日本の「 シン・ゴジラ 」や「 ゴジラ -1.0 」がシリアスな作風に回帰する中、アメリカ版は昭和ゴジラシリーズの怪獣プロレスに舵を切るという意外な展開。
しかしそこはハリウッド。
超ド派手な見せ場の連続で、完全に突き抜けた娯楽大作を突きつけてきた。
ゴジラxコング 新たなる帝国
あらすじ
怪獣と人類が共生する世界で、未確認生物特務機関:モナークが察知した異常なシグナル。交錯する<地上世界/ゴジラテリトリー>と<地下空洞/コングテリトリー>。ついに一線を越える<王ゴジラ>と<王コング>の激突のその先には、我々人類が知る由もなかった未知なる脅威が待ち構えていた。「vs」ではなく「x」、そして[新たなる帝国]が意味するものとは? 世界は今、目撃する──
公式サイトより
原題
Godzilla x Kong: The New Empire
公開日
2024年4月26日
上映時間
117分
予告編
キャスト
- アダム・ウィンガード(監督)
- テリー・ロッシオ(脚本)
- ジェレミー・スレイター(脚本)
- レベッカ・ホール
- ブライアン・タイリー・ヘンリー
- ダン・スティーブンス
- ケイリー・ホトル
- アレックス・ファーンズ
- レイチェル・ハウス
- ファラ・チェン
公式サイト
予告編を見たときの大きな失望
本作の予告編が初めてリリースされ、コングとゴジラが一緒に全力疾走する姿を見たときには唖然としてしまった。
最初はかなり重々しい雰囲気の「 GODZILLA ゴジラ 」から始まったモンスター・ヴァースで、いくら何でもそこまでシリアスさから離れるものか?と脱力。
前作「 ゴジラvsコング 」も評価できる作品ではなく、同じアダム・ウィンガード監督なのでこれはとても期待できるようなものではないと思った。
ところが公開されると世界的に今年最大のヒット作に。
批評家受けはそれほどでもないが、ファンからの評価は高い。
「 昭和ゴジラシリーズ後期の怪獣プロレス的なものを目指した 」というウィンガード監督の発言を聞くに到り、「 なるほど、そういう風に割り切って見れば、これはこれでありだろう 」と納得。
あくまでもそのような見方で接すればいいということで劇場に向かったのだが…
帰ってきた東宝チャンピオンまつり
完全に予想を裏切られた。
「 怪獣プロレスのアップデート版として見れば… 」などというカッコ付きの条件などまったく無用。
とんでもない怒濤の面白さだ。
これをつまらないと言ったら、「 それは単に怪獣映画が嫌いなだけでしょう 」としか言いようがないほど「 ザ・怪獣映画 」の楽しさがこれでもかと詰め込まれている。
まさしく帰ってきた「 東宝チャンピオンまつり 」
心がどんどん童心に帰っていく。
ご都合主義もへったくれもない問答無用痛快無比の面白さ。
陽性の方向に振り切ったゴジラでこれ以上のものが作れるか心配になるほどだ。
前段で書いた予告編だが、実はネタバレ防止のさまざまなフェイクが隠されていたことにも驚いた。
それを目にして、騙されたと怒るのではなく「 やられた!」と、つい満面の笑みを浮かべてしまう幸福感。
ストーリーはヤンキーものの王道!
そして噂に聞いていた通り、ストーリーは見事なまでに「 ヤンキーもの 」の王道だった。
前作で最強のゴジラ先輩に一度はボコられたものの、その後の強敵との戦いに助太刀したことで「お前もなかなかやるじゃねえか。今日のところは借りにしといてやるぜ 」と認められたコング。
しかし両雄並び立たずで、まだまだ格下のコングは地上を先輩に譲り、地下の空洞世界で自らの居場所を探していた。
そこで突然地元の不良に囲まれて返り討ちにしたところ、隙あらばコングの寝首を掻こうとする、油断ならない舎弟スーコができる。
舎弟は闇の大番長スカーキングに支配された学園の生徒。
学園に案内されたコングは、番長の非道なやり方に怒りを覚え、いきなりのタイマン勝負。
武器術に長けた番長との勝負は互角ながら、苦痛を利用して操られた最強の子分シーモの登場で、コングは大怪我を負うことに。
このままでは勝てないと分かったコングは、助力を仰ぐためゴジラ先輩のもとへ向かう。
しかし馴れ合いを嫌うゴジラ先輩は、先日の借りなどすっかり忘れ、コングにいきなり本気の殺し合いを挑んでくる…
いかん。こんな形であらすじを書いているだけで、脳から変な汁が出そうだ。
まさしく怪獣版「 クローズZERO」(2007)…と言うよりも、私が「 クローズZERO 」のシリーズを大好きなのは、実はまったく意識せぬまま「 人間が演じる怪獣映画 」として楽しんでいたのではないか?
