「 アフターサン 」感想レビュー
文・ライター:@ayahhi
憂うつに彩られた、父と娘の真夏のかけがえのない時間。
痛々しくも愛おしい愛の記憶がまぶしい良作。
アフターサン
あらすじ
当時11歳だったソフィは、31歳の父親(カラム)とリゾート地で夏休み休暇を過ごした。20年後、当時の父と同じ年齢になったソフィは、その当時、撮影したビデオ映像を振り返り、大好きだった父との記憶に思いを巡らせる。
原題
Aftersun
公開日
2023年5月26日
上映時間
101分
予告編
キャスト
- シャーロット・ウェルズ(監督)
- ポール・メスカル
- フランキー・コリオ
公式サイト
作品評価
- 映像
- 脚本
- キャスト
- 音楽
- リピート度
- グロ度
- 総合評価
考察レビュー
父カラムを演じるポール・メスカルと娘ソフィを演じるフランキー・コリオの他人とは思えない、自然体で共感を呼ぶキャラクターが大きな魅力です。
離婚により、普段は離れ離れで暮らすふたり。
11歳になるソフィは、思春期に突入する直前。
背中の日焼け止めを父に塗ってもらうなど、父と娘の関係性としてはややドキッとするとこともありますが、そこはまだ幼さの残るソフィ。ほほえましい関係性がたしかに存在しています。
しかし、解放的なリゾートで奔放にふるまう客たちにソフィの世界への好奇心や、性的な関心は高まるばかり。
ささやかなロマンスも経て、ソフィは父と過ごすバカンスの中で確実におとなへの階段をのぼります。
そんな、自分の世界を拡大するソフィとは対照的に自身の内面の難しさ、ひいては生きづらさを色濃くしていく父。
その対比が切なく、哀しく結果的にソフィもその切なさ、哀しさを断ち切らずに生きている姿が映し出されるのですが、
それはハッピーエンドではないものの誰かが評価する対象ではないように感じました。
その描き方のリアルさにも好感を持ちました。
最後のシーンで聞こえる街の喧騒は、おそらくNY。
どうやらそこは、スコットランドに生まれたソフィが自分で選んだ生活拠点のよう。
故郷に「自分の居場所だ」と感じられなかった父がソフィに伝えた「生きたい場所で生きろ」を実践しているのだな、と安心したような気持ちになります。
成長し、かつての父(おそらくは享年)と同じ31歳になったソフィは、同性パートナーと一緒に赤ちゃんを育てていました。
本作の監督であるシャーロット・ウェルズ氏もスコットランド出身でNYが拠点と聞くと、やはり自叙伝なのかと想像してしまいますが、
主体的に、人生を選択し歩んでもそこには常に現実と、切なさと、哀しさも同居するというありのままの姿を見たように感じ、ひときわ共感が増しました。
最後に
きれいな映像に惹かれて見るとびっくりするくらい、人間の内面の暗さを描いた作品です。
しかしそれこそが魅力な、忘れがたい一本です。