原題の「 Une belle course 」の意味を調べてみると”ある美しきドライブ”とでも訳せようか。
不安なのはcourseの訳で、どうやら「 タクシーの一走行 」「 料金 」という意味があるらしい。
だがcourseにはもう1つ、この作品にとってとても重要な意味がある。
それは「(時間の)流れ」「 生涯 」という意味。
邦題安直すぎやしませんか…という思いはさておき。
原題に込められた、あるいは原題から読み取れる意味を噛み締めると、本作がさらに味わい深いものになる。
実はけっこう前から公開を楽しみにしていた本作。
早速、新宿へと足を延ばして鑑賞してきた。
パリタクシー

あらすじ
ある日、タクシー運転手が乗せた女性客。彼女とのドライブが、ふたりの人生を変える旅となっていく。
原題
Une belle course
公開日
2023年4月7日
上映時間
91分
予告編
キャスト
- クリスチャン・カリオン(監督)
- リーヌ・ルノー
- ダニー・ブーン
- アリス・イザーズ
- ジェレミー・ラウールト
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー

白い歯を見せる素敵な笑顔のポスターから、ハピネスでピースフルな話なのだろうと思い込んでシートに腰を下ろしていた私は早々に驚かされる。
92歳のマドレーヌが語るのは自らの人生。
それはレモンとハチミツの味がするファーストキスの味であり、愛する息子マチューのことであり、”夫”による暴力の日々であり、報復に及んだ末の有罪判決だった。
1950年代のフランスは、妻は夫の許可なしでは働くことも口座開設もできない時代。
裁判では、暴力を受けていたマドレーヌの訴えは聞き入れられず、むしろ、”夫”の嘘が当然のように信じられてしまう。
下されたのは、あまりに長い25年もの懲役。
壮絶な人生だ。
華やかなパリの風景とは裏腹に、まるで大事なものから順番にこぼれ落ちていくような、苦しい人生だ。
ときには死のうとしたこともあったとマドレーヌは言う。
けれど彼女の表情に翳りはなく、佇まいにはどこか軽やかささえ感じられる。
不思議な人だった。
優しくて気高く、聡明でお茶目。
誰より自由で強いのに、傷つきやすくて歯を食いしばって生きてきた。
そんな彼女との時間を過ごすうち、最初は瞳に光の乏しかったシャルルも自然と笑みが増えていく。
降車シーンからラストまでは、温かいのに切ない。
涙が出るのに微笑んでしまう、そんな優しい気持ちになれる1本だった。
まとめ
冒頭の原題の話に戻りたい。
「 Une belle course 」は”ある美しき生涯”とも訳すことができる。
パリの街並みとともに歩んできたマドレーヌの波瀾万丈な人生も、たまたま出会った二人のドライブの結末も、紛れもなく美しい。
たとえ今が苦しくても、長い人生を歩んだ先で振り返ったときに美しいと思えるようでありたいと、マドレーヌのような軽やかさで劇場を出る。
いつもは冷たい新宿の春風が、優しく背中を押してくれたような気がした。