そんな驚きの発見すらあった次第だ。
怪獣たちによる怪獣たちの物語
人間ドラマのパートにもちろん深みなどないし、ご都合主義満載だが、本筋である怪獣たちの物語を人間ドラマが邪魔せず、
「 怪獣だけではさすがにつながりにくいストーリーを円滑に運ぶ潤滑油 」という役割を果たした点では、これまでのベストかもしれない。
1つだけ約束事として事前に承知しておいた方がいいのは、この映画のコングおよびその種は、言葉こそ喋らないものの、当たり前に道具を使用し、
もはや類人猿などではなく、ネアンデルタール人レベルの知能と社会性を有している。
そのため怪獣ものではなく「 猿の惑星 」シリーズを見ているような錯覚に陥るところもある。
その設定を素直に受け入れないと乗れない可能性があるので、ご注意を。
しかし注目すべきは、言葉を話さない怪獣たちの物語が恐ろしく雄弁で、台詞などなくても彼らが何を考えているか容易に分かること。
これは何気に凄いことだ。
もちろん怪獣の著しい擬人化が為せる業だが、これも昭和ゴジラの理想的な進化型 / 完成型として楽しめる。
「 怪獣という脅威に直面した人間たちの物語 」ではなく、今回ほど怪獣そのものが物語の中心を担う「 真の意味での怪獣映画 」は初めてと言っていいだろう。
監督のアダム・ウィンガードが実力を発揮
監督のアダム・ウィンガードは、「 ゴジラvsコング 」が大ヒットした上での続投ということで、のびのびと実力を発揮できたのではなかろうか。
前作とは比べものにならないほど演出が上手くなっている。
怪獣プロレスでの力業は言うまでもないが、序盤のある場面での「 え?そこで中華鍋の火?(笑)」というくすぐりのような小技など、まさに余裕と自信の為せる業だ。
途中のある場面でKISSのある曲が流れるところなど「 このシーンで、この歌詞を使うのか!(笑)」と、もはや喜色満面。
本作に完全に心を奪われた瞬間だった。
一般敵な知名度はあまり高くないウィンガードだが、2011年に「 サプライズ 」という、文字通りサプライズに満ちた快作(怪作?)を放っている。
配信等で手軽に見られるので、一切の予備知識なしにご覧になることをオススメする。
モンスター・ヴァースのさらなる進化に期待
レジェンダリー・エンタインメントのモンスター・ヴァースは、ギャレス・エドワーズが監督した「 GODZILLA ゴジラ」(2014)は傑作だったが、その後の「 キングコング:髑髏島の巨神 」(2017)「 ゴジラ キング・オブ・モンスターズ 」(2019)「 ゴジラvsコング 」(2021)はどれもパッとしない出来。
それだけに、ここまで突き抜けた娯楽作をぶちかましてくるとは、本当に嬉しい誤算だった。
もちろん日本の「 シン・ゴジラ」(2016)のようなシリアスでSF的な作風も大好きだが、このド派手な怪獣プロレス路線も、これはこれで大いにOK。
本作の世界的大ヒットで、続編製作は確実。
次回作が楽しみだ。
ところで何を今さらな話だが、あの巨大エイプは、このシリーズでは「 キングコング 」ではなく、一貫して「 コング 」だ。
「 キングコング:髑髏島の巨神 」も原題はKong: Skull Islandなので、邦題が先走っただけで「 コング 」が正しい呼称。
それは「 コング 」が最終的に「 キングコング 」となる物語を予定しているためなのか、何か権利関係の問題なのか、どっちなのだろうと気になる。
文・ライター:ぼのぼの