛の形を応援する気運が高まっている事実を表していると思います。
アントニオがゲイであることは、結婚報告の時に母親だけでなく、父親もうすうす気付いていたというのが興味深い。
母・アンナが、ロベルトに「 アントニオが小さい頃に好きだった本は何か 」と尋ねます。
「 親指サム(男の子が答えそうなもの)」と迷わず答えるロベルトに、「 シンデレラよ、あの子は王子に恋をしていたのよ 」と言い放つアンナ。
その時の表情と仕草から、ロベルトもアントニオがゲイの要素があることに気付いていながらも、その事実を受け止められずに、都合の良い解釈で息子をトドメていたのだと感じ取れます。
しかし、それに関してロベルトを責めることはできません。
息子であれば、例えばスカートを着たい、男の子が好きそうだなど。
子どもの言動や好みから、親であれば「 もしかして 」と思うのではないでしょうか。
しかし、それによって息子が差別やイジメを受けたり、息子を取り巻く家族全体が好奇の目にさらされたり、といった不幸が予想できてしまうため、必死にその「 もしかして 」を打ち消しているのだと思います。
こうしたことは多くの家庭のでも起きているのだろうと重く切ない気持ちになりました。
ラストシーン。
パオロと同棲中にもかかわらず、元カノと関係を持っていた事実を明かされる。
しかし、結婚する今、アントニオが愛するのは間違いなくパオロただ1人なのです。
なぜそんなことをしたのだろう?
というのは疑問です。
- ゲイとして自分がうまくいかなくなった時の「 保険 」なのか?
- ゲイであっても元カノには何か惹かれる魅力があったのか?
その真相は明かされません。
どれでもないかもしれないし、全てかもしれません。
それほど人の心は、複雑に意識や無意識を行ったり来たりしながら、迷い悩み自分を守ろうとしたり。
その結果、相手を傷つたりするのだと思います。
人は何と切ない興味深い生き物かと思いました。
まとめ
陽気なハッピーエンドに見えて、その背景に同性愛をとりまく社会的な難しさを感じる作品。
けれど、明るく考えて希望をもって生きていこうと思えます。
「 色々あるけど、がんばろう 」と思いたい時にオススメの1本。