文・ライター:@ayahhi
きわめて個人的ながら、どこか思い当たるような、家族への思いとこじらせ。
美しい姉弟の内面のドロドロさが興味深い、人間らしさあふれる1本。
私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター
あらすじ
互いに仲が悪く疎遠になっていた舞台女優のアリス(姉)と詩人のルイ(弟)は、両親の事故がキッカケで久しぶりの再会を果たす。
原題
Frere et soeur
公開日
2023年9月15日
上映時間
110分
予告編
キャスト
- アルノー・デプレシャン(監督)
- マリオン・コティヤール
- メルビル・プポー
- ゴルシフテ・ファラハニ
- パトリック・ティムシット
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
姉のアリスを演じるマリオン・コティヤールの演技が圧巻。
その美しさはもちろんですが、弟に対する憎しみあふれる表情やヒステリックなふるまいには、純粋に恐怖を感じます。
優美なイメージで有名な彼女ですが、本作ではあえて「 嫌な女 」を怪演していると言っていいと思います。
終始彼女が魅力的に描かれるシーンは少なく、結局、何がそんなに憎しみを生んだのかは理解に苦しむところもあります。
ただ、それこそが家族間の関係性のややこしいところなのかもしれません。
理屈ではなく、感情でぶつかりあってしまう、兄弟という関係。
そこには、ほんのボタンの掛け違いや、ちょっとした誤解などが致命的に関係性を左右してしまうということも、往々にしてあるかもしれません。
そういう意味では、非常に現実的な物語だったとも感じます。
さまざまな伏線がはりめぐらされているように感じるのですが、実際のところ特に回収されることはありません。
たとえば、弟のルイが親友と一緒にユダヤ教の式典に参加した際、あたかも姉との性的な関係があったかのように描く場面があります。
また、姉と弟が同じベッドの上で眠るシーンや、弟が姉の夫に対する性的な優越感を言葉にするシーンも出てきます。
その場ではそれが姉との断絶の理由なのかと早合点しましたが、それはあくまで見る者の勝手な想像にすぎません。
また、アリスのファンのルーマニアからの移民の女性も女性も、キーとなる存在になるかと思いきや突然登場しなくなります。
冒頭の事故のシーンも、「 ただそこに存在した一瞬 」だけを切り取っている印象がありました。
どうやら、「 あえて語らない 」というのがアルノー・デプレシャン監督の持ち味のようです。
そうした一筋縄ではいかなさが、フランス映画の粋ということなのでしょうか。
見終わった直後は理解に苦しむ点もありますが、それこそが人間であり家族であるという、理屈では説明できない存在そのものなんだろうな、と感じさせる深みのある1本でした。