【 ネタバレなし 】「 アウシュヴィッツのチャンピオン 」考察レビュー、その目で結末を見届けるべし
物語の舞台は第二次世界大戦下の激動の時代。
アウシュビッツに収容された実在したボクサーの物語。
勝つためではなく、生きるためにリングに立つ極限の戦いと生き様が描かれます。
主人公(テディ)が立つリングは、司令官や兵士たちの娯楽の場。
必死に生きようと拳を構えるテディと下品に騒ぐだけの兵士たちの間にある捻じれが切実に痛く、悪魔じみた狂気の時代の空気感を象徴していたように思います。
画像の引用元:IMdb公式サイトより
(アイキャッチ画像含む)
アウシュヴィッツのチャンピオン
公開日
2022年7月22日
原題
Mistrz
上映時間
91分
キャスト
- マチェイ・バルチェフスキ(監督)
- ピョートル・グロバツキ
- グジェゴシュ・マウェツキ
- マルチン・ボサック
予告編
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
アウシュヴィッツと言えばユダヤ人の虐殺が真っ先に思い浮かびますが、テディたちはポーランド人の囚人で、彼らに課せられた奴隷さながらの重労働と劣悪な暮らしが描かれます。
彼らの命は空気のように軽く、病気になろうが怪我になろうがお構いなし。
死ねばモノ同然に運ばれ、積み上げられ、燃やされていく…。
そんな状況下で囚人たちの希望となったのがテディ。
兵士たちに与えられた数少ない娯楽のボクシング。
ボクサーとしての才覚を買われたテディは、試合に勝利することと引き換えにパンや薬などを手に入れ、囚人たちの英雄になっていきます。
しかし、囚人たちにとってボクシングは生きるための希望でも、ナチス側にとっては娯楽の道具。
テディの戦いは管理の行き届いた興行でなければなりません。
薄氷の希望は容易く踏み躙られ、それでもテディはリングへ向かいます。
勝つためではなく、生きるため――。
それはまさに奪われた尊厳を拳として突き付ける、そういう決意の表れであったように思います。
決して折れない彼の姿は、戦争や実話といったセンセーショナルな作品背景を差し引いても、観る者の魂を震わせる熱がありました。
まとめ
物語の本筋とは逸れますが、とても印象的なシーンもありました。
それは収容所の連絡指導役の男が、息子を腸チフスで喪った際に、呆然と涙を流すシーン。
ユダヤ人をガス室へ送り込み、囚人たちを虫けら同然に扱う彼らですが、そんな彼らにも当然家族がいて、愛情があって、喪失には涙を流して苦しむのです。
さりげない描写ですが、凄惨な歴史が、私たちの生活や感情と地続きにあることを示す印象的な描写でした。
第二次世界大戦も80年前。
語られる歴史も時と共にとリアリティを失い、過去の物語になりつつあります。
もちろん映画には演出や脚色があり、そのままの歴史というわけではありませんが、今この作品が私たちに伝える意味を、今一度考えてみることが求められているのかもしれません。